全固体電池とは

全固体電池とは、リチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えたものです。

現在、主流となっているリチウムイオン電池は、電解質に可燃性の高い有機化合物を使用しているため発火リスクがあり、温度変化にも弱い面があります。

一方、全固体電池は固体化した電解質を用いることで、液漏れがなく耐熱性を高められるほか、正極・負極と電解質を積層させて直列構造にすることが可能なことからエネルギー密度や出力密度が向上し、小型化や急速充放電が可能になります。

(注)図中のLi+とは、リチウムイオンのこと。
(出所)出光興産、トヨタ自動車、各種資料より野村證券投資情報部作成

全固体電池の特徴

全固体電池の中核技術である固体電解質には、大きく分けて「硫化物系」「酸化物系(セラミック)」の2種類があります。

酸化物系は硫化物系と比較し、大容量化や高出力化が困難なものの、安全性が高く長寿命で、電子機器内に搭載される小型電池として既に実用化され始めています。

EV向けとして期待されているのが、硫化物系の全固体電池です。主原料に発火リスクが残る硫黄を使用することなどから、酸化物系と比較し安全性への課題が指摘されていましたが、2023年10月にトヨタ自動車と出光興産が硫化物系全固体電池の量産化へ向け協業を始めると発表するなど、実用化に向けた動きが活発化しています。

(出所)出光興産、トヨタ自動車、各種資料より野村證券投資情報部作成

拡大する企業の取り組み

完成車メーカー各社は既存の電池メーカーや新興企業と共同で全固体電池の開発を進めています。近年では、三井金属鉱業やAGCが硫化物系固体電解質の生産を本格化させるなど、材料メーカーの動向も注目されます。今後は、全固体電池に適した正極材や負極材の開発も進展していくことで、EVへの搭載が本格化すると期待されます。

ご参考:全固体電池関連銘柄の一例

・出光興産(5019)

2023年6月に、全固体電池向け固体電解質の供給能力の増強を決定した。

・AGC(5201)

2023年9月に、全固体電池に使われる硫化物固体電解質の新たな生産技術として、ガラスと化学の技術を融合させた独自の溶融法を確立し、技術実証に成功したと発表した。今後、生産プロセスや品質の改善を進め、2027~2028年をめどに事業化し、2030年に年間100億円の売り上げを目指す。

・三井金属鉱業(5706)

2024年1月に、全固体電池向けアルジロダイト型硫化物固体電解質「A-SOLiD」の生産能力を現状比3倍にすると発表した。

・三菱マテリアル(5711)

2023年12月に、硫化物系の固体電解質の製造において新技術を開発したと発表した。複数の原料を混ぜて加熱するだけで合成でき、従来手法と比べて固体電解質を量産しやすくなる。新技術による固体電解質を自動車メーカーなどにサンプルとして提供しており、事業化を目指す。

・パナソニック HD(6752)

2023年9月に、ドローンなどの小型無人機などに向けて開発中の小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにした。実用化できれば、3分程度でドローン用の電池容量の8割を充電できる見込み。

・TDK(6762)

世界に先駆けて、SMD(表面実装部品)タイプのオールセラミック全固体電池「CeraCharge(セラチャージ)」を製品化した。

・日立造船(7004)

2022年に宇宙で全固体電池の充放電に世界で初めて成功した。独自の製造方法を強みに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と実用化に向けた共同研究を進めている。

・日産自動車(7201)

「ジャパンモビリティショー2023(旧東京モーターショー)」に全固体電池を採用したEVを展示した。2028年度までに全固体電池を搭載したEVを発売する計画である。

・トヨタ自動車(7203)

2023年6月に、2027~2028年にEV用全固体電池の実用化を目指す方針を明らかにした。2023年10月には、2001年より全固体電池の開発を開始し、固体電解質を手掛けている出光興産と、EV用全固体電池の量産実現に向けた協業の開始を発表した。

・BMW(G0052/BMW GY)

2023年1月に、米国ソリッドパワーと共同で全固体電池を製造するための試作ラインを設けると発表した。

・フォルクスワーゲン(G0750/VOW GY)

出資する米国クアンタムスケープが開発するEV向け全固体電池セルについて、2024年1月に約50万kmの走行で、蓄電容量低下は5%という耐久試験結果を公表した。

(注1)全てを網羅しているわけではない。(注2)HDはホールディングスの略。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 寺田 絢子)

※画像はイメージです。

ご投資にあたっての注意点