過去最高となった概算要求額

9月5日、財務省から2024年度予算の一般会計概算要求・要望額が公表された。要求総額は、22年度の111兆6,559億円を上回る114兆3,852億円と、過去最高となった。メディアにおいては、要求額が過去最高を記録した点を含め「110兆円を上回るのは3年連続で、100兆円を超えるのは10年連続」(23年9月5日付日本経済新聞電子版記事)など、際限ない歳出の膨張を問題視する論評が目立つ。

財政規模の拡大に歯止めが効かなくなることも問題ではある。しかし、24年度予算概算要求に関しては、むしろ歳出の硬直化の方を問題視するべきであるように思われる。歳出の硬直化とは、事後的に柔軟に増減することが困難な支出の全体に占める割合が上昇することを指す。

日本の財政の歳出を硬直化させる要因としては、高齢化の進行に伴う社会保障関係費の増加がもとより存在していた。それに加え、22年12月16日に閣議決定された防衛力整備計画(23~27年度の5カ年)では計画実施に必要な防衛力整備経費の水準が43兆円程度とされ、一般会計予算における防衛関係費は27年度に8兆9,000億円程度まで増加していくことになる。岸田政権の下で打ち出された「次元の異なる少子化対策」も、歳出硬直化に繋がり得る一因となる。6月に策定された「こども未来戦略方針」においては、こども家庭庁予算を30年代初頭までに倍増させ、同方針の少子化対策加速化プランの下でそのうち「3兆円半ば」の規模増額を3年間で実現させるとしている。24年度予算は、これら新たな歳出固定化・硬直化要因が現実の予算に組み込まれはじめるタイミングでもある。

24年度予算概算要求では、国債費の増加も目立ち、これも歳出の硬直化要因と評価できる。概算要求における国債費は、28兆1,424億円と、23年度予算比で2兆8,921億円増となっている。概算要求に当たっての国債の元利払いの想定金利を1.5%と、23年度予算政府案決定時の1.1%から0.4%ポイント、同概算要求時点の1.3%から0.2%ポイント引き上げたことが影響している。「金利のある世界」の再来を前提とすれば、相応の国債利払い費が財政コストとして固定化されるのは必然である。

歳出構造の柔軟化は急務

本来あるべき姿としては、こうした歳出の硬直化・固定化に対応し、備えるために、①安定的な財源を確保する、②更なる歳出改革により裁量的な支出の部分で適切な効率化や弾力化を行う、といった取り組みが必要となる。これまでの議論を見る限り、①の点では、増税を視野にいれた税制改革、社会保険料改革は先送りが続いている。②の点では、裁量的支出の歳出効率化に向けた改革が進むどころか、経済対策と補正予算編成を通じた比較的大規模な歳出の追加が半ば常態化している。

岸田首相は、9月13日の内閣改造と自民党役員人事を経て、臨時国会に向けた経済対策の策定に入る見込みである。9月10日にG20(20カ国首脳会議)終了を受けて行われた記者会見では、「新たな体制で思い切った経済対策をつくり、早急に実行していく」「必要な予算にしっかりと裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行したい」と表明しており、今年度も補正予算編成によって歳出規模がさらに拡大する流れは不可避となりつつある。

今次概算要求においても、「新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費並びにウクライナ情勢経済緊急対応予備費」については、金額を定めない事項要求扱いとされており、後の更なる歳出膨張の萌芽を残しているとも評価できる。

当初予算編成において必要な政策経費を精査した上で予算を措置しながら、事後的に大規模な補正予算編成が慣例化することは本来避けなければならないはずだが、逆に事後的に相当規模で歳出を拡大させる必要が見込まれるのであれば、その分、当初段階では歳出構造を十分に弾力化しておく必要があるとも考えられる。

さらに中長期的にみれば、防衛力大幅強化の動機ともなっている地政学的リスクの増大、日本が地理的な特性上避けることのできない南海トラフ地震などの大規模災害リスクの存在を踏まえた場合には、有事の際に相応の規模の歳出拡大余地を確保し、また、そうした緊急の大規模歳出によっても財政運営の持続可能性が損なわれない状態を維持する必要がある。財政の歳出構造は予め相当程度の柔軟性を確保しておく必要があるとも言える。このような点でも、24年度予算概算要求における歳出構造の硬直化は憂慮すべき問題であろう。中期的な防衛力強化、少子化対策がスタートするのを契機として、歳出構造の硬直化を如何に回避するかの議論とそのための仕組みづくりが急がれるところであろう。

(野村證券経済調査部 美和 卓)

※野村週報 2023年9月25日号「焦点」より

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