• FRBの利下げや中国経済の安定化が実現すれば、新興国への資金流入が期待される
  • キャリートレードが弱まれば、ファンダメンタルズも新興国通貨を左右する要因に
  • 主要新興国で選挙が予定されているが、大きなサプライズの可能性は低い

2023年はFRB(米連邦準備理事会)の金融引き締め長期化や中国経済減速懸念などを背景に新興国への株式投資などは低調でしたが、新興国金融市場は大規模な資本流出を回避できました。新興国は概ねインフレに対して早めの利上げで対処するなど、適切なマクロ経済政策運営で外部要因に対する耐性を示しています。

個別通貨では、23年は対米ドルでメキシコペソ、ポーランドズロチ、ブラジルレアルが堅調、トルコリラ、ロシアルーブル、南アランドが軟調でした。中南米通貨や欧州新興国通貨は高金利に支えられましたが、一部の欧州新興国通貨はインフレ率の高さや巨額の経常収支赤字などファンダメンタルズの悪化が嫌気されました。

2024年には新興国の株式や債券への資金流入は一段と回復すると見られます。新興国への株式・債券フローは、FRBの金融政策、新興国と先進国との成長率格差などの影響を受けやすいと考えられます。アジア新興国での利上げは景気を失速させるほど大規模には実施されてこなかったことなどを踏まえると、24年の新興国景気は減速しつつも失速を回避するでしょう。FRBは24年6月から利下げを開始し、新興国経済の減速は先進国経済に比べて小幅にとどまるとの前提を置くと、新興国への株式・債券フローは大きく持ち直すと見込まれます。

24年は23年に比べてキャリートレード(金利の低い通貨で資金調達して金利の高い通貨で運用して利ザヤを稼ぐ手法)は弱まる可能性があります。FRBの金融緩和後に新興国各国中銀は利下げに積極的になると想定されます。FRBの利下げや世界景気の不透明感で金融市場全体でボラティリティが上昇すれば、キャリートレードの妙味が低下することも考えられます。

キャリー需要だけではなく、ファンダメンタルズも新興国通貨を左右する材料になるでしょう。新興国への投資に際し、投資家は財政収支や経常収支、インフレ動向などを重視する傾向があります。そこで、各国の対外ファイナンス、財政リスク、インフレリスクを考慮して脆弱性指数を作成しました。

脆弱性指数を見ると、ロシア、タイなどでファンダメンタルズが健全で、南ア、トルコ、ハンガリーで脆弱なことが示されています。また、地域別では全般的にアジアが健全で、欧州・アフリカや中南米が脆弱です。2024年に向けて良好なファンダメンタルズがアジア通貨の追い風になると見込まれます。金利動向やファンダメンタルズを踏まえると、タイバーツ、メキシコペソ、ブラジルレアルなどは新興国通貨のなかでも対米ドルで好調と予想されます。

一方、政治面では、24年は主要新興国の多くで選挙が予定されています。現在の世論調査を踏まえると、インドネシア、インド、南ア、メキシコでは政権交代で政策方針が大幅に転換するリスクは低そうで、大きなサプライズはなさそうです。インドでは、モディ首相率いるインド人民党が単独で過半数の議席を確保し、新政権は製造業振興などの企業寄りの政策を継続すると期待されます。23年12月3日に地方選の結果が公表され、重要3州でインド人民党が勝利し、同党は勢いづいています。インドネシアでも現職のジョコ・ウィドド大統領は3選を禁じる憲法規定で退任予定となっており、有力候補プラボウォ氏とガンジャル氏はジョコ・ウィドド政権の政策路線を踏襲することを表明し、新首都開発やインフラ投資の積極化などが期待されます。

24年は新興国経済や金融市場への投資が市場で注目されそうです。世界的にインフレ率は低下傾向にあり、先進国・新興国ともに金融政策は利下げへ転換しつつあります。世界経済が深刻な景気後退に陥らなければ、相対的に高成長の新興国に株・債券資金が流入しやすいと考えられます。米中対立でサプライチェーンを分散する動きもメキシコ、ASEAN諸国、インドなどでは引き続き恩恵になると見られます。選挙後の政策動向なども意識したうえで、新興国各国のファンダメンタルズを見極めながら投資を行うことが大切です。  

(野村證券市場戦略リサーチ部 春井 真也)

※野村週報 2024年新春合併号 「新興国為替市場」より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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