- 2023年には本邦投資家による為替ヘッジなしの米国債購入が進展した模様
- 2024年にはFRBが利下げを実施、円高米ドル安が進む可能性
- 本邦投資家は円債回帰の公算
2023年には本邦投資家による為替ヘッジなしの米国債購入が見られましたが、24年には本邦投資家の円債回帰が進むと予想されます。理由として、FRB(米連邦準備理事会)が24年6月に利下げを開始、円高米ドル安が進み、また、日本国債の利回りが為替ヘッジ付きの米国債利回りを上回ると予想されることが挙げられます。
FRBは24年6月に0.25%ポイントの利下げを実施すると当社は見込んでいます。24年6月には予防的利下げの条件が満たされると考えられるからです。
予防的利下げの条件は、ウォラーFRB理事の23年11月28日の発言を踏まえると、コアPCE(除く食品、エネルギーの個人消費支出)デフレーターが3~5ヶ月間、前月比0.2%程度の上昇を続けることと考えられます。24年半ばにかけて、基調的な物価上昇率であるコアPCEデフレーターの前月比は0.2%程度で推移、FRBは24年6月に0.25%ポイントの予防的利下げを実施すると野村では予想しています。
また、非農業部門雇用者数の前月差が10万人未満に減速すると、米国の利下げの可能性がより高まります。FRBの一部は、インフレ目標達成と整合的な非農業部門雇用者数の前月差は約10万人としています。予想される米経済の減速により、24年4-6月期には非農業部門雇用者数の前月差は約7万人と、23年11月の19.9万人から減速すると野村では見込んでいますが、この点からもFRBによる24年6月の利下げの可能性があります。
その後、FRBは24年7月に政策金利を据え置くものの、24年9月以降、FOMC(米連邦公開市場委員会)会合毎に0.25%ポイントずつ利下げを実施、米政策金利は24年末には4.25%~4.50%と、現在の5.25%~5.50%から引き下げられると考えています。24年後半の米国経済は、雇用の減少を伴う景気後退に陥ると予想しているためです。
予想される米政策金利の低下、米国債の利回り低下は、日米金利差の縮小を通じ、米ドル安・円高をもたらすと考えます。米10年債利回りのピークは事後的に見れば、23年10月19日の約4.98%となり、米10年国債利回りは24年末に3.45%に低下すると野村では見込んでいます。
また、日本銀行による政策修正も米ドル安・円高要因と考えます。日本銀行は24年1月にマイナス金利を解除、4月にイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃すると野村では見込んでいます。24年後半に予想される米国の景気後退を踏まえると、日本銀行が政策金利をプラス圏内に引き上げる可能性は低く、日本10年国債利回りは上昇するとしても1%が上限と考えています。それでも、日本銀行による引き締め措置は米ドル安・円高圧力となり得ます。
24年に本邦投資家は、日本国債市場への回帰を強める可能性があります。24年には為替ヘッジ無しでもヘッジ有りでも米国債の保有に妙味を欠くと予想されるためです。
23年においては本邦投資家による為替ヘッジ無しでの米国債投資が進みました。米国のインフレ圧力が根強く、FRBが利上げを継続、米ドル高・円安が進むとの期待も、為替ヘッジなしでの米国債投資が進んだことの背景にあると考えられます。
しかし、24年に米ドル安・円高が進めば、本邦投資家の一部が、23年に為替ヘッジなしで投資した米国債を売却することも考えられます。
このような中、日本国債利回りは引き続き、為替ヘッジ付き米国債利回りを上回ると予想されます。現在、日本国債利回りは、全年限に亘り、為替ヘッジ付きの米国債利回りを大幅に上回っています。円ベースの投資家にとって、米ドルの為替ヘッジコスト(3ヵ月物)が6%弱と高止まりしているためです。24年には、米ドルの為替ヘッジコストは低下するものの、限定的に留まる可能性があります。24年にFRBは延べ1%ポイントの利下げを実施すると見込んでいますが、日米短期金利差は開いたままとなり、24年末の米ドルの為替ヘッジコストは4%台後半となる可能性があります。24年末の米10年債利回りを3.45%と野村では予想していますが、円ベースの米ドル為替ヘッジコストがそれを上回り、24年末の為替ヘッジ付き米10年債利回りはマイナスのままになる可能性があります。本邦投資家にとっては為替ヘッジ付きで米国債に投資する妙味は殆どありません。
今後、本邦投資家の一部は、利回りの面から妙味の高い日本国債に資金を振り向けることも考えられます。23年10月に発表された日本の大手生命保険会社10社の23年度下期の運用計画などを踏まえると、生命保険会社は総じて、24年3月の日本30年債利回りを2%弱と見通している可能性が窺えます。日本銀行が24年に政策修正を実施し、23年12月18日時点で1.6%台にある日本30年債利回りが2%程度に上昇すれば、一部の投資家は、これ以上の利回り上昇(債券価格の下落)余地は限定的と判断し、日本の超長期国債の購入が進む可能性もあります。
(野村證券市場戦略リサーチ部 岸田 英樹)
※野村週報 2024年新春合併号 「内外債券市場」より
※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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