米国の大学は、しばしば教育研究活動に必要な財政的資源を確保するために、資産運用に取り組んでいるが、その象徴的な事例がハーバード大学である。同大学の2022年度の総収入は約58億ドルであったが、その内訳は、資産運用収入が約39%、授業料・教育活動収入が約21%、研究収入が約17%、寄付金収入が約9%、その他が約14%であり、資産運用は同大学の経営を支える中核的な収入源となっている。

ハーバード大学の資産運用は、同大学の子会社であるハーバード・マネジメント・カンパニー(HMC)が担っている。HMC は、1974年に設立された非営利法人であり、ハーバード大学が将来世代の教育研究費を維持・拡大していくための財政的資源の確保を使命としている。HMC の最高経営責任者のナーブ・ナーベカー氏は、過去にコロンビア大学基金の運用業務に携わった経験を有し、最高投資責任者のリック・スロコム氏は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの創業者一族のファミリー・オフィスの運用業務に携わった経験を有している。

HMC は、株式や債券等の伝統的資産だけではなく、プライベート・エクイティ(PE)ファンドやベンチャー・キャピタル・ファンドなどのオルタナティブ・ファンドにも積極的に分散投資をしている。HMC のオルタティブ・ファンドへの投資額は、2018年度末の約276億ドルから22年度末には約424億ドルと約1.5倍になっている。特に、HMCのPEファンドへの投資額は、過去5年間で約2.6倍の約220億ドルとなり、ハーバード大学の運用資産総額約588億ドルのうち、約37%を占めた(22年度末時点)。このような積極的な分散投資も奏功し、HMC は、創業以来年率約11%のリターンを創出しており、年間で運用資産総額の約5%(過去10年平均値)をハーバード大学に拠出することで、同大学の教育研究活動を支援している。

日本の大学が、優秀な人材の獲得や、学生への経済的支援等を積極的に行なうためには、財政的資源を確保するべく、収入源の多様化を図る意義も高まるであろう。その一環で、投資部門における運用人材の登用や、オルタナティブ・ファンドも活用した分散投資などを検討する必要があるのではないだろうか。ハーバード大学の事例は、参考になるであろう。

(NOMURA HOLDING AMERICA 船津 太佑)

※野村週報 2023年10月30日号「資本市場の話題」より

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