野村證券社内で長く受け継がれている、四季報を読み解き国内経済の動きを学ぶ「四季報の会」。『会社四季報2024年新春号』(東洋経済新報社刊)を読破した投資情報部のリサーチャーらがパートナー(個人投資家向けの営業担当者)向けに解説した。2回目は後半(銘柄コード5000~9000番台)の一部を紹介する。

【5000番台】成長事業の動向が中期的な注目点に

5000番台の主な業種は石油・ゴム、非鉄金属、金属製品などが中心です。全般的に重厚長大の素材産業が多い番台ですが、東証の要請や脱炭素に向けて変革をとげ、投資家から大きな評価を受ける企業がこの中から出てくると期待しています。

石油は、原油価格の上昇が追い風になったものの、引き続き、事業ポートフォリオの見直し、脱炭素に向けた事業の見直しがまだまだここから、と言った印象です。

出光興産(5019)の右側の見出しは「増配」とありますが、「燃料油は前半輸出伸びても後半は利幅暗転」などとあります。

一方、材料記事となる左側の見出しは次世代の蓄電池「全固体電池」です。「トヨタ自動車(7203)とEV(電気自動車)向けで協業」などと非常にわかりやすいキーワードが出てきます。新しい事業が成長し、企業変革を遂げていくことができるのか、今後も注目したいと思います。

同様に、ENEOSホールディングス(5020)の左側の見出しは「脱炭素」となっており、石油以外の事業に注力していく戦略が見て取れます。石油元売りの企業だけでなく、5000番台の多くの企業が成長戦略に脱炭素関連を掲げており、今後はこの分野で利益を出せる企業の評価が高まるのではないかと期待しています。

5000番台でも、低いPBR(株価純資産倍率)を意識した資本政策を実施、検討している企業がありました。一方、三ツ星ベルト(5192)には、「『配当性向』100%方針は次期中計で見直し、来期以降60%強メド移行か」とあります。一見、株主還元が後退し、株価にとっては悪い材料となりそうな動きですが、後の記述に「国内外で電動パワステ用ベルト生産ライン増強」とあります。

株主に対していつまでも配当性向100%で還元を続けていては、自社の成長自体が困難となります。電動パワステ用ベルトが成長し、現在の利益水準、収益性を改善させることができれば、株主還元以上の評価を中期的に受けることになるのではないでしょうか。

【6000番台】「企業経営の教科書」はあの会社

6000番台は日本の強みともいえる半導体や電子部品、産業用機械、ロボットなどの企業が並ぶ、メインともいえる番台で大手の企業もたくさんあります。

ソディック(6143)をご覧ください。機械メーカー全体、6000番台全体に、今号の全体にもいえることですが、やはり中国市場の厳しさについて触れられています。「主力の中国向けの工作機械が想定以上に低迷」で赤字に転落してしまう見通しです。

続く西部電機(6144)は、右側の見出しが「好転」とはありますが、こちらも「中国の景気減速受け精密機器が減少」と書いてあります。さらにNITTOKU(6145)も「上振れ」ながらも、中国向けは後退しているとのことです。ただ、北米、南米向けは好調のようです。

時価総額の大きな銘柄も中国の影響を受けています。空圧制御機器で世界首位のSMC(6273)も右側の見出しは「反落」です。「中国景気低迷で高採算のEV向け数量減」と厳しいようですが、2025年3月期は欧米向けが伸びてくるそうで、半導体関連も回復する見通しとのことです。中国景気は依然として厳しいものの、その他の地域で回復感がみられる点や、4000番台でも確認したように半導体の回復が来期の業績回復をけん引していく可能性があります。

半導体の話が出たので、続けてディスコ(6146)をご覧ください。半導体の切断装置で世界首位の企業ですが、「生成AI向け牽引」という言葉があります。

生成AI向けの製品では、やはり半導体に注目すべきではないかと考えています。

生成AI向けの製品には、さまざまな半導体を積み上げていく「パッケージ」の技術が必要になるとみられ、TSMC(台湾積体電路製造)などが設備投資し、能力を増強するのではないかという見方があります。これに伴ってディスコの手掛ける装置の需要が伸びる可能性があります。

