近年、世界で自然災害による経済被害が拡大する中、大災害債券(CAT ボンド)と呼ばれる金融商品が注目されている。CAT ボンドは、債券の満期までに大規模自然災害が発生すると、事前に設定された条件に沿って元本が減額され、発行体が災害対応のために原資を得る仕組みである。

CAT ボンドの代表的な発行体は保険会社である。保険会社は、自然災害により高額な保険金支払いが発生する場合に備えてしばしば再保険を利用する。しかし、大規模な自然災害が発生すると、保険料率の上昇や再保険会社の引受能力の低下が起こることがある。こうした際、再保険の代替手段として活用されるのがCATボンドである。

過去30年間の自然災害の発生状況を見ると、2011年頃までアジア各国やハイチの地震によって甚大な被害が発生していたが、12年頃からは、米国のハリケーンやアジアの洪水等の大規模な風水害による被害が増加している。このような状況下で世界のCAT ボンドの発行は拡大傾向が続いているが、地域別では、累積発行額の約6割を米国の自然災害を対象とするCATボンドが占めている。アジアは自然災害リスクが世界的に見て高い水準にあるにも関わらず、CATボンドの発行額は相対的に小さいと言える。

アジアのCATボンドが限定的な背景として、そもそも企業等による自然災害関連の保険加入が進んでいないことが指摘できる。例えば、パキスタンでは22年6~8月頃の季節風による記録的な降雨の影響で、深刻な洪水被害が発生した。被災者は全人口の約14%に相当する約3,300万人に達した。被害が大きかった農業・畜産、インフラ等のセクターにおいては、保険の浸透度が低いことが、同国政府により課題として指摘された。

深刻な自然災害発生時には迅速な公的支援が中心的な役割を果たすが、同時に保険やCATボンドのような金融ソリューションの活用による、民間の自助努力も重要である。今後、世界で気候変動による風水害のさらなる激甚化や大規模地震の可能性などの観点から自然災害リスクの拡大が見込まれており、民間の取り組みの必要性は一層高まろう。それらが、アジアを含む世界の自然災害対応の強化にどう寄与していくのか注目される。

(野村資本市場研究所 富永 健司)

※野村週報 2023年11月13日号「資本市場の話題」より

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