訪日外客数は回復、購買力が強い
日本政府観光局(JNTO)によると2023年7月の訪日外客数は232万人と19年の同月に比べ78%水準に回復している。19年時点で大きな比率を占めていた訪日中国人客数は同30%水準の31万人と少ないが、東南アジアや欧米からの訪日客がコロナ前を超える水準に伸びている。
訪日客が急増している背景には他の国に比べて日本の物価上昇が強くないうえに、コロナ前に比べて円安が進展しており、旅行先としての魅力が高まっていることがある。特に経済成長率の高いフィリピン、ベトナム、インドネシアなどの訪日客はコロナ前に比べて購買力が強くなっていることから、日本での旅行支出も拡大している。
野村では訪日外客数予想を23年が19年比70%水準の2,229万人(22年は383万人)、24年が同92%水準の2,923万人、25年が同103%水準の3,281万人としている。空港での人員不足や航空機の小型化によって運航能力をコロナ前に戻しにくいことから、訪日外客数はコロナ前の水準に向けて緩やかに回復していくとみている。
コロナ前の訪日客は、格安航空会社(LCC)や安価なホテルを活用する傾向や、団体旅行などで手ごろな価格で日本を訪れる傾向があった。だが、円安、訪問元の自国の経済成長により訪日客は購買力が高くなっており、支出では高額商品の購入や高価格帯のホテルの利用がみられるなど大きく傾向が変わってきている。
実際、日本百貨店業界の免税売上高をみると、消耗品売上高はコロナ前よりもまだ低いが、高価格商品が含まれる一般物品売上高はコロナ前の水準に回復している。なお、消耗品売上高にはコロナ前に中国人が多く買っていた化粧品などが含まれる。
鉄道会社が運営するホテルの動向をみると、4~6月期時点で高価格帯のホテルは客室稼働率の回復ペースが速く、客室単価はコロナ前を上回っている。
ホテルでは清掃などサービススタッフの人員が不足しており、稼働率をコロナ前の水準以上に高めることは難しい。その一方で訪日客の増加がけん引し、客室単価が上昇しているため、収入はコロナ前並みに回復している。購買力の高まった訪日客が日本の高額消費を支える傾向は当面続こう。
航空会社の業績が急激に改善
23年4~6月期のANAホールディングス、日本航空の営業利益はそれぞれ438億円、309億円と19年や18年の同期の水準を上回り、利益回復が急速に進んだ。
業績回復をけん引したのは国際線旅客のイールド(旅客キロ当たりの単価)の上昇である。ANAホールディングスの資料によると4~6月期の国際線旅客のイールドはコロナ前の19年に比べ約1.4倍と高く、旅客数がコロナ前に回復していない状況ながらも国際線旅客収入はコロナ前を上回った。
コロナ禍で航空機の小型化、退役が進んだことで国際線貨物もスペースに余裕がなく、単価がコロナ前よりも高止まりしている。コロナ禍での物流混乱が収束したことから、航空機を使った貨物輸送は大きく落ち込んでいるが、収入はコロナ前を上回って推移している。
また、航空会社はコロナ禍による旅客の急減に対応するために新規採用の凍結、運航機材数の削減など構造的なコスト削減に取り組んできたことから、損益分岐点がコロナ前に比べて低下している。特にANAホールディングスは規模よりも収益性、イールドを重視した経営に転換したことで利益の回復力が強い。
株式市場では今後の世界的な運航量の回復が進むことで、国際線旅客のイールドが低下してくるリスクが懸念されている。これに対して、野村では高いイールドが今後も持続するとみている。訪日外国人に加えて日本人の出国もビジネス中心に回復傾向にあるが、空港での人員不足などで運航量を戻しにくい傾向が当面続くためである。
ドルベースの料金にも注目したい。国際線旅客のイールドはドルベースでは19年比で1.2倍程度の上昇にとどまり、米国などの物価上昇率の高さを踏まえると、日本のエアラインの単価は他の航空会社よりも相対的に手ごろな印象と考えられる。
また、日本のエアラインのサービス競争力は世界の中でも高く、訪日外国人から手ごろで高サービスを受けられる航空会社として選ばれ続けていくと考えている。
海外の航空会社はコロナ禍で大規模な人員整理をした会社が多く、十分に運航量を戻せない。日系のシェアはコロナ前に比べ上昇しており、今後も定着しよう。
野村では24年3月期の営業利益をANAホールディングスが1,639億円、日本航空が1,380億円と予想する。国際線旅客の回復の継続で、25年3月期の増益の確度も高い。野村ではそれぞれ1,828億円、1,620億円と予想する。
(野村證券エクイティ・リサーチ部 広兼 賢治)
※野村週報 2023年9月25日号「産業界」より
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