さらに、エヌビディア製のAI用GPUに搭載されている高性能なメモリ半導体(HBM)の需給も逼迫しており、その設備投資の恩恵を受ける半導体関連銘柄も見受けられました。

生成AI向け半導体のパッケージ技術と、HBMという2つのテーマに沿っているのがディスコで、株価もかなりのスピードで上昇しているのがわかります。EV化のトレンドで、シリコンカーバイドなど実際のパワー半導体関連の技術にも関連する企業なので、株式市場で評価されているのではないかと思います。

東証の要請もあって、企業の構造改革も進んでいます。先んじて構造改革に成功した例の代表格は日立製作所(6501)です。足元は「剥落」になっていますが、株価はずっと右肩上がりで推移しており、PBRでの評価も利益水準も高まっています。業績の悪い部分を徹底的に見直してROIC(投下資本利益率)を向上させている、「企業経営の教科書的な存在」といえそうです。左側の見出しは「再編」です。IT事業を再編し新会社を設立、生成AIなどの事業を推進するようです。今後は自動車向け事業などが焦点になりそうです。

【7000番台】自動車業界「最高益」続出、小売はPB強し

7000番台では輸送機器、特に自動車メーカーや卸売・小売などを中心にご紹介します。

自動車業界は「最高益」や「再増配」「再増額」などの見出しが目立ちました。半導体の供給改善や円安などが追い風となって業績に寄与し、業界全体の営業利益の押し上げにつながっているようです。

世界最大手のトヨタ自動車(7203)は右側の見出しが、「再増額」となっています。「世界販売(台数)は過去最高の1138万台。高単価のSUV(スポーツ用多目的車)が伸長、中国苦戦も台数増の日米欧が高水準」とあります。円安効果や販売価格改定が想定を超えている模様です。米国初の電池工場に1.2兆円の追加投資も行い、2025年には稼働予定ということで、まだまだ期待が持てると考えています。

マツダ(7261)は低燃費で性能が高いエンジンが強みの自動車メーカーで、右側の見出しは「最高益」です。米国などで利幅の厚い高級SUVが貢献しているそうです。営業増益幅も拡大し増配も行っています。

各社の業績を見てわかるのは、現在、北米などを中心にSUVがかなり売れているというのがわかります。高品質なSUVの好調ぶりがさまざまな銘柄に表れています。

7000番台の小売や外食はコロナ禍からの人流回復に伴う売上高の増額が顕著にみられます。また、PB(プライベートブランド)の伸長に伴う営業利益の改善も特徴的でした。

コーナン商事(7516)はホームセンター大手で、大阪府発祥で近畿圏を中心に国内各地に店舗を展開しています。こちらは、買収した九州地盤のホームセンター「HIヒロセ」へのPBの供給を増やし連携とあります。これが右側の見出しにある「連続増配」につながっている可能性があります。

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)は総合ディスカウントストアのドン・キホーテを展開していることで知られています。右側の見出しは「増額」となっています。国内外での出店が進展し、既存店はインバウンド需要などで好調のようです。PB商品の比率を上げており、業績はかなり好調です。

西松屋チェーン(7545)の右側の見出しは「増配」です。こちらも店舗を50店舗増やし、「最高純益で増配」とのことです。左側の見出しは「成長戦略」となっており、「PB商品の海外卸売りは引き合いが強い」とあります。

【8000番台】 地銀、住宅価格高騰で住宅ローン見直し

8000番台には商社や小売、アパレルから始まり、中盤から後半にかけて銀行や証券・保険など金融機関や不動産などの業種が並びます。

商社は全体として、各商品の市況がそのまま業績に影響を与えている印象を受けました。半導体不足の解消を背景に、自動車や建機などの商品は堅調に推移している一方で、石炭や鉄鉱石などは、需要の落ち込みにより減速傾向がうかがえます。

伊藤忠商事(8001)は「石炭鉄鉱石価格下落だが円安恩恵もあり小幅減益止まり」とあります。商品市況が悪化する一方で、円安の恩恵により減益幅が縮小しているという記載は、他の商社でも多く見られました。

