生物多様性に関するグローバルな目標である「昆明・モントリオール2030年目標」が2022年12月に漸く採択された。気候変動における「パリ協定」に相当する目標が定まり、企業等が生物多様性ひいては自然関連課題で取り組むべきことが明確化された。

昆明・モントリオール2030年目標の中には、企業や金融機関が生物多様性へのリスク、依存度、影響を評価し、開示することに関する目標も盛り込まれた。そして、この目標達成に向けた自然関連課題を評価し、開示する枠組を、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が構築しており、23年9月にも最終版の枠組(v1.0)を公表する予定である。

TNFDは、気候変動関連のリスクと機会を評価し、開示する「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の自然資本版である。TCFD は17年に気候関連財務情報開示の枠組を公表し、日本企業の間でも利用が進んでいる。例えば、日本取引所グループが22年10月に実施した調査では、JPX日経インデックス400の構成銘柄のうち、TCFD 提言のすべての項目について開示した企業が25%強の102社に達した。

TNFD による枠組構築の背後には、気候変動のグローバルな目標を達成するには、自然資本の喪失に歯止めをかけ、自然の保護、回復が必須であるとする、科学に基づくコンセンサスがある。自然資本の喪失をもたらす5つの主要因の一つに気候変動が含まれるなど、相互の関連性が高い。

こうした状況に鑑み、TNFD の枠組は、TCFD に平仄を合わせている。最終版一歩手前の案では、ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、指標と目標という4本柱が設定されているが、これらはTCFDとほぼ同じである。

他方、自然関連課題への取り組みでは、目標への達成度合いを測る指標の設定が難問となっている。気候変動については温室効果ガス(GHG)排出量が単一指標として用いられている。これに対し、自然資本の場合、対象とする場所の気候が異なると、影響も異なるため、GHG 排出量に相当する単一指標の設定は一筋縄にはいかない。

こうした課題を抱えつつも、自然資本に関する開示の重要性は支持されており、今後の動きを注視していきたい。

(野村資本市場研究所 林 宏美)

※野村週報 2023年9月18日号「資本市場の話題」より

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