企業統治や企業価値向上へ注目が回帰
2023年6月の株主総会は、過去数年にわたり企業活動に少なからず影響を与えてきた新型コロナウイルス感染拡大が落ち着きを見せる一方、地政学リスクやエネルギー価格上昇が経済活動へ与える影響などが懸念される中で行われた。
図表は23年6月開催の株主総会における主な会社側提案議案の平均賛成率と各議案の最大値、最小値である。参考として22年6月株主総会における平均賛成率も併せて示した。
この中で最も注目されるのが取締役選任議案である。取締役は、社外取締役とそれ以外の取締役に分かれる。前者は近年その役割の重要性と注目度が一段と高まってきており、後者は会長や社長といった企業経営上重要な役職に就くものが含まれ、一般には社内取締役と呼ばれることが多い。
取締役選任議案の賛成率をみると、いくつか気づく点がある。まず、平均賛成率は94~95%と非常に高いが、中には可決要件(過半数)ぎりぎりの50%台という事例もある。2点目は、社外取締役の方が社内取締役に比べ平均賛成率が高い。3点目は、22年と比較して、社外取締役選任議案の平均賛成率は上昇しているが、社内取締役は逆に低下している。
これらのことは、株主の関心が改めて企業統治や企業価値の向上に向いてきたことと関係が深い。社内取締役の賛成率が低い事例は、不祥事を起こした企業や、政策保有株式を多く保有し、資産効率性の低い状況が継続している企業、女性役員の不存在や社外取締役の数が少ない企業の経営トップなどでみられている。また、社外取締役では、経営陣の監督を行う上で重要な独立性の要件を満たさない場合などで賛成率が低くなっている。
「企業価値向上の後押し」が重要な役割に
取締役選任議案と並んで23年株主総会の特徴が表れたのは株主提案である。まず、近年非常に関心の高い環境関連の株主提案、いわゆる脱炭素化に向けての温室効果ガス削減目標とその達成に向けた移行計画の提示などを求める提案に関しては、10%台後半~20%台前半の賛成率が中心であったが、環境に関する関心の高さから考えると賛成率はやや伸び悩んだ感がある。
この理由としては、前述した企業価値向上へ株主の関心が回帰してきたことや、温室効果ガス排出削減計画等を公表する企業が増えてきたことから、株主としてはまず企業の取り組み状況を見ていく姿勢をとっていることが考えられる。
一方、アクティビスト(物言う株主)からの政策保有株式削減や資本効率改善を求める提案の中には20%台の賛成を集めるものも見られた。従来、アクティビストの株主提案は短期的視野で、自分たちの利益追求が目的と考えられ、賛成率も低いものが多かった。しかし、最近では、他の株主にとっても関心の高い中長期的、持続的な企業価値向上への提案を行うことで、賛同を集めやすくなってきたと考えられる。
日本で企業統治改革が成長戦略の重要施策として取り上げられてから10年が経過した。この間、社外取締役の増員や株主還元の拡大、取引関係の構築と発展を主な保有動機とする政策保有株式の削減など、一定の成果は表れているが、相当数の日本企業が抱える資産効率性や収益性の低さという点ではなお改善の余地がある。地球環境の問題への関心が高まる中、企業、さらには経済社会の持続可能性が強く意識されるようになった。
一方、政策保有株式の削減はいわゆる「安定株主」の減少につながるとともに、企業と株主との関係も変わってきた。従来株主は保有先の企業経営に対し意見を述べるなどにより関与することは少なかった。それが、企業、株主両者の建設的な対話(エンゲージメント)を通じ、企業、特に企業経営陣が健全にリスクを取ることで企業価値の中長期的、持続的な向上を図る「後押し」をすることが株主の重要な役割となってきた。
機関投資家に比べ個人投資家はこうしたエンゲージメントの機会は総じて少ないかもしれないが、株主総会や個人投資家向け説明会の場などを通じ、企業に対し自らの考え方を積極的に伝えることで企業とのコミュニケーションの拡充を図っていくことが肝要であろう。
(野村資本市場研究所 西山 賢吾)
※野村週報 2023年9月18日号「焦点」より
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