• 中国で再燃するディスインフレ、日米で続くインフレのぶつかり合い
  • 原油価格が重要なバロメーター、日米インフレ期待を左右
  • トランプ再選なら米中通貨安競争激化、岸田政権失脚ならアベノミクス復活か

2024年は「ディスインフレ」が投資テーマに再浮上するかもしれません。コロナ禍後の3年間は「インフレ」がテーマとして支配的でしたが、主要国の金融引き締め策が効き始め、グローバルに景気・インフレの減速感が強まっています。ディスインフレは、インフレ鎮静化を狙う米欧には吉報ですが、その定着を試みる日本には凶報です。23年、日本株では銀行、商社、外需関連など、円安・インフレ加速に乗って買い進まれた銘柄・セクターが多く(図表1)、もし流れが円高・ディスインフレへと変わればそれらが調整圧力を受け、他国株に対して劣勢に回る可能性があります。

ディスインフレの先頭を走るのは中国です。消費者物価で見ても足元マイナスの伸びになり、同国経済の「日本化」リスクを指摘する声が増えています。中国は、日本の失敗から多くを学んでおり、その轍を踏まぬよう様々な手段を取ってくると思われます。積極的な金融緩和と通貨安で、他国にデフレを輸出する形で自国のそれを回避するのが1つです。現在は露骨な元安誘導により米国との緊張を強めたくないとの配慮も働いていますが、この先米国が利下げ局面入りすれば、中国も金融緩和を積極化すると思われます。米中で通貨安が進み、裏返しで円は上昇し易いでしょう。また中国企業は輸出品の値下げを通じシェア拡大も狙うと見られ、家電や自動車など、日本の主力産業に与える影響も大きいと思われます。

インフレとディスインフレ、どちらがより構造的かを考える上では原油価格がバロメーターでしょう。単にインフレ指標の構成品目というだけではなく、グローバル景況の鏡でもあり、米日ともインフレ期待への影響も大きいためです。長期視点では、米国でインフレ期待が下方シフトしたのは、2014年秋の「シェール・ショック」後です。それを境に原油価格のレンジの中心が100→60ドル/バレルへ、米長期インフレ期待は2.5%→2.0%へそれぞれ下方シフトしました(図表2)。

シェール・ショック後、米株価のバリュエーションは切り上がりましたが(図表3)、ディスインフレから恩恵を受けづらい日本株価のそれは低迷を続けました。一方コロナ禍後は、それぞれ80ドル/バレル、2.25%を中心とするレンジに再浮上している様にも見えます。仮にこの先景気減速に伴い原油が60ドル/バレル付近へあっさり戻る様だと「インフレは一時的、ディスインフレが構造的」との見方が広がり易く、逆に60ドル/バレルへ戻る前に反発する様だと「2010年代後半のディスインフレ期を脱し、構造的にインフレ化が進んでいる」との評価になり易いでしょう。

コロナ危機・ウクライナ紛争をきっかけとした「インフレ」的な経済・社会構造の変化が消えてしまったわけではありません。例えば日米とも完全雇用状態にあり、労働市場における高齢者の退出増や、女性参加率増加の一巡を踏まえると、よほど景気後退が深くならなければ、賃金上昇率は高止まると思われます。米国では90年代後半の様に、利下げ幅が思ったほど広がらずに、景気・インフレが底入れする可能性があります(図表4)。日本では値上げ・賃上げができる企業とできない企業で差が開き、より強い企業に労働や資本が集中していくと思われます。ただし人口減の日本では、国内で企業が生産性向上を進めながら景気拡大を続けるには、輸出や海外進出拡大を通じた対外収支改善が不可欠と考えられ、グローバル景気減速下では容易な作業ではありません。

最後に24年のリスクを挙げておくと、日米とも「政権交代」に伴う政策転換の可能性です。米国でトランプ氏が大統領に再選した場合、前回の様に財政拡張が使えない分、景気浮揚を金融緩和に頼る可能性が高く、米中通貨安競争に拍車がかかりそうです。また同氏の自国優先主義が地政学的リスクを高め、商品価格の高止まりにつながり易いと思われます。サプライチェーン分断も進み易くなり、これらはインフレ的影響をもたらすかもしれません。一方日本では、岸田政権の推す企業の生産性改革と新陳代謝がもたらす痛みに耐え兼ね、アベノミクスへの回帰を求める声が再び強まる可能性があります。同政策が一時的な景気のカンフル剤とはなっても、生産性向上ひいては賃金と物価の好循環をもたらすことはなく、大胆な金融緩和政策がむしろ円安による日本の窮乏化につながったとする見方もあり、その際には日本株市場への影響には注意が必要かもしれません。

(野村證券市場戦略リサーチ部 松沢 中)

※野村週報 2024年新春合併号 「投資の視点」より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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