野村證券の社内企画「四季報の会」。同社投資情報部のリサーチャーらが『会社四季報』(東洋経済新報社刊)2024年新春号を読破し、パートナー(個人投資家向けの営業担当者)向けに、解説した。まず、新春号の前半(銘柄コード1000~4000番台)の解説の一部を紹介する。

【巻頭】日本企業全体の業績は引き続き堅調

巻頭の『【見出し】ランキングで見る業績トレンド』を見ると、上位3つの見出し「続伸」「上振れ」「上向く」の順序自体は前号の2023年秋号(2023年9月発売)と変わっていません。日本企業の業績は前号から引き続き、堅調さが維持されていることがわかります。

また、今号では「DOEランキング」が掲載されています。DOE(Dividend on equity ratio)は「株主資本配当率」を指し、企業が株主資本に対してどの程度の配当を支払っているかを示す指標です。DOEは前々号の2023年夏号から、四季報での言及が急に増えたワードです。東京証券取引所が2023年3月に開示した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を受け、資本政策を意識する企業が増えたことが要因とみられます。注目される指標についてランキング形式で確認できる点も四季報を活用するメリットです。

【1000番台】建設業の「2024年問題」に注目

四季報では、右側の見出しと文章は直近業績、左側は材料記事となっており、経営のトピックや中期的な戦略などが書かれています。

まず冒頭の極洋(1301)の見出しは右側が「高水準」、左側が「海を越え」となっています。営業利益で高水準を保ちつつ、海を越えるM&Aでさらなる成長を目指しています。仮にM&Aが成功し、利益水準の向上やROE(自己資本利益率)の改善が実現すれば、企業価値が見直され、PBR(株価純資産倍率)での評価も高まるかもしれません。

極洋の比較会社であるニッスイ(1332)も左側の見出しは「最高益」、マルハニチロ(1333)も「高水準」になっていて、価格改定の効果が出ていて水産業はおおむね好調といえそうです。

ショーボンドホールディングス(1414)は道路や橋梁などのインフラ工事を手掛ける企業ですが、注目いただきたいのは、「9割以上の作業所で週休2日制実施」との記載です。首都圏でマンション建設を手掛けるファーストコーポレーション(1430)は群馬県の建設会社と業務提携して、共同住宅建設によって作業員の相互融通、時間の貸し借りのような取り組みを進めるとのことです。

4月から運送業者や建設業者の時間外労働の規制が厳しくなる「2024年問題」が今年の一つのテーマです。先ほど挙げた2社の記載でもわかるように、1000番台の中心である建設業では難しい対策を迫られる企業が多いのではないでしょうか。

人件費の高騰が建設業では喫緊の課題となる中、収益性の高い案件を選んで受注することができるのか、選べるほど受注環境が良好になってくるかどうかが建設会社にとっては重要な要素となりそうです。足元の受注高や利益率も四季報では確認することができるので、「2024年問題」にうまく対応している企業を見つけたいですね。

その他、建設業で目を引いたのは、「大型SEP船」という言葉です。SEP船(自己昇降式作業台船)とは、海上作業用の箱船(台船)を海面上から上昇させてクレーン、杭打ち等の作業を行う台船のことです。

では、海上で何を建設するのかでしょうか。清水建設(1803)には、「大型SEP船は24年2月に台湾沖洋上風力工事で稼働」とあります。鹿島建設(1812)にも「五洋建設と共同開発のSEP船は北九州・響灘洋上風力工事で23年11月稼働」とあり、どうやら洋上風力発電所の建設に使用していることがわかります。大手ゼネコンだけでなく、準大手ゼネコンなどでもSEP船を使用した洋上風力発電の建設に注力している様子が四季報を読むとわかります。これも今年の建設業界におけるテーマの一つになるのではないかと期待しています。

【2000番台】製パン2社で明暗分かれる

2000番台は主に食料品や小売の企業が中心です。引き続き、価格転嫁による利益の増加が目立っている様子がうかがえます。

ニップン(2001)は右側の見出しに「最高益」とあります。左側の見出しは「効率化」、さらには「M&Aに前向き、海外にも強い関心」とあります。同業で国内最大手の日清製粉グループ本社(2002)を見ていただけますと、こちらも右側の見出しに「最高益」とあります。国内での価格改定が浸透し、小麦から小麦粉を製造する際に発生する副産物であるふすまの販売で利益を増加させているようです。

昭和産業(2004)は右側の見出しが「急反発」となっており、「農産物の原料高を反映した価格改定の効果が大きい」とあります。そして左側の見出しは「重点」となっており、「グループ会社を含めた生産拠点の最適化で収益改善を進める」とあります。製粉各社は前号からさらに改善している印象ですが、株価はやや伸び悩んでいます。持続的に利益を伸ばしていくための次の一手や、株価の上昇につながるような経営戦略を株式市場は期待しているのではないか、そして市場参加者は、その成果を見極めようとしているのではないかとみられます。

次に、製パン2社で比較してみたいと思います。まず、山崎製パン(2212)は値上げが浸透して、業績が改善してきています。長らくPBR1倍を割って推移していましたが、今号では1.73倍とかなり回復してきており株価も堅調に推移しています。見出しにも「好調」とあり、原材料高の影響も落ち着いてきているようです。一方の第一屋製パン(2215)は、見出しは「足踏み」となっており、こちらは「原材料費が一段高」とあります。

