米国シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を機にクレディ・スイス(CS)が実質的に破綻し、世界の金融・資本市場が一時的に大きく動揺した2023年3月の銀行を巡る世界的な混乱に関して、教訓や課題を得ようとする国際的検討が行われており、先般、バーゼル委員会や金融安定理事会から相次いで報告書が公表された。

SVB とCS に共通することは、預金者の不安から生じた預金取付け(バンクラン)が資金繰りを行き詰まらせて、破綻に至らしめたことである。特筆すべき点として、ソーシャル・メディアを介した情報拡散とモバイル・バンキングを通じた預金引出しから、過去に例をみない速さのバンクランが発生した。SVB では、およそ秒速100万ドルで預金が流出したとされる。

シリコンバレーに拠点を置くSVBは、主にスタートアップ(新興企業)やベンチャーキャピタルを顧客としており、顧客同士がシリコンバレーのコミュニティで互いに密接につながっていた。3月8日にSVBが約18億ドルもの債券売却損を明らかにしたことが破綻の引き金となり、顧客の不安を招いて大量の預金が一斉に引き出された。

当時、著名投資家はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でSVBの経営に警鐘を鳴らす一方、他の投資家は資金の預け先を見直すようスタートアップに促し、スタートアップの経営者はSNSで経営状況の悪化に関するツイートを共有した。SVBの顧客は、SNSで情報共有を図り、モバイル端末のアプリなどを経由して瞬時に預金を引き出した。このような状況からデジタル・バンクランとも称されている。

SVBの破綻は、預金保険の上限を超える大口預金に依存し、金利上昇局面で債券含み損が急拡大したことが背景にあり、基本的なリスク管理とガバナンスが欠如していたことが根本原因である。同一のコミュニティという顧客基盤の特殊性も影響した。

もっとも、23年3月の出来事は、ソーシャル・メディアと金融のデジタル化から驚異的な速さのバンクランが生じることを世界に認識させた。日本でもSNSが社会基盤となり、金融のデジタル化が進展する。人工知能(AI)の活用を含め社会や金融のデジタル化は新たな金融リスクを生み出す可能性がある。新たな課題が我々に投げかけられたように思われる。

(野村資本市場研究所 小立 敬)

※野村週報 2023年11月27日号「資本市場の話題」より

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