先週:波乱含みの企業業績と地政学リスク

前週に一時16年ぶりの5%台に乗せた米長期金利(10年国債利回り)は、先週末(27日,金)に4.8%台とやや落ち着きを取り戻しました。しかしながら、株価に下げ止まりの兆しはありません。

一つの理由として、本格化する企業決算発表が市場の期待ほどには好調に推移していない点があります。

以下は10月13日(金)時点のS&P 500指数構成企業のポジティブサプライズ比率(注1)です。この統計では6-8月期の企業決算も含むため、既に32社が発表されたとみなされています。この時点では、全体の87.5%が純利益ベースで市場予想を上回る決算を発表していました

(注1)ポジティブサプライズ比率は、S&P 500 企業のうち決算実績がアナリスト予想平均を上回った企業の比率。2023年7-9月期には、2023年6-8月期決算、2023年8-10月期決算企業も含む。

(注2)直近4四半期平均とは2022年7-9月期~2023年4-6月期の平均。長期平均とは、売上高は2002年以降、純利益は1994年以降の平均。

(注3)LSEG(旧リフィニティブ)による2023年10月27日時点(売上高について32社、純利益について32社)の集計。

(出所)LSEG(旧リフィニティブ)より野村證券投資情報部作成

しかし、S&P500指数構成企業の半数近くが発表を終えた10月27日(金)時点では以下の通りとなっています。

(注)LSEG(旧リフィニティブ)による2023年10月27日時点(売上高について245社、純利益について244社)の集計。

(出所)LSEG(旧リフィニティブ)より野村證券投資情報部作成

純利益ベースで市場予想を上回る決算を発表した会社の比率は全体の77.6%まで低下しています。依然として直近4四半期平均の73.6%を上回っていますが、サプライズ比率の低下が市場のセンチメント悪化につながった可能性があります。クラウド事業の売上高が市場予想を下回ったアルファベットの株価が決算発表翌日に前日比10%近く下落するなど、最大手7社の中でも明暗が分かれています。

加えて、イスラエルによるガザ地区への地上侵攻への警戒が高まり地政学的リスクも意識されました。原油価格上昇→金利上昇→株価下落、といった金融市場への影響は現時点では限定的ですが、米企業業績に与える影響には引き続き注視が必要です。25日(水)に決算を発表したメタ・プラットフォームズの2023年10-12月期売上高見通しは市場予想を下回りました。当社は決算説明会で、10月に中東で紛争が勃発して以降、広告収入が軟調になっている点を挙げています。

Point1. 企業業績、発表後半戦で巻き返しなるか

7-9月期決算発表は折り返し地点を迎え、後半戦に差し掛かります。野村證券の池田チーフ・エクイティ・ストラテジストは、先週までの決算発表を受け「苦戦が目立つのが不動産、インダストリアル(特に運輸)、テクノロジー(特に情報サービス)の3業種。逆に、素材(化学、鉄鋼など)は上振れ優位。素材業種の業績改善は、中国景気のボトムアウトにも助けられているとみられる」と分析しています。個別銘柄を保有する投資家にとっては、セクターや銘柄の選別も重要な局面となりそうです。

今週は、30日(月)にマクドナルド、31日(火)にAI向け半導体でエヌビディアと競合するアドバンスド・マイクロ・デバイセズ、1日(水)に素材のアルベマール、2日(木)にアップルと、業界を代表する企業の決算発表が相次ぎます。

先週発表された米7-9月期GDP速報値は市場予想を上振れたものの、内訳では設備投資が前年同期比マイナスとなったことがネガティブ・サプライズでした。金融引き締めが企業の設備投資意欲に悪影響を与え始めた可能性も示唆されます。こうした懸念を払しょくし市場予想を上回る決算発表が続けられるかが、今週の米国株にとってのポイントとなりそうです。

Point2. 米長期金利が変える金融政策

高い長期金利が「利上げ見送り」を後押し

米国株を左右するもう一つの大きな要素が長期金利(金利上昇は株価下落の一因)ですが、足元でFRB(米連邦準備理事会)関係者から長期金利を重視する発言が相次いでいます

米国野村グループの雨宮シニア・エコノミストによれば、「タームプレミアム(長期金利に対する上乗せ金利)と政策引き締めの間には一定のトレードオフ(相殺関係)がある。最近の長期金利上昇は、0.25%ポイントの利上げが1回ないし2回行われたのと同等の引き締め効果をもつと推定される」と分析しています。

これに従えば、年内のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ見送りの可能性は高まっているとみられ、金利上昇による株価下押し圧力を、利上げ観測の後退による株価下支え効果が打ち消していくと考えられます。

1日(水)の「リファンディング」発表に注目

今後の長期金利を考える上では、リファンディング(米国債発行計画四半期会合)の発表が注目されます。特に、1日(水)に公表される11・12・1月分の具体的な年限別発行額は市場にとって重要です。前回(8月)のリファンディングでは市場予想を上回る米国債の増発が決定され、それ以降米金利の上昇が強まりました。今回も、前回と同様のペースでの利付債増発が決定されると見込まれます。

今回の増発の年限構成が前回と同様となれば追加的に金利上昇のリスクがある一方、長い年限での増発ペースの鈍化が示唆される場合には、材料一巡から金利は低下すると想定されます。

Point3.FOMCより経済指標

11月1日(水)に発表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)では据え置きが市場のコンセンサスとなっています。このため、市場の関心は今後の政策スタンスに関するパウエルFRB議長の発言に集まっています。11月FOMCは9月や12月のFOMCと違い、ドットチャート(参加者による政策金利の見通し)の発表がなく、金融政策の先行きを予測するヒントは多くないとみられるためです。むしろ、金融政策の判断基準となりうる10月雇用統計と10月ISMサービス業景気指数(ともに3日(金)に発表)に市場の関心が集まると見られます。

中東情勢や長期金利上昇に出口が見えない中で株価反発の材料は見出しづらいですが、まずは堅調な企業業績・見通しの銘柄に注目し、投資対象を見極めていく局面と考えます。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点