2006年の時点で、Netflixはオンラインで注文を受けてDVDの貸し出しを行う企業にすぎなかった。同社は顧客に対して、新しく借りてくれそうなDVDを推奨するアルゴリズムを使っていたが、大量の顧客行動データを上手く活用しきれていないと考え、このアルゴリズムの改良案の公募(コンテスト)を開始した。毎年の成績トップには5万ドル、初めて10%改良すれば100万ドルの賞金を支払うことにした。この発表を受けて、我こそはと考えた優秀(だがお金のない)プログラマーたちが次々にコンテストに参加した。結果は大成功で、翌07年には早速、成績トップのチームが7%の改良を実現したという。

これはデータサイエンスの時代の典型的な成功例で、特に「パーソナライゼーション」が使われている。「パーソナライゼーション」で、スマホのアプリも個人の年齢・性別・趣味嗜好に基づいて表示を変えることができる。「個人個人で異なるソリューションを提供するためのフレームワーク」ととらえると、行政サービスの制度設計や民間企業のマーケティング・ポイント付与・料金設定も応用分野に含まれる。

日本証券アナリスト協会の月刊誌「証券アナリストジャーナル」では、この23年7月から11月の間、「金融データサイエンス入門」シリーズとして、各回異なる識者から見た金融データサイエンスの論点を解説している。そこで頻繁に表れるのが、パーソナライゼーションの先にある社会全体の分析や考察である。個人や企業を点とし、多くの点を繋げた巨大なネットワークを扱い、そこでは人や企業の近さ(距離)、クラスター(やハブ)と言った特有の考え方が現れる。第3回を執筆されたマネーフォワードの瀧 俊雄氏は金融サービスの将来を占う上で、考えを社会全体の繋がりに進め、金融サービスの「大衆化」を軸にした議論を進めている。

“Connecting the dots”はSteve Jobsがスタンフォード大学の卒業式スピーチで使った言葉で、「人生の一見バラバラな様々な出来事(点)は、実は繋がっていて全体(ネットワーク)を形作っている」としている。データサイエンスの伝導者の言葉として見直せば深い含意が感じられる。今後もデータサイエンスは、社会ネットワークの質を高めていくだろう。

(野村證券クオンツ・ソリューション・リサーチ部 大庭 昭彦)

※野村週報 2023年10月2日号「資産管理」より

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