畜産業で「乳肉一貫経営」が広まりつつあり、業界をけん引するモデルになる可能性を秘めている。乳肉一貫経営とは、畜産業の経営形態のひとつであり、酪農事業と牛肥育事業を同時に運営する事業モデルで、それぞれの事業リスクを補い合うことで、効率・効果的な経営が可能となる。

酪農事業では基本的に毎日搾乳・出荷するため日々の売上が立つが、肉用牛ほどの大きな収益は見込みにくい。一方、牛肥育事業では出荷時の収益率は高いが、18~24カ月の肥育期間中は費用のみが先行し、資金繰りに窮するリスクがある。乳肉一貫経営では、それらを補うだけでなく、乳牛(ホルスタイン)に和牛(黒毛和牛)の受精卵を移植することで、子牛を内製化でき、収益性をより高めることができる。

例えば、北海道のノベルズグループでは、3万頭を超える乳牛と肉用牛を大規模に飼育する乳肉一貫経営を実践している。乳牛における日々の収益、自社ブランド化した肉用牛の高収益な販売により、双方のリスクヘッジを可能とし、2006年の創業から9年で売上高は100億円を突破している。また、神奈川県の小野ファームでは乳牛と肉用牛を約400頭飼育する乳肉一貫経営を実践している。子牛の内製化で収益性を高めただけでなく、乳製品の製造販売や焼肉店経営などの川下にも事業を展開するなど、多角的な経営にも取り組んでいる。

乳肉一貫経営には課題もある。肉用牛の場合、体重の増加が販売に直結し、その多くを輸入原料の飼料に頼っているため生産コストが高い。一方、酪農は早朝や夜遅くの業務も発生することから人材確保が困難である。実際に酪農現場では外国人労働者を採用している事業者も多い。

そのような中、肉用牛の飼料においては、地域農家と輪作体系を活用した耕畜連携を図る方法や、コメを飼料に活用することで、輸入飼料の割合を抑えコスト削減に取り組む事業者も増加傾向にある。また、人材確保においては、センサーやロボットなどの自動化設備の導入により作業負担を軽減する取り組みも進み始めている。

日本の畜産業は事業承継や人材不足、コスト高などの影響により生産力が低下しているが、「和牛」を筆頭に海外からの需要は急増している。乳肉一貫経営による畜産業の持続的な発展に期待したい。

(野村アグリプランニング・アンド・アドバイザリー 谷 和希)

※野村週報 2023年12月11日号「アグリ産業の視座」より

<お知らせ>「野村週報」は、2023年12月18日号(15日発行)より「週間 野村市場展望」と統合し、新たな「野村週報」としてリニューアルされます。
今後ともご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。

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