個人投資家の投資の楽しみの一つと言える「株主優待」。コロナ禍で廃止する企業が増えたものの、景気が回復し、株式市場が盛り上がる中で再び優待は増えつつあるようです。野村インベスター・リレーションズ(野村IR)が発行する年刊情報誌「知って得する株主優待」編集長の石井良明氏に、株主優待を実施する企業の動向や、2024年度に拡充されるNISAを活用して株主優待銘柄を選ぶポイントなどを聞きました。

上場企業の3社に1社が株主優待を導入

――2023年を振り返って、株主優待を導入した企業、廃止した企業などがあったと思いますが、例年と比べて特徴はありましたか。

2023年10月末時点で上場銘柄が4413社ある中で、優待を導入している企業は1475社でした。これは全体の33.4%、およそ3社に1社が株主優待を導入していることになります。業種別では、食料品や小売業など、「消費者に近い業種」が積極的に株主優待を実施している印象があります。

当社には1992年からのデータがありますが、1992年時点の導入割合は9.5%に過ぎませんでした。それが現在30%超まで増えています。その間、リーマンショックやコロナ禍などで、導入企業の割合が多少減った時期もありました。

特にコロナ禍の影響は大きく、業績が厳しくなり、株主優待の提供が困難になった企業もあったようです。各年9月末時点の集計で2020年が「27社減」、2021年が「15社減」、2022年が「22社減」でした。

一方、今年株主優待を導入した企業は10月末時点で計45社、廃止した企業は44社で、差し引きで「1社増」となっています。底を打って、元に戻りつつあると言えそうです。

なお、株主優待を実施している企業が最も多かったのは、記録上はコロナ禍直前の2019年9月末です。計1532社、上場企業全体の37.2%でした。

抽選で太陽光発電システムをプレゼント

――株主優待には金券や食品などがありますが、それぞれ何社ぐらいが実施しているのでしょうか。また、風変わりな優待品を提供している企業はありますか。

当社のデータでは食品が多く、616件が採用しています。次いでQUOカードなどの金券が512件、洗剤などの生活用品を提供している企業が486件です。

風変わり、といえばビットコインを優待品にしている企業がありました。金券に近いものではありますが、さすがに驚きましたね。

このほか、株主の中から抽選で一部の人に提供するというものではありますが、100万円相当の戸建住宅向けの太陽光発電システムを無料で提供する企業や、50万円相当の旅行券を贈ったりする企業もあります。

また、株主優待でポイントが付与され、ポイントに応じて景品と交換できる通信販売のようなサービスを使う企業も増えている印象です。別の企業の優待ポイントと合算し、景品と引き換えることもできます。

NISA拡充、注目企業と銘柄選びのポイント

――2024年のNISA(少額投資非課税制度)の改正を前に、これまで株式投資をしていなかった人たちの関心も高まっていますが、今年導入した企業で注目すべき企業はありますか。

今後もNISAの改正を受けて株主優待を導入したり、拡充したりする企業は増える可能性があります。

身近に活用できる利便性の理由から報道等で注目された企業としては、無印良品を展開する良品計画(7453)でしょうか。買い物の際に5%割引になる株主優待カードの発行を始めました。日ごろからよく無印良品で買い物をする方にはメリットでしょう。

また、不動産仲介業者と引っ越し業者と連携し、電気やガス、インターネット回線などの契約取次ぎを展開するラストワンマイル(9252)は大手インターネット通販サイトで使えるギフトカードを、1株以上の株主には1,000円分、100株以上の株主には5,000円分をそれぞれ年2回贈呈する優待を導入しました。いずれも対象となるのは2期以上保有する長期の株主に限定していますが、100株に満たない小規模株主にも贈呈するのは珍しいと言えそうです。

――NISAの改正をきっかけに、投資を始めようという方もいると思います。新しく参入する投資家にとっても株主優待銘柄はわかりやすいのではないかと思いますが、優待銘柄を選ぶ際のポイントや注意点があれば教えてください。

