2006年に設立された世界最大の責任投資家イニシアティブであるPRI(Principlesfor Responsible Investment)は、機関投資家同士の交流や責任投資の促進、レベルアップを目的とした年次総会(PRI inPerson)を開催している。20年に新型コロナウイルス感染拡大によって一旦は延期となった日本での初開催が、今年10月に実現し、千名を超える投資家が集結した。

年次総会の今年のテーマは「コミットメントからアクションへ」である。機関投資家や上場企業において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づく環境関連の情報開示や、20年以降策定が進んだ「ネットゼロ目標」(事業や投融資先企業などによる温室効果ガスの排出を正味ゼロにすること)が定着した今、機関投資家はそれを行動に移すべきだという流れが生じている。

特に強調されたのは、ESG(環境・社会・企業統治)活動が不十分な企業を投資除外するのではなく、投資家として企業と対話し、課題解決を促すエンゲージメント(関与)を行うべきであり、また今後も重要性を増すだろうということだ。米国を中心に政治的な対立が資産運用分野に波及し、化石燃料を投資除外する機関投資家を州政府が取引対象から除外するなど「反ESG」の動きが生じる中、機関投資家は投資先企業を手放さず、対話や株主提案によって改善させることが真の責任と見られる。

エンゲージメントが企業行動に与える効果に関する実証研究が取り上げられたほか、PRI は署名機関が参加できる新たな協働エンゲージメント・プラットフォーム「spring」の設立を発表した。spring は地球の生物多様性や自然資本を毀損しているグローバル企業を選出し、複数の機関投資家が対話に参加することで、より強く実効性のある影響力を行使することを目指す。

また、民間企業の力だけに頼るのではなく、官民共同でサステナビリティを推進する機運も最近のものだ。年次総会において岸田文雄首相が講演し、金融機能強化の一環として、計90兆円規模を運用する7つの公的年金基金がPRI に署名することを宣言した。日本では年金による署名が少数である中、異例の展開であった。

このように、責任投資におけるトップダウン的な動きにも注目だ。

(野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング 高田 晴夏)

※野村週報 2023年11月6日号「資産運用」より

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