野村ホールディングス ファイナンシャル・ウェルビーイング室SCO(シニア・コミュニケーションズ・オフィサー)の池上浩一が、NISA(少額投資非課税制度)や投資に関する疑問にお答えする本連載。最終回では「実際にどのような方法で投資をすべきなのか」「投資をする時の心構えを教えて欲しい」という2つの質問にお答えします。

「時間」と「資産」の分散を

まず、「実際にどのような方法で投資をすべきなのか」という疑問に対する私の答えは

積立による「国際分散投資」により「時間」と「資産」を分散させるのがよいのではないかというものです。

国際分散投資の重要性については、これまでの連載でも説明しましたが、それでも「国際分散投資は危ない」と考える人は、きっと「日本に住んでいるから日本円を保有していれば安全」と考えているのではないでしょうか。

円を持っていればあくまで「円ベース」では損をすることはありません。ですから、国際分散投資をしてしまうと、円高になると損失が出てしまう、と考えている人もいるのではないでしょうか。

しかし、適切に国際分散投資をしておかないと、インフレや円安が進んだ時、円で保有している現金や資産の価値が目減りします。生活のコストが上昇した時により大きな負担を抱えることになるのです。

国際分散投資における重要なキーワードは「分散」。分散は大きく「時間の分散」と「資産の分散」に分かれます。

買う時も売る時も役立つ「ドルコスト平均法」

第一に「時間の分散」について解説します。これを実現するための基本的な考え方は「ドルコスト平均法」です。一定の時間をかけて、例えば毎月に同じ金額分、コツコツと株式や投資信託などを買い続けることにより、効果を発揮する手法です。

株式や投資信託の値段は、日々変動します。定期的に同じ金額を投資することにより、安い時にはたくさんの株数、口数を買うことができ、値上がりすると、安い時に買った資産額が膨らみます。

ドルコスト平均法は、資産を売却する時にも有効です。資産を数回に分けて売却するという手法です。「継続的にコツコツ」と売却することにより、売却額も平準化することができます。

金融商品は日ごろから値上がりと値下がりを繰り返すものですから、ドルコスト平均法は非常に合理的な手法といえます。

次に「資産分散」について説明します。日本円は現時点ではインフレに弱い通貨です。インフレの時に価格の上昇が期待できる資産である、資源や食料関連企業への投資を行いつつ、円をドルやユーロなどに両替することによって通貨分散などを行う。「グレートローテーション(安全資産から高リスク資産への大転換)」の考え方で、国際分散投資を検討することが大切です。

しかし、適切に通貨分散とインフレヘッジ(インフレによる通貨価値の下落を回避するため、現預金を他の金融商品や不動産、他国の通貨などに変えること)をしても、それで終わりではありません。通貨や資産の価値は常に変化し続けるからです。

さらに例えば、家庭を持てば、住宅の購入や子どもの教育に悩むこともあるでしょう。また、親の介護の問題に直面することもあるでしょうし、退職が近づけば自らの余生の計画について苦悩するなど、様々な場面に遭遇する可能性があります。

資産の状況を常に把握しながら、さまざまな状況に応じて、分散の比率などを見直す「リバランス」を行うことが、資産防衛には必要不可欠だと考えます。

時間を「味方」につける

それでは、最後に「投資をする時の心構えを教えてほしい」という質問にお答えします。

まず結論ですが、私が投資をする上で最も大切だと考えているのは、「時間を味方につける」ことです。

投資をする時に最も大切なのは時間で、長い人生を考えて投資を始めることは、長い時間をかけて資産形成ができるという意味で正しい決断である、と考えます。

ドルコスト平均法で金融商品の購入を始めたとします。一定期間、金融商品を購入し続けると、当然ですが日々の値段の変化が気になり始めます。そして、値下がりし始めると資産を保有し続ける自信が無くなって、すぐに売却してしまう人がいます。

私見ですが、短期売買を繰り返す手法は、よほど運が良い人か、天性の才能がある人でないと資産を安定的に増やすことはできません。なぜなら、オプション理論により、現在の金融業界では、価格が変動する全ての資産の過去と未来の価格変動率(ボラティリティ)が数値化、共有されているからです。

短期的に売られても、長期的に買う

さらに技術の進歩で、AI(人工知能)によるトレーデイングの取引量が急増しています。注文の執行能力も飛躍的に進歩しており、ヘッジファンドなどが数秒間に数万件の売買注文を世界中の市場に出すことも可能になっています。

このような背景もあり、金融商品の過去と未来のボラティリティの差が広がり、売りが売りを呼ぶ展開になることが増えています。近年、一方的な株式市場の価格変動が継続的に起こっているのはそのためです。

大切なのは、ボラティリティによる価格の上下動で、「長期投資」と「短期投資」の流れが逆向きになるケースがあることを認識することです。皆さんは長い人生を充実して過ごすことを目的として資産運用をしています。

長期的方向性のことを金融業界では「トレンド」と呼びます。つまり、皆さんはトレンドを踏まえ、10年後、20年後という未来に値上がりしていることが期待できる資産を選び、ドルコスト平均法で投資をするのです。このため、短期的には大きく値下がりする可能性を踏まえる必要があります。

長期的な投資の方向性をしっかり持ち続けることができれば、短期的な価格の下落などは「絶好の買い場」にもなります。未来のための資産が短期的なボラティリティによる価格の上下動で値下がりしても、慌てることなく、継続的に買い続けることが大切です。

ただ資産が値下がりした時でも、その時点の価格が最安値とは限りません。今後、さらに値下がりするかもしれないのです。だからこそ、積立投資で継続的に買い続けることが大切と言えます。

私は、時間を味方につけることが投資にとって何よりも大切だと考えています。短期的に価格が下がっても、未来の自分を守ってくれる資産と考えて買い続けることは正しい選択だと思うのです。

トレンドが変化したら、投資方針の変更も

一方、重要なのはトレンド、つまり未来に対する見方が変わった時、ためらうことなく投資の方針を変えるための検討をしなければならないという点です。

このため、日々のニュースやボラティリティによる価格変動に一喜一憂せず、長期的な視点で世界の変化と世界経済の展望を見通すための努力が必要になります。

NISAが拡充されたからこそ、投資する人一人ひとりが、投資の名著と言われる本から著名投資家がSNSで発信する情報まで、さまざまな情報源を開拓し、それを基に正しく状況を判断して行動できるよう、金融リテラシーを身に着けることが求められている、と言えそうです。

(おわり)

池上 浩一
野村ホールディングス株式会社ファイナンシャル・ウェルビーイング室SCO(シニア・コミュニケーションズ・オフィサー)。1979年野村證券株式会社入社、人事部に配属。英ロンドン大に留学後、海外投資顧問室、第一事業法人部、国際業務部を経て、法人開発部長やIR室長、グループ本部広報部長兼宣伝部長などを歴任。2011年から名古屋大客員教授も務める。2023年4月から現職。社内では、日本版金融ビッグバンの際に講演をしていたことから「ビッグバンおじいさん」と呼ばれて親しまれ、社内サイトでの連載コラムは約1000回を数える。

※本稿は、2024年1月現在の情報に基づくものです。
※掲載している画像はイメージです。

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