パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は24年3月6~7日に米上下院での半期の議会証言を行いました。同議長は「今年のどこかで引き締め的な政策を巻き戻すことが妥当になる」と述べた一方で、「インフレが2%へと持続的に向かっているとの確信がより高まるまで利下げが妥当とは予想されない」と言及し、目先での利下げに慎重な姿勢を示しました。この表現は2024年1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で表明した認識と概ね同様であり、特に目新しい材料はありませんでした。

その後、3月8日に発表された24年2月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比+27.5万人と市場予想の同+20.0万人を上回り、引き続き雇用者数は堅調に拡大、との結果でした(なお、23年12-24年1月分が合計で17万人下方修正されました)。6ヶ月移動平均で均した場合、同+23.1万人となっており、一部の地区連銀総裁が指摘している「労働市場の需給均衡の目安は前月比+10万人程度」を依然として大幅に上回っています。

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一方、注目度の高い時間当たり賃金は前年比+4.3%と、市場予想、及び前月の同+4.4%を僅かながらも下回りました。時間当たり賃金は減速傾向が続いていますが、やや下げ止まりの兆しも見えます(下図)。振り返って見ると、FRBは2022年3月以降、2023年7月まで急ピッチで5.25%ポイントもの大幅な利上げを実施しました。勿論、中小地銀の破綻、住宅市場の落ち込み、商業用不動産価格の下落、消費者・住宅ローンの延滞率の上昇、など利上げ効果は明らかです。しかし、今のところ米国経済はリセッション(実質GDPが前期比で2四半期連続でマイナス)を回避し、信用創造機能にも大きな支障は見られません。アトランタ連銀が「GDP NOW」において米国の実質GDPの推計値を発表していますが、24年1-3月期は前期比年率+2.5%と堅調な伸びを推計しています(3月7日現在)。

今後、本格的な景気減速、あるいはリセッションを迎える可能性もあります。これまでの消費拡大の大きな源泉であった、コロナ禍対応の手厚い失業保険給付金により大幅に拡大した貯蓄は取り崩しが進んでいます。一方で、インフレ率が減速しているため、実質賃金の伸びはプラスへ転じています。

消費が持ちこたえれば、景気のマドルスルー(不明瞭な状態でも何とか切り抜けてゆく、との意味)シナリオの可能性が高まるでしょう。ただし、換言すれば、それだけインフレ減速に更に時間がかかり、FRBの利下げが後ズレする公算が大きくなります。24年11月5日実施の米大統領選挙は、バイデン大統領(民主党)対トランプ前大統領(共和党)となる公算が大きくなりつつあります。仮に、トランプ前大統領が当選した場合、予想される政策面において、対中規制強化、関税引き上げ、所得税減税、移民規制強化などは、インフレを押し上げるリスクがあります。いずれにせよ、FRBの利下げ、米金利低下のタイミングが後ズレするリスクは十分に視野に入れるべきでしょう。

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