先週:長期金利は3ヵ月ぶりの水準まで低下

前週の米国株は、米長期金利(10年国債利回り)が4.4%台から4.1%台に低下し、株価の追い風となりました。

ウォラー理事発言がきっかけ

先週、株価上昇のきっかけとなったのは、FOMC(米連邦公開市場委員会)内でもタカ派として知られるウォラー理事が28日(火)に行った講演でした。ウォラー理事からは「あと数カ月インフレ率が低下し続ければインフレ低下に対応した利下げを開始することが可能」というハト派姿勢への変化を示唆する発言があり、米長期金利は低下しました。

パウエル議長講演で金利低下が加速

1日(金)のパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の講演でも早期利下げ観測に対する強いトーンでのけん制はなく、米長期金利はさらに低下しました。FF(フェデラル・ファンド)金利先物から見て、2024年中の利下げ予想は1.30%ポイントまで拡大し、7割の確率で2024年3月までに利下げが開始されることが市場に織り込まれています。

Point1:8日(金)の雇用統計などに注目

野村の小清水ストラテジストは「景気指標が減速を示す間は金利が低下余地を試しやすい」と予想しています。1日(金)に発表された11月のISM製造業景気指数は46.7と市場予想(47.8)を下回るなど緩やかな景気減速を示しました。今週も、5日(火)の11月ISMサービス業景気指数と、8日(金)の11月雇用統計は注目が高まると考えられます。

なお野村では、カード取引額で見た個人支出は底堅く推移しており、急減速しているわけではなく、雇用統計は季節調整の歪みから12月分・1月分は実勢並み~上振れとなると予想されることから、年明け以降の経済指標は上振れする余地があると考えています。目先低下余地を試した後、13日(水)のFOMC結果発表や年明け以降に反動で一旦上昇すると想定しています。

Point2:「予防的利下げ」はあるか?

比較対象となる「1995年」利下げ

今後も底堅い景気指標が続くとすれば、現在の米長期金利の低下はやや行き過ぎと考えられます。それでも市場が2024年の利下げをさらに織り込むとすれば、通常の利下げとは異なり、先々の景気悪化を見越して行われる「予防的利下げ(insurance cuts)」を期待していると解釈されます。過去、「予防的利下げ」が行われた事例では1995年、1998年、2019年が挙げられます。

このうち1998年はアジア金融危機、2019年は米中間の関税引き上げ合戦によって金融市場・実体経済が打撃を受けるリスクが深刻化したことをきっかけとした利下げでした。一方、1995年は突発的なショックは無く、前年までの急激な利上げを受けて景気減速が強まったことによる利下げであり、現局面との比較対象として妥当と考えられます。

インフレ低下見込みなら利下げ発動も

1995年当時重視されたのは、景気減速の持続性や深刻度合いの判断でした。この点、1994年10-12月期には年率5%だった実質GDP成長率は、1995年1-3月期には同3%となり、その後の月次指標から4-6月期にはゼロ%成長との見込みが強まり利下げが実施されました。このことから、インフレ率が十分に低下していない段階でも、「景気減速が強まることでインフレ率が低下基調を辿るとの見込みが強まれば利下げが決定され得る」ことが考えられます。

発動された場合でも慎重に行われる

実際には、1995年の利下げ後は景気指標が改善し、利下げを行った7-9月期は年率4%の高成長となりました。このため、その後の景気減速期において利下げは小幅かつ時間をかけて慎重に行われることとなりました。このことは「利下げに際しては金融環境が過度に緩和的にならないよう配慮することが重要である」ことを示唆していると考えられます。

先週末からFOMC参加者は沈黙期間(金融政策に関する言及を控える期間)に入っています。FOMCメンバーによる発言はないため、想定以上の経済指標下振れなど、市場に1995年を想起させる事態には注意が必要です。

Point3:円高はどこまで進むか

米国株投資家にとっては、円高ドル安も気になる局面です。ドル円は一時146円台まで調整したことで、直近の円安時(151円台)から3-4%ほど米国株の円建てでのパフォーマンスが低下しています。野村の後藤ストラテジストは、足元の為替について「米指標の顕著な下振れがなければ、足元のドル円は146-150円程度でのレンジ相場感が強まる」と予想しています。前述の米経済指標に加え、4日(月)の日銀ワークショップや、5日(火)11月東京CPI(消費者物価指数)、8日(金)10月毎月勤労統計など日本の指標にも目配せが必要です。

なお、野村では2024年12月末に1ドル=135円を予想しており、現時点から7-8%の円高ドル安です。ただし、円高見通しの背景には、2024年後半の米金利低下(2024年末 米国10年国債利回り:3.65%、日本10年国債利回り1.10%)を前提としており、米国で企業のEPS(一株当たり利益)を大きく低下させるような景気後退を想定しない限り、米金利低下は株価にプラスの側面もあります。為替を理由に米国株投資から離脱すべき局面ではないと考えられます。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点