• 2024年は長らく続いた日本銀行による大規模金融緩和がようやく幕引きを迎えると予想
  • 海外金利が反落に向かう下での緩和解除は慎重に実施される可能性
  • 「賃金・物価の好循環形成」の確度は高まっているが実現には不確実性も残る

2024年は、日本において長らく続いた日本銀行による大規模金融緩和が、ようやく幕引きを迎える年となる可能性が高そうです。具体的には、24年1月の金融政策決定会合においてまずマイナス付利撤廃が決定され、同年4-6月期に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、以下、YCC)が撤廃される、と野村では予想しています。

ただ、以下に指摘するような点から、大規模金融緩和の幕引きは決して容易なものではなく、上記の見通しの実現には、一定の不確実性も残ると考えています。

大規模金融緩和幕引きに向けた第一のハードルは、海外金利が反転下落に向かう可能性です。

22年以降、世界的なインフレ加速に対応して実施された米FRB(米連邦準備理事会)を中心とする海外主要中央銀行の急速な政策金利引き上げに反応し、市場金利も大幅に上昇しました。海外金利の上昇は、①内外金利差拡大が円安をもたらし日本の物価上昇率を押し上げる効果、②市場での裁定を通じ直接的に国内市場金利を押し上げ日銀による長短金利操作の継続を難しくする効果、を通じて、大規模金融緩和解除への思惑を高めるものとなりました。

野村では、24年6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRBが政策金利の引き下げプロセスをスタートすると予想しています(図表1参照)。また、その背景として、24年7-9月期~同年10-12月期の2四半期にわたり、実質GDP(国内総生産)前期比成長率が連続してマイナスとなるリセッション(景気後退)に米国経済が陥ると予想しています。

このような背景から、米国を中心とする海外金利が低下基調に向かう下で、日銀による大規模金融緩和の幕引きが可能となるのは、国内での「賃金・物価の好循環」定着を伴うような年2%の物価安定目標の達成という、正攻法での緩和終了の条件成就が実現した場合ということになるでしょう。

このような外部環境の下でも24年に大規模金融緩和の幕引きが実現する可能性が高いと考えるのは、国内での「賃金・物価の好循環」実現の確度が着実に高まっているとみられるためです。

23年の春闘(春季生活闘争)では、いわゆるベースアップ(以下、ベア)率の顕著な上昇が確認されました。連合(日本労働組合総連合会)の最終集計では、平均賃金方式(集計組合員数による加重平均)に基づく定期昇給込み賃上げ率が平均3.58%となり22年の2.07%を大きく上回りました。

野村では、24年春闘でのベアは平均3.9%に加速すると予想しています。少なからぬ企業が既に高率の賃上げ実施を公表している実態があるのに加え、人手不足の深刻化、本格化が企業に対し賃金上昇など待遇向上を通じた人手確保をより強く迫ることになるとみているのもベア加速を予想する背景です。2012年の安倍政権スタート前後から19年のコロナ禍前までは、女性・シニア層の労働参加拡大で人手不足の本格化は回避されてきました。しかし、今後はその余地も限られてきていると考えざるを得ないでしょう。

賃金上昇の加速を通じた家計の所得環境改善は、新型コロナウイルス感染症禍収束後のいわゆる「リベンジ需要(経済用語では繰越需要)」の顕在化にも支えられ、日本経済の回復を促していくことが期待されます。こうした背景から、野村では、24~25年にかけての日本の実質GDP成長率は、概ね潜在成長率を上回る基調で推移すると予想しています(図表2参照)。実体経済の回復継続は、需給バランス改善を通じて賃金・物価の好循環実現を後押しするものになると考えられます。

以上のような経路を通じた、賃金・物価の好循環実現、またそれを条件とする日銀の大規模金融緩和幕引きの確度は高いと考えますが、相応の落とし穴が想定されることも指摘せざるを得ません。

米国のリセッションの可能性に加え、中国経済が不動産バブル崩壊などを背景として構造不況が顕在化してくれば、日本の外需を大きく下押しする危険性があります。

賃金上昇加速の下でも、海外発の根強い物価上昇圧力を背景に、国内家計の「節約モード」がことさらに強まることで、経済の持ち直しの勢いがそがれる恐れも捨てきれません。

人手不足の一層の深刻化は、賃金上昇加速を促す要因であるのと同時に、経済成長にとって供給制約要因でもあります。特に人口減少・高齢化が不可避な日本経済においては、企業が人員の確保・拡充を通じた市場や需要の拡大を無理に追求せず、現状の人員を前提として効率化や利益率改善だけを優先して動く可能性も考えられます。

以上のような落とし穴を乗り越えて、長年続いた大規模金融緩和の幕引きにたどり着けるかどうか、2024年はまさに正念場の1年になる可能性が高いでしょう。

(野村證券経済調査部 美和 卓)

※野村週報 2024年新春合併号 「内外経済展望」より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
※掲載している画像はイメージです。

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