「ブラックスワン」とは、発生確率が低いものの、起こった場合には極端な影響を及ぼすリスク事象を指します。「灰色のサイ」は、発生確率が高いものの、いつ起こるかが予測困難であるため見過ごされがちなリスク事象を指します。以下に、2024年に考えられる10個の「(確率は低いが発生すると影響が大きい)テールリスク」を示します。

【米国大統領選挙の二極化】 現状では、トランプ氏が勝利する可能性は十分に考えられます。もし彼が勝利し、米国が孤立主義に向かうと、貿易保護主義が台頭し、地球温暖化対策も後退するかもしれません。また、トランプ氏が政敵への報復を追求することで、米国の社会や政治体制が一段と二極化する可能性もあります。トランプ氏が計画する減税についても、投資家が財政赤字を懸念して米国債を売却する可能性があります。

【世界的な供給力の急増】 リモートワークや(在宅・出社勤務を組み合わせた)ハイブリッドワークが浸透することで、労働力の供給が増大する可能性があります。さらに、生成AIの導入が加速すると、生産性の向上も見込まれます。これらの要素がインフレ問題の解消につながる可能性もあります。

【AIによるサイバー攻撃】 AIの規制は遅れがちで、AIがテロリストなどに利用されてサイバー空間や物理空間が攻撃されるリスクが存在します。

【より頻繁な気象災害】 気候変動が進むと、気象災害が頻繁に起こる可能性が高まります。それが食料価格の上昇や財政負担の増大を引き起こし、社会的な不安を引き起こす恐れがあります。

【中印が主導する世界経済の回復】 中国はデフレの危機に直面しており、景気刺激策を打ち出す可能性があります。一方で、インド経済は新興国発展の主軸として成長を続けていく可能性があります。これら2ヶ国は既に世界の商品需要を支配し、世界経済の成長を牽引しています。

【2つの地政学リスクの緊迫化】 イスラエルとハマス、ロシアとウクライナの紛争の緊張が高まる可能性があり、これが2つ同時に進行すると大きなリスクとなります。NATO(北大西洋条約機構)からウクライナへの資金援助が減少すれば、プーチン氏による大規模攻勢が起こるかもしれません。さらに、もしトランプ氏が再び大統領になった場合、状況は深刻化する恐れがあります。

【台湾情勢】 2024年の台湾総統選後の新たな指導者のもとで、台湾が中国政府のレッドライン(越えてはならない一線)を越える可能性があり、初期の報復反応を誤ると、制御不可能な状況に陥るかもしれません。

【2024年のデフレ】 中央銀行は、インフレ目標達成の最終段階が最も難しいことを市場に伝えています。しかし、もし中央銀行の判断が間違っていたとしたらどうなるのでしょうか。経済成長が停滞すれば、労働者の賃金交渉力や企業の価格決定力が急激に失われる可能性があります。同時に、全世界の供給能力の急速な増大や、商品価格の低下が発生する可能性もあります。

【債券市場が財政拡張に警鐘】 先進国と新興国の公的債務が過去最高水準に達しているため、債券市場が警鐘を鳴らすかもしれません。一方で、経済成長の鈍化や貧富の格差拡大、そして大規模な選挙を控えている一部の政府が、債券市場に対抗して、財政拡張を推進する可能性もあります。

【BRICSの拡大】 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)にアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEを加えた11ヶ国が新たな世界秩序を形成するという観点があります。特に、次回のサミットでは、BRICSのデジタル通貨や新決済システムが登場し、サプライズをもたらす可能性があります。

(野村證券投資情報部 デジタル・コンテンツ課)

要約編集元アナリストレポート

2024年世界経済見通し – 新たな道を切り開く(要約版)(2023年12月12日配信)」

(注)要約編集元アナリストレポートの発行日は2023年12月12日。画像はイメージ。
(出所)野村證券経済調査部などより野村證券投資情報部作成

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