生成AI による好影響は既に一部顕在化

株式市場では半導体製造装置(以下、SPE)市場に対する中期的な成長期待は高い。従来から成長市場と捉えられていたうえに、2023年には生成AI(人工知能)により期待感は一層と高まっている。生成AIは様々な領域、用途で普及する大きな可能性を有し、23年5月のNVIDIA決算でAI用途向けで大きな売上の伸びが確認され、株式市場で大きなテーマとなった。

一部の領域で生成AIの好影響が既にSPE市場にも顕在化してきている。ハードウェア面では並列的な計算処理能力が高いAIアクセラレーターを搭載したAIサーバーの需要が増加する。アクセラレーターの代表はNVIDIAなどが販売するGPU(画像処理半導体)で、足元で需要が急増している。GPU はTSMC が提供する特殊なパッケージ技術(アドバンスドパッケージ)を使用しており、足元ではそのパッケージ供給能力がGPU製造量のボトルネックになっている。そのため、供給キャパシティの拡張が急ピッチで行われており、SPEでは関連する後工程装置、ダイサ、グラインダ、ボンダなどの需要が急増している。

SPE市場への影響はそれだけではなく、AIサーバーではDRAMメモリの搭載量も大幅に増加、特に高速・広帯域通信が可能なHBM(High Bandwidth Memory、広帯域メモリ)の需要が急増している。韓国メモリメーカー中心にライン新設が行われており、HBM のパッケージに関連する装置への需要が押し上げられている。また、現状はスマートフォン向けチップなどの需要の弱さで打ち消されているが、AI用途向けには処理能力が高い最先端チップが必要となるため、前工程装置やテスト装置でも中期的な好影響も想定される。

半導体需要を牽引するアプリケーションはPC、スマートフォン、サーバーと変遷してきた。今後は生成AIなどのAI用途が半導体市場を牽引し、SPE市場に中期的に好影響を与える可能性は十分にある。一方でリスク要因も存在し、各国での生成AI普及の逆風となる規制導入や米中貿易摩擦の一層の拡大が挙げられよう。23年10月の米国による追加規制ではAI半導体の輸出規制が一層と強化されており、中国でのAI普及動向に影響が生じる可能性もある。

短期的には市場回復の不透明感が残る

中長期的な市場の成長期待が高まる一方で、足元のSPE 市場は調整局面の真っ只中にある。世界的なインフレやコロナ特需からの反動減などを要因に、PC、スマートフォン、サーバーなどの最終製品需要が鈍化しており、半導体製造業者は生成AI用途などの一部を除いて製造キャパシティの拡張に慎重になっているためである。

ただし、野村ではSPE市場は現状が底に近いと考えている。1つ目の理由はSPEの顧客業績に底打ち感が確認できていることである。高付加価値製品の増加による製品ミックス影響もあるが、DRAMのビット単価が底打ち、反転してきており、メモリメーカーのSamsungやSK Hynix、Micronの業績は既に前四半期比での改善が確認されている。最大手ファウンドリのTSMCも7~9月期決算で売上底打ちを確認できており、これまで以上に設備投資が縮小される状況からは脱したと考える。2つ目の理由は、SPE企業側からも底打ちの近さを示す兆候があることである。業績が前工程や検査工程装置に先行する傾向のあるディスコや東京精密などの後工程装置企業では受注や出荷などの先行指標が1~3月期で底打ちし、7~9月期も改善が継続している。

一方で、底打ち後の市場回復は底這いともとられるような緩やかさで、本格的な回復は24年下期以降となると見ている。本格的な回復にはスマートフォンなど最終製品の需要が高まることが必要となろう。

本稿執筆時点で国内外のSPE関連企業の7~9月期決算が出揃いつつあるが、上記の事業環境の見方を大きく変えるようなものはない。国内外の大手半導体製造装置メーカーは、中国からの強い需要にも支えられ、足元の着地は会社計画に対して順調な企業が多く、四半期毎の売上でも底打ち感が生じている。23年の市場見通しもLamResearch など引き上げる企業が多かった。一方、24年の見通しは露光装置最大手の蘭ASMLが従来見通しを慎重に見直すなど不確実性が高い。明確な見通しの言及を現時点では時期尚早として避ける会社も多い。

そんな中、野村ではディスコや東京エレクトロンの業況に注目している。ディスコはSi(シリコン)ベースのパワー半導体の需要に減退感はあるが、想定以上の規模感であった生成AI 向けも含めた出荷合計では着実な成長が確認できると考える。東京エレクトロンは堅実な中国需要もあり業績底打ち感がある。メモリの売上比率が高いため24年半ばからメモリが回復局面を迎えれば増益率は上昇しよう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 吉岡 篤)

※野村週報 2023年11月13日号「産業界」より

※掲載している画像はイメージです。

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点