Q:トランプ前大統領が当選した場合の影響は?

トランプ前大統領が当選した場合の政策や米国・世界経済への影響を教えてください。

A:関税・移民制限によるインフレ助長にリスク

結論として、トランプ前大統領が勝利する場合は、インフレ的な展開が予想されます。景気刺激的な政策を通じたインフレ圧力の高まりではなく、過去のビジネス寄りの自由主義を標榜する共和党政権とは一味違い、保守的なイデオロギーに基づく政策が、米国の信認を揺るがしたり、供給制約を高めたりすることでインフレ圧力が高まるとの見方です。その場合、金利上昇が民間需要を抑えるクラウディング・アウト的な展開になる可能性があるでしょう。

トランプ前大統領が勝利する場合、共和党が上下両院で過半数を獲得するかは不透明ですが、トランプ前大統領の在任時(2017-21年)を振り返ると、議会を軽視し、公約を大統領令で実現しようとする傾向がありました。このため、仮に政権に復帰する場合でも、与党も含む議会との対立のリスクがあるでしょう。仮に、共和党が上下両院で過半数を獲得すれば、株式市場では2016年大統領選挙と同様に減税への期待が高まると見られるものの、それでもなお、金融市場でトランプ・リスクという言葉が使われていることを踏まえると、投資家は慎重な見方を採っていると考えられます。在任中(2017-21年)の経済運営や様々な出来事を振り返ると、リスクとして具体的に、以下の4つが考えられます。

①FRB(米連邦準備制度理事会)に金融緩和を要求し、パウエルFRB議長(2026年に任期満了)の再任を認めないなどにより、FRBがインフレを抑制できないとの見方が金融市場に出てくるリスクがあります。

②中国をはじめ、主要貿易相手国・地域であるメキシコ・カナダ、EU(欧州連合)、日本に対する貿易赤字を問題視し、制裁関税を発動するなど通商摩擦を再燃させる結果、安い輸入品が入りにくくなる可能性があります。

③不合法、合法とも移民の流入を制限すると見られ、労働力不足に拍車をかけ、賃金上昇圧力が残る可能性があります。

④ウクライナへの支援を停止することで、ウクライナ紛争でロシアが占領地を領土化し、事実上の勝利を収める可能性が高まるでしょう。その際、欧州ではロシアの軍事的脅威が高まるため、トランプ政権の意に反して、対ロ制裁強化(ロシアの全金融機関を決済網から排除するなどの強硬策導入)に踏み切ると見られ、原油高のリスクを高めると見られます。ガザにおける紛争によって、イスラエルとイスラム教国が対立する中で、トランプ前大統領はイスラエル重視の外交を行うと見られます。サウジアラビアなど湾岸諸国がアブラハム合意を守り、米国に追従する可能性は低く、原油高対策でも非協力的な姿勢を示すと見られ、中東政策でも原油高のリスクを抱えると考えられます。

インフレ以外では、次の二つの影響が考えられます。

①エネルギー、環境政策では、バイデン政権の方針を大幅に転換し、脱炭素化、再生エネルギー等に関連する歳出や税優遇を停止すると見込まれます。一方で、化石燃料に対しては、利用制限の緩和を目指すでしょう。

②社会的な影響が挙げられます、米国の社会的分断が進む可能性があります。具体的には、所得格差(資産・学歴・スキルを所有する層と持たざる層)、地域格差(IT・ハイテクで発展するサン・ベルトと製造業が衰退するラスト・ベルト)、宗教分断(ニューエイジ、キリスト教穏健派とキリスト教保守派(福音派、カトリック))、人種対立(白人と有色人種、移民)などです。

米国内において、民間企業がどちらの側を支持するかを問われ、不買運動などを受けるリスクがあります。共和党保守派は、ESG、SDGsの考え方に否定的です。こうした活動にも政治的踏み絵が待ち受けるリスクに注意したいところです。

(注)画像はイメージ。
(出所)野村證券経済調査部より野村證券投資情報部作成

ご投資にあたっての注意点