女性の活躍は喫緊の課題に

岸田内閣が2023年6月に決定した「女性版骨太方針」では、東証プライム市場上場全企業を対象に、2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指すとされました。背景には、日本の女性役員比率は主要7ヶ国(G7)で最下位と、国際的に大きく立ち遅れていることが挙げられます。政府は、女性活躍推進の加速化を喫緊の課題としています。

女性活躍企業の「なでしこ銘柄」

経済産業省と東京証券取引所では、女性活躍推進に優れた上場企業を選定し、なでしこ銘柄として紹介しています。令和4年度に選定された15銘柄は、上場企業の中でも女性役員比率が高く、同比率を持続的に向上させている傾向にあります。企業の意思決定層である女性役員比率が増加すると、幅広い視点での議論を企業経営に取り込むことが可能となり、結果として企業価値の向上につながることが期待されます。

(注1)令和4年度なでしこ銘柄は、メンバーズ、双日、味の素、大塚HD、資生堂、出光興産、古河電気工業、LIXIL、小松製作所、アイシン、丸井グループ、SOMPO HD、三井不動産、商船三井、東京瓦斯の15銘柄。
(注2)令和4年度なでしこ銘柄の女性役員比率のうち、2016~2017年度は資生堂・小松製作所を除く。2018年度は小松製作所を除く。
(出所)内閣府男女共同参画局、各会社資料(有価証券報告書「役員の状況」)より野村證券投資情報部作成

投資家からも重視される項目に

女性役員比率に限らず、女性活躍情報はESGの要素を含み、企業価値を毀損しない観点から近年投資家心理に影響を与えています。内閣府が機関投資家向けに実施したアンケート調査(令和4年度調査)では、女性活躍情報を投資判断に活用していると回答した割合は全体の約3分の2に上りました。従来までのリスクとリターンという2次元的な捉え方に、個々の企業のESGスコアすなわち「環境や社会に与えるインパクト」という軸が加わり、3次元的に投資判断が行われ始めています。ESG投資が拡大する中で、社会にインパクトを与える女性活躍推進、すなわち多様性確保への取組みの重要度が増してゆくことが予想されます。

(出所)PRIホームページを参考に野村證券投資情報部作成

ご参考:なでしこ銘柄の一例

・双日(2768)

キャリアアップの機会拡大に注力し、女性総合職の海外・国内出向経験割合を2023年度に40%(2020年度実績は19%)を目標としている。

・味の素(2802)

2030年度までに女性取締役比率30%と女性ライン責任者(意思決定権を持つ責任者)比率30%の実現を目指すとしている。

・大塚HD(4578)

1980年代より経営トップ自らダイバーシティを推進している。女性研究者3名により開発された「ファイブミニ」は発売以降ロングセラーとなっている。

・資生堂(4911)

管理職候補の女性の適性に合わせた個別の育成プログラムを策定している。2030年までに全階層の男女比率を50:50にするとしている。

・出光興産(5019)

2030年度までに女性採用比率50%以上(2022年11月時点では同23%)、女性役職者比率を10%以上(同3%)、男性育児休業取得率100%(同56%)を達成することを目標としている。

・古河電気工業(5801)

女性社員の絶対数が少ないことを最大の課題と捉え、管理職層の女性比率を2030年度に15%とすることを目標としている(2021年度実績は同3.8%)。働き方改革・D&I委員会の委員長を社長自らが務め、女性活躍推進をフォローしている。

・LIXIL(5938)

2030年までに取締役・執行役員の女性比率50%、グローバルの女性管理職比率30%を目指すとしている。

・小松製作所(6301)

2011年度に初の女性執行役員、2018年度に初の女性取締役が就任している。女性管理職比率を2024年度までに13%(2020年度実績は同9.5%)にすることを目指すとしている。

・アイシン(7259)

現場の女性社員と経営トップで施策を検討する体制を構築している。女性ならではの視点を取り入れ、世界初の非接触型導入美容器「AIR(アイル)」を開発するなど、イノベーション創出につながっている。

・丸井グループ(8252)

男性社員育休取得率は5年連続100%を達成している。「女性上位職志向比率」を重視し、2025年度に今よりも上のグレードを目指す女性社員の割合を75%(2022年度実績は同58%)にすることを目標としている。

・SOMPO HD(8630)

グループCEOや役員など重要ポストにおけるサクセッション・プランを策定し、女性候補者比率を将来的に50%にすることを目標としている(2020年度実績は同25.4%)。

・三井不動産(8801)

女性の視点をビジネスや組織に反映するため、リーダーシップを発揮し組織全体に影響力のある管理職の女性比率を2030年に20%(2020年実績は同4.5%)を目標としている。

・商船三井(9104)

陸上職の女性管理職比率を2025年度に20%(2019年度実績は同12.8%)にすることを目標としている。2016年度には女性活躍への取り組みが評価され、「女性活躍の先進企業」として株式会社三井住友銀行が取り扱う「SMBCなでしこ融資」を受けた。

・東京瓦斯(9531)

2023年度の女性管理職比率は9.8%(2013年度5.3%)で、3人目の女性役員が誕生した。2025年度の同比率目標は11%以上としている。

(注1)令和4年度なでしこ銘柄15銘柄のうち、流動性を鑑み、時価総額が1,000億円以上(2023年9月7日時点)の14銘柄について掲載している。
(注2)HDはホールディングスの略。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 小野 由梨佳)

※画像はイメージ。

ご投資にあたっての注意点