投資初心者の方は、頻繁に売買するのは難しいのではないかと思います。そういう方にとってもわかりやすいのは株主優待と配当金ではないでしょうか。

銘柄選びのポイントは、やはり多くの人が知っている「有名な銘柄」「人気の銘柄」がよいのではないか、という点です。多くの投資家が株式を買えば、当然株価も上昇しますし、優待だけでなく、値上がり益を享受することもできるかもしれません。

春夏秋冬の旬の食品などを優待品として送ってくる企業もあります。これを利用し、株主優待で各月に食品など送ってくる企業を調べて、毎月優待品が届くような形で銘柄を保有してみるのも一つの楽しみ方といえるかもしれません。

12銘柄を1単元ずつ買おうとすると、それなりのお金は必要かもしれませんが…。

企業が株主優待を実施する理由

――企業にとって、優待にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

東京証券取引所(以下、東証)が市場区分をプライム、スタンダードなどに見直したり、上場企業にPBR(株価純資産倍率)の改善を要請したりしたのは記憶に新しいところです。

PBRを上げるためには、短期的には配当も含めた株主への還元が有効です。東証の要請を踏まえ、株式の流動性を高めるなどの観点で導入・拡充すると発表した企業も複数あります。

また、個人投資家向けに年に1回アンケートを実施しているのですが、株主優待があるかないかで売買するか否かを決める方もかなり多くいる印象です。

特に消費者と直接取り引きしているBtoCの企業にとっては、自社の商品を使ってもらってよさを知ってもらったり、買い物に来てもらったりできるという点で、企業側にとって、ロイヤリティの観点でも有益と言えそうです。

株主優待制度に詳しい大阪公立大学教授の宮川壽夫氏に以前、投資家向けのセミナーで講演していただいたのですが、「優待には経済学でいうギフト効果というものがあり、一定の株主層に対して金銭で受け取る以上の満足度(効用)を提供することが期待できる」(※1)とおっしゃっていました。投資家心理に訴えかけるものがあるのかもしれません。

――株式市場の下落局面などで、人気の優待銘柄は値下がりしにくいといったような傾向はありますか。

宮川氏が話していましたが、株主優待が株価のパフォーマンスを向上させているという研究結果(※2)があるそうです。優待制度に対する個人投資家層の選好が出来高や株価に一定の影響を及ぼし、結果的に資本市場でのビジビリティ(認知度)効果につながるとのことでした。(※3) 日本の株主優待に好意的な海外の機関投資家も存在するそうです。

私たちの調査でも、多くの株式を扱う機関投資家の中には、食品を「送ってこないでほしい」と依頼してくるケースがあることはわかっています。しかし「優待をやめてほしい」と言われるケースはほぼないようです。

以前は優待銘柄として有名だった大手サービスグループは、早くに優待廃止を発表し、代わりに増配するという方針を株主の間に浸透させました。結果、国内外の機関投資家などに買い支えられ、優待廃止による株価への影響は最小限にとどまったと言えます。

一方、東証スタンダード市場や東証グロース市場に上場するいわゆる「中小型株」と呼ばれる企業群が優待廃止を発表すると、株価が急落するケースもあります。

これらの企業群は個人投資家に株式を買ってもらわないと出来高もなかなか増えず、株価も上がりにくいので、優待を活用して個人投資家を「味方につける」必要がある。このため、やはりNISAで個人投資家が増えれば、導入する企業も同じように増えていく可能性はあるのではないでしょうか。

※1 宮川壽夫 (2013) 「株主優待制度のパズルに関する考察」『証券アナリストジャーナル』第51巻 第10号
※2 2021年 ”How do firms attract the attention of individual investors? Shareholder perks and financial visibility” 野瀬義明, 宮川壽夫, 伊藤彰敏 Journal of Behavioral and Experimental Finance Volume 31.
※3 Nose, Y., H., Miyagawa, A., Itoh, ‘How do firms attract the attention of individual investors? Shareholder perks and financial visibility’ Journal of Behavioral and Experimental Finance, vol.31, September 2021.
※4 インタビューは2023年12月に実施しました。
※5 掲載している画像はイメージです。

(野村證券投資情報部 デジタル・コンテンツ課)

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