- 国内の政治情勢は不透明に、海外投資家の動向を左右する可能性
- 米国は、大統領選挙の結果だけではなく、与党が上下院で過半数を得るかに注目
- エマージング諸国(インドネシア、インド、南アフリカ、メキシコ)の選挙の影響に注意
2024年、金融市場に影響を与え得る政治イベントが3つあります。第一に、国内政治です。海外投資家は、アジア地域の株式投資に際し、成長性が低下した中国から安定性のある日本に目を向けてきました。経済に加え、政治の安定性も評価されていたと見られます。
ところが、23年12月に自民党の政治資金問題が発生し、内閣支持率だけではなく、自民党支持率も低下しています。24年1-6月の通常国会では、野党が厳しく追及すると見られます。ただし、与党は衆議院で絶対安定多数を握っており、24年度の予算や税制改正が不成立に終わることはないでしょう。野党は政治資金規正法の改正などを要請しているため、必ずしも通常国会途中の解散総選挙を求めている訳ではありません。しかし、支持率が戻らないと、相応の与党議席数の減少が見込まれるため、岸田首相が通常国会会期末に解散し、24年7月に総選挙が行われる可能性は低いでしょう。
一方、24年9月の自民党総裁選挙は、岸田首相が続投するのか、岸田首相が総裁選挙に出ない場合、誰が有力候補となるのかには不透明感があります。日本では、首相が交代しても、与党政権が続く限り、経済政策が引き継がれています。また、戦後政治では頻繁に首相が交代してきたことから、長期政権を常態と見ないのが一般的です。
ところが、海外投資家は、小泉政権、安倍政権(第2~4次)のような長期政権への期待が高く、仮に、24年9月に岸田首相が退いた場合、対日投資を見直す機会になるのかには注意が必要でしょう。
第二に、24年11月の米国の大統領・議会選挙です。バイデン大統領(民主党)が再選を目指す一方、共和党は新人ではなく、トランプ前大統領出馬の可能性が高い状況です。米大統領は単に政治のリーダーというだけではなく、国家元首である以上、その資質を問う傾向があります。
トランプ前大統領は、2024年3月以降、議会襲撃、選挙結果の捜査、公文書の持ち出し、脱税などの刑事事件の裁判が始まり、資質が問われる状況にあります。一方、共和党はバイデン大統領自身と息子ハンター氏の腐敗に関する疑惑でバイデン大統領の弾劾を進めようとしています。弾劾成立の可能性は低いものの、共和党が、24年の大統領選挙が、両候補の資質の争いになることを念頭に置いていることが窺えます。
このため、トランプ前大統領の資質に問題があると米国民が判断し、バイデン大統領が勝利しても、4年間のバイデン政権の実績を評価したとは限りません。議会選挙では上下両院で民主党が過半数を握る可能性は低いでしょう。逆に、バイデン大統領の腐敗が立証され、批判を浴びた結果、トランプ前大統領が当選したとしても、トランプ前政権の過去4年間の実績が評価されたわけではなく、上下両院で共和党が過半数を占めるかは不透明と言えます。
日本では大統領選挙の結果のみが注目されがちですが、与党が上下両院で過半数を占めない限り、予算や法案の形で公約を実現できず、膠着状態になる可能性があります。もっとも、金融市場の一部には、トランプ前大統領の復活を懸念する向きがあります。総じて、バイデン大統領再選時に比べてインフレ圧力が高まると見られています。FRB(米連邦準備理事会)の独立性を軽視し、議長をはじめとした人事で議会と対立する可能性、中国や日、欧、メキシコ、カナダと通商摩擦が再燃し、安価な輸入品が流入しない可能性、移民流入制限による人手不足発生の可能性、ウクライナ支援の停止によって原油高が生じる可能性、などが想定されています。
第三に、主要なエマージング諸国で24年、選挙が相次いで行われます。米国が24年に利下げに転じるのであれば、成長性の高いエマージング諸国への注目が集まるところです。もっとも、市場は、各国の政情や経済政策を吟味すると見られます。ジョコ・ウィドド大統領が退き、新人の争いとなっているインドネシア大統領選挙(2月)、モディ政権の実績を問うインド総選挙(4~5月)、腐敗問題で支持を失いつつある与党・アフリカ民族会議にとって正念場となる南アフリカ総選挙(5月)、優勢とされる与党候補が、ロペス・オブラドール現政権と同様の現実路線をたどるのか、左派的なばらまき路線に傾斜するのかが注目されるメキシコ大統領選挙(6月)が挙げられます。
最後に、金融市場で注目されている地政学リスクは3つあります。第一に、米中関係については、23年11月の米中首脳会談において、対立激化を回避することで双方の利害が一致したと見られます。第二に、ウクライナ紛争については、膠着化、長期化が見込まれます。24年3月のロシア大統領選挙前に、ロシア軍が攻勢をかけるリスクや、西側諸国での支援疲れのリスクはあるものの、金融市場への影響は限定的と考えられます。第三に、ガザ紛争(イスラム教組織ハマスとイスラエルの衝突)については、欧米の参戦がなく、油田や原油の輸送路から離れており、サウジアラビアがハマスを支援する可能性が低いことを踏まえると、金融市場への影響は限定的と見られます。
(野村證券経済調査部 吉本 元)
※野村週報 2024年新春合併号 「内外政治」より
※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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