2013年4 月1 日、Google は「GoogleNose」を発表した。Google Noseには匂いを検索する機能と、スマートフォン等のデバイスから匂いを放出させる機能がある。

もちろんこれはエイプリルフールのジョークである。しかし、10年の時を経て、この話が現実になりつつある。

味覚や嗅覚といった化学感覚は、微量な化学物質の配合や濃度の変化によって変わるため、感覚の定量化や観察が難しい。また、個人差や文化的差異も大きいため、正確な比較研究を行うことは難しく、その結果、基礎研究と技術開発が遅れてきた。

04年に嗅覚受容体遺伝子の発見と嗅覚システムの解明がノーベル医学生理学賞を受賞し、研究すべきポイントが明確になってきた。現状、嗅覚の分析・再現のコアな技術開発は、大学や研究機関と協業するベンチャー企業が中心に担っている。

大阪大学発ベンチャーの香味醗酵は、嗅覚受容体応答によるカルシウムイオン濃度変化の経時測定と、ヒト嗅覚受容体発現細胞アレイの技術で、匂いの数値化に取り組む。同技術は人間の匂いの感じ方を数値化するだけでなく、嗅覚受容体が受け取る匂いの経時変化も測定可能である。

23年9月、イスラエルのMoodify はP&Gと香水開発でパートナー契約を締結した。同社の香り開発プラットフォームは研究機関における神経生物学研究に基づいており、香料開発期間の短縮や、悪臭の要因分子を打ち消す香りレシピの開発に期待が集まる。同社は、日本企業との資本・業務提携も推進している。

今後、こうした嗅覚の分析、再現技術を本格的に実用化するためには、安価で安全な代替物質の開発や、再現に向けた膨大なデータベースの構築が必要となろう。中長期では、医療領域で特有の匂いによる疾患の早期発見や、塩分等の食事制限のある患者向けの匂いによる味覚増強効果、サービス業で匂いによる高い没入感や新たなマーケティング手法の創出等が期待される。

世の中のデジタル化は利便性を高めるものの、どこか無機質なところがある。そこに味覚や嗅覚が加わると、感性や情緒へ働き掛ける面で大きな効果があろう。人間と機械を繋ぐヒューマンインターフェイスにおいて、嗅覚の関与は今後益々注目されるテーマとなろう。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 坂本 雄右)

※野村週報 2023年11月6日号「新産業の潮流」より

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