事業ポートフォリオ改革が進む

電機業界を取り巻く事業環境が大きく変化している。インフレ傾向による消費低迷、サプライチェーンの混乱、地政学リスクの高まり、マクロ景気の先行き不透明感の増大がみられる。とはいえ、総合電機や日系半導体各社の業績は比較的安定している。主要8社の営業利益は2023年度に前期比1%増益の2兆2,990億円を予想する。事業ポートフォリオの再構築が進み業績変動の大きい事業が減り、需要の強い分野のウエイトが高まっているためである。

00年からの10年間はIT バブル崩壊やリーマンショックまで総合電機の国際競争力が低下した時代だった。不採算事業や低収益事業から撤退し、自社の強みが生かせる分野に経営資源を集中させた。再編が進むと同時に収益力の強化と安定化が進んだ。

事業ポートフォリオを大きく入れ替えた代表例として日立製作所が挙げられる。かつて20社以上あった上場子会社は22年度にゼロとなり、日立Astemoも23年中に非連結化させる。コア事業である社会イノベーション事業にポートフォリオを集中し、グリーン、デジタル、コネクティブの3つの社会潮流に対応して資産獲得もした。

コロナ禍でも最高益を更新し続けた企業に富士電機がある。事業ドメインをエネルギー・環境と明確化し、利益の源泉である工場の体質改善に向け「ものつくり」を強化した。内製化・自動化の推進、グローバル調達、集中購買体制の成果を発揮した。

半導体業界の再編を経て誕生したルネサスエレクトロニクスはマイコン、アナログ、パワー、ソシオネクストはカスタム・ロジックと強みが発揮できる分野に注力することで収益性が高まっている。

デジタルとグリーンの成長領域に注力

中長期的な成長テーマとしてデジタルとグリーンは健在で、24年度以降の利益成長を牽引しよう。

デジタル領域では、海外でIT(情報技術)投資に抑制傾向があるものの生成AI(人工知能)やデジタルエンジニアリングの需要は依然強い。国内のIT投資意欲は旺盛で、以前は企業業績が悪化するとIT 投資が抑制されていたが、昨今のDX(デジタル変革)投資は企業の競争力に直結するため、予算削減対象にならない場合が多くなった。投資内容もコロナ禍において非接触や非対面対応のフロントシステム構築が優先されていたが、いよいよ基幹系システムの刷新需要が本格的に立ち上がってきた。

IT 企業各社は、請負主体の人月単価型事業モデルから、社会や顧客の課題を解決するソリューション型事業に転換を図っている。タイトな人的資源に対応して生産性を改善するため、開発成果の再利用、開発プロセスの標準化によるオフショアへのシフトを積極的に進めている。最近では生成AI の活用も模索している。このようにソリューションによる提供価値に見合う価格体系への変更と生産性の改善により、主要な大手IT 部門の収益性が向上している。

グリーン領域では、カーボンニュートラル(温室効果ガス純排出ゼロ)の流れからエネルギーインフラ投資が活発化し、創エネルギー、省エネルギー、エネルギー需給管理の全分野で事業機会が拡がっている。

創エネルギー分野では太陽光発電や風力発電の普及率上昇へ取り組みが進んでいる。実現のためには発電できる立地条件や電力系統につなぐための技術ハードルが上昇する。高圧直流送電技術、直流電源の整流化や交流化、直流電源への蓄電装置導入といった技術変化がエネルギー需給管理に不可欠となる。エネルギーネットワーク分野への投資は年間6,000億ドルに上る。こうした追い風もあり日立製作所のパワーグリッドの受注残高は23年6月末時点で3.6兆円に積み上がっている。

省エネルギー分野では、自動車の電動化をはじめ様々なエネルギー効率向上が図られており、キーデバイスとしてパワー半導体が注目される。グローバルに競争力を維持できている分野であり、各社積極投資を続けている。生産能力拡大とコスト競争力の強化のため、現在主流のSi(珪素)では12インチの製造ラインが24年から3社で本格離陸し、SiC(炭化珪素)でも24年から25年にかけて2社の新ラインの本格量産が始まる見通しである。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 山崎 雅也)

※野村週報 2023年10月9日号「産業界」より

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