米国のアルテミス計画によって月面開発の機運が高まったのを受けて、建設業界は月面にも現場を拡大しようと、研究開発や実証などの取り組みを進めている。

2019年5月に米国が発表したアルテミス計画は、20年代の月面有人探査、30年代の火星有人探査を目指している。米国、日本など28カ国の合意の下、国際的な協力体制によりプロジェクトが進められている。

同計画では、居住施設を伴う宇宙探査の拠点を月面に開発することが構想されている。また、月面に水資源が存在する可能性が示唆されていることから、水を電気分解して得られた水素と酸素を活用し、ロケット用のエネルギーの補給基地として活用する可能性もある。

アルテミス計画では、NASA がプロジェクトの実務を民間企業に委託したり、国際的な分業体制で役割分担がなされたりしている。日本企業にもプロジェクトの実務に関与するチャンスがあり、国土交通省が主導する宇宙無人建設革新技術開発推進事業には、ゼネコン、建機メーカー、大学などが参画している。同事業は30年頃からの月面での拠点建設を目指して、月面での建設に必要な技術の開発を推進している。技術分類は、①無人建設、②建材製造、③簡易施設建設に大別される。

月面では重力が地球の6分の1であり、位置を測位するGPS衛星もない。地球との通信では3~8秒の遅延が生じるなど、建設作業を行う環境が地上とは大きく異なる。無人建設では、通信遅延下での遠隔操作、GPS衛星がない環境下での施工方法、月面で最適な建機の形状・重量・掘削方法などの研究開発が進められている。

また、地球からロケットで月面に物資を運ぶコストが1億円程度/ kgと高額で、物資のサイズがロケットの大きさに制約される、などの課題もある。建材製造では、月の砂を焼き固めて建材に活用する技術が、簡易施設建設では、地上でコンパクトに折り畳むことで輸送コストを削減し、月面で展開できる居住施設が、開発されている。

建設業界は、人手不足と人材の高齢化に対応する必要があり、国交省の事業で開発した月面向け技術は地上での建設でも活用が期待されている。月面での拠点開発に向けて、建設技術の今後の開発動向に注目したい。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 高比良 正幸)

※野村週報 2023年9月11日号「新産業の潮流」より

※掲載している画像はイメージです。

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点