日本株堅調の背景に3 つの要因

8月は、TOPIX(東証株価指数)が欧米の株価指数に比べて底堅く推移した。

この背景には、①日銀による長短金利操作の「柔軟化」によって金融政策面からの悪材料がいったん出尽くし、②日本企業の23年度第1四半期(Q1)決算が総じて堅調、③インバウンド(訪日外国人)期待の再加速(中国政府が8月10日、日本等への団体旅行解禁を発表)、といった要因が重なっている。

注目したいのは、5~6月の日本株高と状況が似てきている点だ。上記3要因を振り返ると、植田総裁初会合(4月28日)を無難に通過、主要企業の期初業績見通しの堅調さ、春先のインバウンド急回復、といずれも株高材料になったことと符合する。

この間、日本経済のデフレ体質脱却および企業の統治姿勢の改善に対する期待感も維持されていよう。企業の取り組みの成果は、例えば持ち合い解消売りとみられる事業法人の株式売り越しに表れている。

一方、投資家の関心は5~6月の「輸出・大型・高ROE(株主資本利益率)」への一極集中から、より内需業種寄りへと広がるとみている。

8月の株価動向をみると、内需株の優勢が目立っている。ドル高・円安の進行と逆行して内需株が優位となっている理由としては、Q1決算で外需不振(半導体不足の解消で生産活動が回復した自動車関連を除く)/内需堅調と明暗が分かれたことに加え、中国景気の先行きに対する警戒感が強まっていることも影響していよう。

日本独自のポジティブな側面として、国内のインフレ定着の恩恵に引き続き注目したい。この点に関しては、海外投資家の関心も高まっている。推奨セクターは不動産、システム・アプリケーション、インバウンド関連、および食品とする。全体として世界の景気循環に対するディフェンシブ性を重視している。なお、インバウンド関連銘柄は、コロナ前水準への需要回復をまだ織り込めておらず、割安感が残る。

外需株には慎重スタンスを維持する。特に中国景気への業績感応度が高い企業では、会社予想の下方修正が後手に回っている印象だ。当面は業績見通しの悪化と共に株価騰落率が劣後する可能性に留意する。

23年末のTOPIX 予想値を引上げ

ただし、全体観としては、中国景気リスクが日本株の下落トレンドに直結するとは見ていない。

第一に、海外投資家は5~6月に、中国株の下落局面で日本株買い(特に現物)を加速させた。日本株強気の見方が中国景気上振れを前提としていた様子は見られない。

第二に、国内主要上場企業の対中国売上高比率は8.6%と、直接的な比率はそれほど高くない。米中ディカップリング(非連動性)が生じている現在では、間接効果を含めた影響は過去より小さいと見られる。

第三に、中国の経済活動のうち特に落ち込みが激しい分野は、住宅販売契約(直近ピーク比で約6割減)、対内直接投資(同約8割減)などで、追加的な下振れの余地が狭まってきている。

前述の通り、主要企業のQ1決算では外需企業が不振であったが、全体では売上高が想定通りの伸びを見せ、営業利益率は野村のトップダウン(ストラテジストからの立場)予想を上回った。まだ原材料高の影響が残ると見ていたが、想定よりも早く緩和されたり、値上げによって収益性が改善したりという動きが見られた。

また、米国経済の底堅さと原油価格上昇によって米期待インフレ率が高まり、為替市場では再び円安ドル高が進んだ。

こうした動きを踏まえて、8月15日付で野村のTOPIXのEPS(1株当り純利益)のトップダウン予想と日本株見通しを上方修正した。新たな予想値は、23年末のTOPIX/日経平均株価が2,400ポイント/34,000円(従来: 2,350ポイント/34,000円)である。

TOPIX予想値を算出するにあたって、24年度予想EPS156.6に対して従来と同じくPER(株価収益率)15.3倍を適用した。なお、日経平均株価の予想値を据え置いたのは、米金利上昇によって割安株(日経平均株価よりもTOPIXにおける構成比が高い)が優位となり、NT倍率(日経平均株価とTOPIX との比率)が低下したことを反映した。

(野村證券市場戦略リサーチ部 元村 正樹)

※野村週報 2023年9月4日号「焦点」より

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