山崎製パンと第一屋製パン(注)を比較すると、原材料高が一巡している山崎製パンと、原材料高が一段高の第一屋製パンとで、営業利益の予想・伸び率にかなり差があります。山崎製パンの方はROE(自己資本利益率)が改善し、増配も継続するとの予想です。この2社を比べてみても、企業の資本効率改善の動きは、持続的な株式市場の評価に繋がるといえそうです。

(注)第一屋製パン(2215)「継続企業の前提に関する重要事象」の記載あり

【3000番台】祖業を手放す企業も

3000番台は繊維、外食、小売や不動産も含まれています。世の中の様々なトレンドを見ることができる番台と言えます。

小売りの神戸物産(3038)は「業務スーパー」で知られる企業です。右側の見出しは「小幅増益」となっており、「冷凍食品など高採算のPB(プライベートブランド)比率上昇」とあります。

PBは、小売業者がメーカーに大量発注し、自社ブランドを使って多くの店舗で販売するため、仕入価格も抑えられ収益性も高い商品です。インフレが進む一方で値上げも難しいといった状況でも、効率的かつ収益性の高いものを展開することで、さらに一段と利益を上げようとしています。PB比率を高めようとする小売企業は、今号で大変多く散見されました。PB比率を高めることに成功している企業は総じて、堅調な業績推移となっている点が印象的でした。

「資本政策のダイナミズム」が大きく働いている企業が大変多く見られましたので、いくつかご紹介したいと思います。鉱物や金属素材などの専門商社、ラサ商事(3023)は完全子会社の化成品専門商社、イズミを吸収合併し、経営資源を集約するそうです。DCMホールディングス(3050)は左側の見出しに「完全子会社化」とあります。持分法適用会社のケーヨーを523億円で買収し完全子会社化するとのことです。

ダイワボウホールディングス(3107)は「祖業譲渡」とあります。もともとダイワボウは「大和紡績」という会社から始まりました。子会社である大和紡績を譲渡し、今後は経営の効率化を目指していくのでしょう。東証の要請を受け、資本政策も大胆になり、ドラスティックな変化が起きているといえます。

【4000番台】半導体関連、2024年度復調か

4000番台は、化学や医療機器、情報通信やコンサルティングなど幅広い企業が含まれています。

レゾナック・ホールディングス(4004)はかつての昭和電工で、鉄のスクラップを溶かすために使用する電炉用の黒鉛電極で首位、半導体材料も手掛けています。

右の見出しは「浮上」となっていますが、直近の業績については、「半導体・電子はメモリー顧客減産大打撃」などと書かれています。記録媒体などで使用する「HDメディア廃棄損も響く」とのことで、12月期決算の企業ですので前期の話ですが、苦戦している様子がうかがえます。一方、2024年12月期以降は半導体や電子関連などが復調に向かう模様です。

住友精化(4008)の主力は、紙おむつ用の吸水性樹脂ですが、やはり半導体関連も手掛けており「半導体在庫調整で機能マテリアルは微減」とあります。こちらも半導体で苦戦している状況は共通しています。しかし「2025年3月期はエレクトロニクスガス回復」とも書かれています。こちらも半導体、エレクトロニクス関連の市況反転が近づいていることを示唆する書きぶりです。

トクヤマ(4043)は半導体用シリコンで世界大手ですが、先ほどの2社と同様に「2025年3月期は半導体関連上向く」という記述になってます。

この3社以外でも、半導体・エレクトロニクス関連を扱う企業が「2025年3月期から回復へ向かう」という記述が多く見られるのが4000番台の特徴だと思います。

半導体関連の回復についてより注目したいのが信越化学工業(4063)です。塩化ビニル樹脂、半導体シリコンウエハーで世界首位の企業です。生活環境基盤材料の利益率は41%、シリコンウエハーを含む電子材料は34%と、非常に高収益の事業を複数展開しています。

2024年3月期は「電子材料、ウエハはメモリー・ロジック顧客はともに在庫調整で苦戦」などと書かれている一方で、2025年3月期は「塩ビ安定貢献、ウエハも下期回復」とあります。収益性の高い両事業が回復してくるとの見方が足元の株価上昇につながっているとみられます。

国内首位の製薬企業、武田薬品工業(4502)は、新型コロナウイルスのワクチンの収入がなくなったことで右の見出しも「大幅減額」となっています。新興企業の一部でもコロナウイルス国産ワクチンの創薬などを目指した動きもありましたが、現在はウイルスの感染拡大が鎮静化し、独自の開発に向けた動きは一服したように思わせる記述が目立ちました。製薬2位のアステラス製薬(4503)など処方薬を扱う企業が相対的に苦戦している様子がうかがえます。

製薬でも好調なのはロート製薬(4527)です。右側の見出しは「最高益」となっています。また、久光製薬(4530)など、大衆向け医薬品を展開している企業はインバウンド需要なども追い風になり、好調さが目立ちました。

【5000~9000番台】に続く

※「四季報の会」は、パートナー(個人投資家向けの営業担当者)に対して四季報の読み方を解説したものであり、個別の企業の株式に対する投資判断を提供する目的ではありません。

ご投資にあたっての注意点