化粧品:2024年は中国消費の回復がカギ

化粧品企業の23年7~9月期決算は、国内販売は好調だった。コロナ禍からのリオープンによる内需回復、訪日外客数増加によるインバウンド売上回復が背景にある。一方、海外販売は欧米では堅調であったが、中国本土で減速した。①中国海南島や韓国の免税市場での代購業者への転売規制、②福島原発からのALPS(多核種除去設備)処理水放出に伴う風評影響があったためで、全体的には厳しい決算と言える。

国内はこれまで高価格帯と低価格帯が回復の中心であったが、ボリュームゾーンである中価格帯にも回復の兆しが見られ、市場全体が良化している。10月までの百貨店やドラッグストアでの販売動向も良好な状況が継続しており、23年中は国内消費者の活発な購買活動が期待出来よう。24年以降はリオープン効果が一巡することで内需の成長率はコロナ禍前の1桁前半程度に減速すると考える。ただし、航空便数増加等により訪日中国人数が回復すると見込まれ、インバウンド売上を牽引すると考える。コロナ禍前は化粧品の免税販売の約9割を中国人が占めたとされる。足元の訪日中国人数はコロナ禍前の約3割に留まり、百貨店の消耗品の免税販売も同3割と、一定の連動性があろう。加えて、コロナ禍前と比べて為替が20~30%程度円安水準にあるため日中価格差が拡大し、割安感から日本で購買するメリットが増していよう。

海外は主要販路である中国で先述の2点の影響を受けるが、両課題とも改善に向かっていると判断している。①5月に転売規制が強化されてから海南省で在庫調整が継続しているが、統計等を踏まえると製品消化が進捗している。②化粧品等の販促では、当初はEC(電子商取引)等のKOL(Key Opinion Leader、影響力を持つ専門家)が日本ブランドの販促を断る事案も発生したが、処理水報道の沈静化に伴い回復傾向にある。実際、化粧品各社は両影響の終息を24年1~3月期とコメントしており、一つの目安と言える。国内化粧品企業の海外事業は中国人消費への依存度が高く、短期的には他地域でのカバーは難しい。24年度は中国人消費獲得がカギと野村ではみており、現地で注力ブランドの育成が進む資生堂の業況に注目している。

トイレタリー:値上げと海外展開力に注目

トイレタリー企業の7~9月期決算は、国内業績の改善が進んだ一方で、海外は中国の減速を背景に前四半期比で減速した企業が多かった。トイレタリー全体の方向感は化粧品同様に厳しいものであったが、国内を中心に業況に変化がみられたと言える。

国内業績の改善は各社が取り組んできた値上げが浸透してきたことが要因である。国内は商習慣の違い等から、海外と比較して値上げの進捗が遅れてきたが、既存品の値上げやリベートの抑制、新製品による単価引き上げ等が寄与した。原材料高影響のピークアウトも業績改善に寄与した。現状では24年上期にかけて値上げ効果、原材料安メリットは継続すると考え、国内は堅調な業績推移を野村では予想している。

今後の注目ポイントとしては、各社の24年の値上げ方針と考える。コスト面では中東情勢の悪化等を背景に原油価格が再び上昇基調にあるうえに、円安による輸入物価の上昇が見込まれる。23年度の原材料価格の前提となる原油価格は約90ドル/バレル(1~6月期が約100ドル/バレル、7~12月期が約80ドル/バレル)とみており、足元の原油価格の水準が継続すると24年下期は再び原料高となり、業績の下押し要因となる可能性が高い。現状で各社が取り組む値上げ効果が一巡するのは24年上期と考える為、それ以降の価格施策に注目する。

一方、国内市場は中期的に人口減少等で大きな成長は見込みにくい。そのため、高い市場成長率が見込める海外での事業拡大がトイレタリー企業にとって当面の課題となろう。日本ブランドは品質や技術力の面で、グローバル企業に勝るものがあると野村では考えている。しかし、P&G やUnilever といったグローバル大手企業と比較して事業展開は後発であり、かつ事業規模の面でも経営リソースは限られる。競争に勝ち残っていくには、注力する地域やカテゴリーの選別等が必要と考えている。

この観点ではユニ・チャームの業況に注目している。同社は国内やアジアを中心とした海外で高いシェアを獲得し、海外売上高比率は22.12期で約7割を占めるなど、トイレタリーセクターの国内他社以上に海外展開が進んでいる。紙おむつや生理用品等の不織布・吸収体製品に経営リソースを集中投下していることが国内やアジアを中心とした海外での高いシェアの獲得につながっており、価格決定力の高さから国内外で値上げの恩恵を享受してきた。今後原材料高となった場合でも業績の耐久力は高いと野村では考えている。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 大花 裕司)

※野村週報 2023年11月20日号「産業界」より

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