
2024年米国大統領選挙
1月15日のアイオワ州党員集会から本格スタート
2024年の米国における最大の注目イベントとして大統領選挙が挙げられます。米国の大統領選挙は2段階に分かれています。まずは民主党と共和党が大統領候補を選出する予備選挙・党員集会が行われ、夏場の党大会で両党の大統領候補が選出されます。その後、両党の候補が一騎打ちで争い、11月5日の本選挙でより多くの選挙人を獲得した候補者が当選する仕組みです。
24年の大統領選挙は1月15日のアイオワ州の党員集会(共和党)を皮切りに本格的にスタートします。例年、予備選挙・党員集会が集中開催される3月5日のスーパーチューズデーには概ね大勢が決まります。民主党からは現職のバイデン大統領が選出されることが確実視されています。一方、共和党では複数の候補が立候補を表明していますが、世論調査ではトランプ前大統領が首位を独走しており、最有力候補として見られています。
各種世論調査では、足元でバイデン大統領とトランプ前大統領の支持率は拮抗しており、両者の直接対決となった場合、選挙結果は予断を許さない状況が続いています。バイデン大統領苦戦の一因として、イスラエル情勢が挙げられています。バイデン大統領はイスラム組織ハマスのイスラエル襲撃に対してイスラエルへの連帯をいち早く表明しました。ただし、足元では民主党支持者の間でも若者を中心にパレスチナへの同情論が高まっています。ユダヤ教徒、若者ともにバイデン大統領にとっては重要な支持基盤であることから、対応に苦慮している模様です。
一方、トランプ前大統領も万全とは言えません。トランプ前大統領は2021年に支持者が議会へ乱入した事件に関与した罪で複数の州で大統領選挙への出馬資格を巡って提訴されており、このうちコロラド州、メイン州は州内予備選への立候補を認めないと決定しました。この件に関して、米連邦最高裁は24年1月5日、トランプ氏の大統領選挙出馬資格を巡る審理を同年2月8日から開始することを明らかにしています。最高裁の判断は全国に適用されます。
※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。

大統領選後も政治的リスクは残存
米国では大統領選挙と同時に、議会選挙が実施されます。2024年の議会選挙では、下院の全議席と上院の3分の1の33議席が改選の対象となります。米国議会では現在、いずれも僅差ながら下院は共和党が、上院は民主党が過半数を占める「ねじれ議会」となっています。このため、重要法案の審議がたびたび滞っており、2023/24年度予算(23年10月~24年9月末)も暫定予算が組まれています。この暫定予算の一部は24年1月19日に期限を迎える(退役軍人給付等。その他は24年2月2日までの期限)ことから、それまでに本予算が可決されるか、再び暫定予算が組まれなければ、最悪の場合は政府閉鎖等に追い込まれるリスクがあります。
今回の選挙では上院の改選議席のうち、民主党の占有議席が20議席、共和党が10議席、独立系が3議席です。また、民主党から5名、共和党からは2名の議員が不出馬を表明しているとの報道もあり、民主党にとってはかなり厳しい戦いになりそうです。一方、共和党も大統領、ならびに上下両院で過半数を占めること(レッドウェーブ)は簡単ではないうえ、トランプ前大統領が返り咲いた場合でも、共和党の穏健派と対立し、議会運営が停滞する可能性が否定できません。
米大統領選挙年における市場の経験則
米国大統領選挙を巡る市場のアノマリー(経験則)として、米国株式市場では「大統領選挙の年には株高になる」というものがあります。これは、特に現職の大統領が再選を目指す場合に、選挙戦に有利に働くよう景気刺激策を実施することが多いためだと言われています。上述したように、今年度に関しては本予算さえ成立していない状況です。ただし、株式市場ではFRB(米連邦準備理事会)が利下げに転じることで、長期金利が低下し、株高につながるとの期待が高まっています。このため、当面の間は、景気が弱い方がむしろ株価にとっては追い風になるかもしれません。
同様に、為替市場では「大統領選挙の年には米ドル円相場は動きにくくなる」といった経験則があります。下記の図表は各年の米ドル円レートの年間値幅を年間の平均値で割った変動率を見たものです。これを見ると、前後の年と比べて大統領選挙の年は米ドル円の変動率が小さくなる傾向がうかがえます。2008年と2016年は前後の年に比べ変動率が大きくなっていますが、前者は世界金融危機(リーマンショック)が発生した年であり、後者は中国景気の減速から世界的に「製造業の景気後退(インダストリアル・リセッション)」が生じ、日銀がマイナス金利政策やYCC(長短金利操作)政策を導入した年です。トランプ前大統領が当選したのも2016年の選挙でした。
野村證券では、FRBが利下げに転じ日米間の金利差縮小が予想されることから、24年末の米ドル円レートは1米ドル=135円と、円高米ドル安方向の相場展開を予想しています。ただし、過去の経験を踏まえれば、当面の間は予想以上に膠着感の強い相場が続くかもしれません。

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)
※掲載している画像はイメージです。