「辰」には龍が割り当てられています。十二支の動物では唯一空想上の存在ですが、古代中国では実在すると考えられていました。現在も中国では恐竜の化石が多く出土します。古代の人々もこの化石を目の当たりにし、その存在を信じたのでしょう。

古代中国で龍は麒麟、鳳凰、霊亀と並んで四霊獣の一つとされ、天地を行き来し水と雨を自在に操るものと考えられていました。勇ましく絶大な力を持つことから権力の象徴となり、「伝説上の君主・黄帝が龍とともに天へと昇っていった」など、王にまつわる逸話が数多く残っています。龍の存在は日本にも中国から伝わったとされ、『日本書紀』に登場するヤマタノオロチ、全国各地の神社で祀られている水を司る「龍神」などが知られています。さらにゲームや物語にも頻繁に描かれていることから、空想上の生物でありながら、非常に身近な存在でもあると言えるでしょう。

さて、それでは恒例の「甲辰」縁起談。二回り前の甲辰は明治37年(1904年)です。2月には日露戦争が勃発しました。日清戦争からわずか10年での開戦です。国内では根強い戦争反対論がありましたが、人的、経済的に大きな負担を重ねながら翌年9月まで続きました。9月に与謝野晶子が発表した「君死にたまふことなかれ」は、日露戦争の旅順攻囲戦に従軍していた弟を思って作られた詩です。

一回り前の甲辰は昭和39年(1964年)。この年はなんといってもアジア初開催となった東京1964オリンピックがありました。このために建設が進んでいた施設や交通網の整備が、続々と完成します。10月10日の開幕を前に、1日には東海道新幹線が開業し、2日後の3日には柔道競技会場として日本武道館が開館。中継を見るためのテレビの購入、会場への旅行の増加も後押しし、オリンピック景気をもたらしました。

東京1964オリンピックで、日本選手はこれまでの努力の成果をいかんなく発揮し、金メダル16個を含むメダル29個を獲得。この快進撃は、日本の人々にとってスポーツをより身近なものにしたと言えるでしょう。

野球では村上雅則がアジア人初のメジャーリーガーに。他にも王貞治がシーズン55号本塁打を達成するなど、記録にも記憶にも残る躍進が続きました。

1964年は海外旅行自由化の年でもあります。4月から観光目的のパスポートの発行が開始され、年1回、持ち出し500米ドルまでという制限付きで個人の海外旅行が可能になりました。同じく4月には「ミロのヴィーナス」がフランスのルーブル美術館から来日し、80万人の動員を記録。世界との距離がぐっと縮まる一年だったと言えそうです。

一方で、数々の自然災害に見舞われた年でもありました。6月には新潟地震、7月には東京で深刻な水不足が発生し、「東京砂漠」と呼ばれる事態になりました。一方で、同じ月には山陰北陸豪雨も起こっています。

世界に目を向けると、総合的な黒人差別をなくす立法措置として公民権法が成立。これまでの公民権運動がようやく実を結びました。4月には、映画『野のユリ』に主演したシドニー・ポワチエが黒人初のアカデミー賞主演男優賞に輝きました。また、12月にはキング牧師がノーベル平和賞を受賞しています。

「甲(きのえ)」は十干のはじまりにあたり、「木の兄」、つまり大きな木を指します。甲冑の「甲」の字から連想される通り、草木の種子が硬い殻に覆われ、成長の時を待っている状態を意味しています。「辰」は二枚貝が開いて間から足を出している状態を示し、「のびる」「ふるう」などを意味します。ここからは、はじまりの地点に立ち、殻を破って勢いよく成長していく年と読み解くことができるでしょう。

2023年、ふつふつと湧き上がる力を見せはじめた株式相場が、2024年こそ龍のように勢いよく、天まで高く上昇する吉年となりますよう。

(紙結屋小沼亭)

※野村週報 2024年新春合併号 「甲辰」縁起より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
※掲載している画像はイメージです。

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