企業価値向上への取り組みに注力

鉱業・石油元売会社のPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回った状態である。その要因としては、世界がカーボンニュートラルを目指す中で、中長期的に石油の需要の減少が見込まれることが挙げられる。PBR が1倍を下回る状況に対して、鉱業・石油元売会社各社は対策を講じている。

具体的な事例として、2023年4~6月期決算発表時に対策を発表したINPEX とコスモエネルギーホールディングスがある。

INPEXは①WACC(加重平均資本コスト、6%程度)を上回るROIC(投下資本利益率)の安定的確保の実現による資本効率の向上、②イクシス、アバディの成長など市場の信認を得る具体的な取り組み、③株主還元・投資家との対話強化を挙げた。特に株主還元は23.12期の1株当たり年間配当金を前期の62円から74円へ増額し、1,000億円の自己株式取得を行うとした。

コスモエネルギーホールディングスは収益力として中期経営計画の徹底と稼ぐ力の向上、資本政策として総還元性向60%以上の早期実現および事業ポートフォリオと資本効率の再点検の実施、成長期待としてNEW事業の着実な実現を打ち出した。また、資本政策では1株当たり年間配当金の下限額を200円から250円へ引き上げた。

また、23年7~9月期決算発表では出光興産とENEOS ホールディングスが対策強化を打ち出すか注目している。

出光興産は23年4月より始動した新中期経営計画でROIC7%の実現を掲げている。23.3期決算発表時には30年に向けた事業構造改革を通じて、PBR 改善に資する資本効率の改善を進めると共に、ROE(自己資本利益率)目標の上方修正についても今後議論するとコメントしている。

ENEOS ホールディングスは23年4~6月期決算発表時に企業価値向上への取り組みとして、① ROE を改善させエクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)をプラスにする、②エネルギートランジション実現への取り組みの加速を打ち出している。

企業価値向上への取り組みでは、稼ぐ力を向上させる具体的な方策を打ち出せるかが注目すべき点である。具体的には石油精製の収益性向上や成長事業の早期収益化などが挙げられるだろう。

原油価格の上昇は業績に追い風

原油価格(WTI)は10月20日現在、88ドル/バレル前後の水準である。原油価格は5月から7月にかけて70ドル/バレル前後で推移していたが、そこから20ドル/バレル近く上昇した。

原油価格が上昇した要因は、需要と供給の両面にある。需要面では中国を中心として新型コロナウイルス影響からの経済回復による需要増への期待などが挙げられる。供給面では① OPEC(石油輸出国機構)プラスが24年末まで協調減産を実施する、②サウジアラビアが23年末まで日量100万バレルの自主減産を実施して供給が抑制されている、③イスラエルとパレスチナの軍事衝突によって中東からの原油供給が不安定になる可能性、などが挙げられる。

原油価格の上昇は、鉱業・石油元売会社の業績にとってプラスに働く。鉱業会社では、原油生産のみならず、天然ガス生産も原油価格の影響を受ける。アジア・太平洋地域のLNG(液化天然ガス)価格は、原油価格に連動して決定する仕組みを導入していることが多いため、原油価格の上昇はプラスに働く。例えば、イクシスLNG プロジェクトが主な収益源であるINPEX の23.12期(7~12月期)の原油価格の感応度は、ブレント原油1ドル上昇で、親会社株主利益が20億円の増益と試算される。

また、石油元売会社では、石油精製の際に使用する燃料コストが上昇する点は業績に対してマイナスとなるものの、石油・天然ガス開発事業で販売単価の上昇がプラスとなることに加え、在庫評価益の計上が見込まれる。石油元売会社は法律(石油の備蓄の確保等に関する法律)によって、70日間分の石油を備蓄する必要がある。そのため原油価格が上昇すると、備蓄している石油(棚卸資産)の評価額が変動して評価益を計上することになる。例えば、ENEOSホールディングスでは、ドバイ原油1ドル上昇で、24.3期の在庫評価益が88億円、在庫影響を除いても4億円、各々営業利益が増加すると試算される。

株価もINPEX などの鉱業企業各社の株価は原油価格上昇と連動する傾向にある。一方、ENEOS ホールディングスなどの石油元売会社各社の株価は一定程度、原油価格の変動と連動しているものの、過去には業界再編による収益性改善の要因が、足元ではPBR 1倍割れ問題への取り組み状況を評価するなど他の要因も株価に影響しているとみられる。株価および業績を左右する原油価格動向は注視すべきだろう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 山﨑 慎一)

※野村週報 2023年10月30日号「産業界」より

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