左側の見出しは「アンモニア」となっています。次世代エネルギーの開発など将来の成長へ向けた新規投資の動きも見られ、これらの具体的な投資額や完成時期などの動向にも今後注目したいと思います。

次に銀行業界を見ていきます。銀行は前号に続き、金利上昇によるスプレッドの改善を示す記述や、株主還元に関する記述が多く見られました。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の右側の見出しは「最高益」です。「海外軸に預貸金の利ザヤが拡大」しているとあります。やはり金利の上昇が利益に好影響を与えていることが見て取れます。左側の見出しは「巨額」となっており、「24年3月末までに4000億円、4億株上限に自己株取得」とあります。堅調な企業業績の一方で、積極的に株主還元の取り組みを進めていることもうかがえます。

そして、好調な銀行はメガバンクだけではありません。群馬銀行(8334)は「県外法人や住宅ローン軸に貸出残高漸増」となっているほか、東北最大の地銀である宮城が地盤の七十七銀行(8341)も「法人向けを中心とした貸出金利息や利息配当金想定超え好調」とあります。地元の企業の借入需要が増加しているようです。

地方銀行の新しい取り組みとしていくつかの銀行で見られるようになったのは住宅ローンの見直しです。「値上げ」などの言葉が多く見られる四季報ですが、原材料高によって住宅価格も上がっています。そうなるともちろん、個人が住宅を購入するハードルが高まります。

長野地盤の八十二銀行(8359)の「住宅価格の高騰を受け、住宅ローンの限度額を従来の1億円から2億円に引き上げ」島根、鳥取が地盤の山陰合同銀行(8381)の「住宅価格高騰受け、住宅ローン借入期間を最長50年まで拡大」など、住宅価格の上昇に対応し、個人の借入限度額を引き上げたり、返済期間を長期化し毎月の返済額を減らしたりし、住宅ローンを組みやすくする動きが見られ始めています。

【9000番台】人件費や値上げがやはり注目テーマに

9000番台は主に業種として、運輸や通信、電力、ガスなどインフラに関わる業種が中心です。全体を通して「回復」が続いている印象です。

東日本旅客鉄道(9020)は、前々号の2023年夏号には「通勤定期客がコロナ禍前の8割ほどで頭打ち」とありましたが、今回は「定期客も想定超えて伸長」としっかり回復したことがわかります。

一方、気になるのはロジネットジャパン(9027)の左側の見出し「改善」です。ドライバーに最大15%の待遇の底上げで退職を引き止め、若手や中途採用の社員の確保を急ぐとあります。人員の確保をするように動いています。

こういったドライバーの人員不足は、バス業者などの動きにも表れています。西日本鉄道(9031)には「2024年1月に路線バスの運賃値上げ」とあります。初乗り運賃を170円から210円に引き上げるそうです。金額は40円とわずかな額に感じますが、値上げ率で言うと約23%です。23%値上げし、客数が大きく減少しなければ、企業業績にとって大きなプラス影響になると言えます。

京福電気鉄道(9049)は逆に運転手不足の解消にめどが立たなかったパターンです。「福井~東京間の高速バス路線を正式に休止」とあります。このようにドライバーを確保できなくなり、事業を縮小する動きもみられます。

ヤマトホールディングス(9064)の右側の見出しは「一転減益」となっており、「宅配便は値上げで単価改善だが、中小のEC鈍く物量減が想定超」とあります。物量は「2025年3月期に徐々に底入れする」とありますが、1000番台の建設業者の解説でも触れた運送業者の「2024年問題」への対応などもあり、ヤマトなどの物流業者はあまり楽観的な見方はできないといえそうです。

同じ運送業者でもアマゾン向けのEC関連の配送などを手掛けるAZ-COM丸和ホールディングス(9090)はROE(自己資本利益率)が24%と非常に高い水準です。PBRも非常に高水準といえます。この会社はEC関連以外にも公募増資などで資金調達し、食品物流センターの建設資金に充てるなど、攻勢をかけているのがわかります。

【1000~4000番台】を読む

※「四季報の会」は、パートナー(個人投資家向けの営業担当者)に対して四季報の読み方を解説したものであり、個別の企業の株式に対する投資判断を提供する目的ではありません。

ご投資にあたっての注意点