
景気回復継続シナリオを維持
4~6月期GDP(国内総生産)統計(1次速報)の発表を踏まえて、野村では日本経済の見通しを改定した。なお今回の改定から25年度が見通し期間に加わった。
改定後の実質GDP成長率は、22年度(実績)の前年度比+1.4%に続いて、23年度同+2.1%(前回23年6月8日時点:同+1.6%)、24年度同+0.5%(同+0.9%)、25年度同+0.9%となった。23年度は外需(純輸出=輸出-輸入)を軸に上方修正、24年度は外需の寄与度が23年度から反落することで潜在成長率(年率+0.5%程度)近くまで下方修正した。25年度は個人消費や設備投資にけん引されて回復しよう。
ただし日本経済は23年10~12月期から24年1~3月期にいったん中弛み局面を迎える可能性が高い。要因としては、①23年前半に大きく落ち込んでいた輸入が同年後半に増加(他の条件を一定とすると、輸入の増加はGDP の押し下げ要因)、②米国経済のマイルドな後退を背景とする輸出の一時的な失速、③公共投資の減少や政府最終消費(コロナ関連支出など)の反落などが挙げられる。

コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率(前年度比)は22年度(実績)の前年度比+3.0%に続いて、23年度同+3.0%(前回23年6月8日時点:同+2.7%)、24年度同+1.5%(同+1.1%)、25年度同+1.1%となっている。
実質GDPが23年1~3月期、4~6月期に潜在成長率を大きく上回る回復を実現したことで、上述した景気の中弛み局面を含めても、日本では需要超過(実際の実質GDP >潜在GDP)の状態が続きやすい。加えて、24年、25年の春闘においてはいずれも1.8%程度のベースアップ(定期昇給を除く賃上げ率)を野村では予想している。
こうした中、より基調的な物価動向を映し出すコアコアCPI(アルコール以外の食料、エネルギーを除く総合)で評価したインフレ率は24年半ば以降、前年比+1%台半ば近辺で安定するとみる。つまり、コアCPI インフレ率が下がる中でも、インフレの粘着性は徐々に高まるとみている。
金融政策シナリオを変更
従来、野村では、景気の底堅さを念頭に、24年春闘における賃上げの継続さえ確認されれば、YCC(長短金利操作)およびマイナス付利の撤廃が視野に入ると見込んでいた。しかし、景気の中弛み局面や下振れリスクへの配慮も求められる中では、24年春闘での賃上げが確認されるだけではなく、その後の景気の足取りも見極める必要性が高まったといえる。

そこで野村では、日銀の金融政策シナリオを以下のように変更した。
第1に、YCC の撤廃時期を24年10~12月期に先送りする(これまでは、24年4~6月期を有力視したうえで同年前半以降と見ていた)。24年春闘での賃上げ継続に加えて、同年春闘後の景気回復の継続が確認されれば、持続的で安定的な2%インフレの実現を日銀として見通せる状態に至るであろう。米国を含む海外経済も24年後半には好転していると予想され、これも景気や物価を巡る下振れリスクの低下に貢献するだろう。こうした中、24年10~12月期のYCCの撤廃を見込む。
第2に、マイナス付利の撤廃時期も25年以降に先送りする(これまではYCCの撤廃と同様、24年4~6月期を有力視したうえで同年前半以降と見ていた)。日銀の内田副総裁は8月2日の講演で、マイナス付利撤廃の決断は、「引き締めが遅れて、2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスクの方がより心配される状況」でなされるとした。このような状況に至る時期を現時点で明示することは非常に難しい。しかし、賃金増や景気回復のペースの観点に立つと、少なくとも25年より前にそのような状態が実現する姿をメイン・シナリオとみなすことには無理があろう。そこでマイナス付利の撤廃は25年以降に先送りする。
なお、日銀がプラス金利政策や量的引き締めを採用する局面は、25年までは想定されない。
金融政策については、リスク・シナリオを2つ挙げられる。まず、日銀が想定より早い23年後半にも持続的で安定的な2%インフレの実現を視野に入れるシナリオ(確率20%)である。この場合、YCCの撤廃は23年10~12月、マイナス付利の撤廃は24年4~6月期以降にいずれも前倒しされよう。
次に、景気が鈍化し、物価や賃金の上昇の持続性が喪失されるシナリオ(確率20%)である。この場合、マイナス付利に加えてYCC の撤廃も25年以降に先送りされよう。
(野村證券経済調査部 森田 京平)
※野村週報 2023年8月28日号「焦点」より
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