中国経済は日本化を回避できるか

近年、中国経済の「日本化」が指摘されています。経済の「日本化」とは、長期に渡る低成長、低インフレ、低金利などを総称して用いられます。中国では不動産不況や、過剰債務、人口減少、米国との対立など1990年代のバブル崩壊後の日本と多くの共通点を見出すことができます。一方、日本のバブル崩壊から教訓を得ている事、共産党一党体制ゆえの迅速な政策遂行など、当時の日本とは異なる点もあります。本稿では中国と日本の類似点や、足元の政策方針を踏まえ、今後の中国経済について考察します。

日中の不動産バブルは類似点が少なくない

日本のバブル期には、東京都区部のマンション価格(75㎡当たり)は、86年の4,185万円(平均年収に対する倍率(以降、年収倍率):6.7倍)から89年には10,785万円(同15.8倍)と、2.58倍に急上昇しました。不動産価格高騰を抑制するために、政府は不動産業向け貸出の総量規制を実施し、公定歩合の引上げに伴う長期金利の上昇も加わり、不動産価格は91年をピークに大幅に下落しました。

他方、中国の四大都市の新築住宅価格は2009年1月から2024年1月にかけて2.58倍に上昇しており、近年は住宅取得が困難になっています(下図)。中国政府は2021年1月、深刻な格差の是正を目指す「共同富裕」の一環として、不動産投機を抑制するため不動産関連融資に総量規制を設けました。その結果、不動産開発会社の資金繰りが急速に悪化し、住宅購入者が代金を前払いしていた集合住宅の建設が中断し、社会問題化しました。不動産開発業者の資金不足や、価格が将来下落することを懸念して、消費者は住宅購入に消極的になっており、足元で住宅販売が急減しています。不動産開発会社の経営不安が緩和し、不動産価格が適正水準に下落するまでは、住宅需要は抑制されると見ています。

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過剰債務の水準は日本のバブル期を上回る

BIS(国際決済銀行)によれば、中国の民間非金融部門の与信残高の対GDP比は、日本の1990年前後を上回る水準にあります。中国の国有企業は、銀行融資を受けて設備投資を続け、中国の高成長のけん引役となって来ました。また、大規模な景気対策などを通じて、インフラ、不動産投資等に資金が投入され、景気を下支えしましたが、それが今日の生産設備や債務の過剰をもたらしました。BISは過剰債務に対して抜本的対策が採られなければ金融危機に陥る可能性があると指摘しています。

人口減は住宅需要と潜在成長率の低下要因に

日本では1980年頃に住宅の主要な購入層(25~49歳)の人口がピークアウトし、不動産バブル崩壊とその後の低成長の遠因になりました。中国では、2023年末時点の人口は前年比0.15%減の14億900万人と、2年連続で減少しました。過去の一人っ子政策と急速な都市化に伴う出生率の低下が主因です。教育費や住宅価格が高騰する中、産児制限が緩和された後も中国の合計特殊出生率は低下を続け、2022年末時点で1.09人と、日本の1.26人を下回っています。人口減に伴って、住宅購入需要の減少や、潜在成長率の低下が懸念されています。

24年成長目標は5%前後も、実現は困難 

構造的な問題が山積する中国では、抜本的な政策対応が求められています。しかし、向こう1年間の経済や外交の主要政策を審議する全人代(24年3月5日~11日開催、第14期全国人民代表大会第2回会議)では、成長期待の低下や構造問題に対して危機感を示しながらも踏み込んだ具体策は示されませんでした。

全人代の政府活動報告では、2024年の経済目標として実質GDP成長率を5%前後と、2023年と同水準に据え置きました。目標達成に向け、財政政策では、財政赤字目標を対GDP比3.0%と、2023年から据え置きました。新たに発行する超長期特別国債、地方政府特別債、融資平台(地方政府の資金調達を担う投資会社)などを合わせた広義の財政支出は前年比+1.0%程度と予想します。

不動産関連セクターの低迷、消費の停滞、米中対立に伴う貿易への悪影響、地方政府債務に対する規律が依然として厳しい中では、2024年の実質GDP成長率は目標を下回る4.0%前後に留まると予想します。

日本化か成長路線回帰か、岐路に立つ中国

政府活動の重点政策は、産業の現代化、内需拡大、企業の発展促進、外資誘致、発展と安全保障の両立などの順に重きを置いています。産業システムの現代化を筆頭に置いた意図は、先端半導体等の分野で西側諸国による対中包囲網が敷かれる中、経済安全保障の観点から供給網の完結を目指しているものと推察されます。80~90年代の日米貿易摩擦と共通点もありますが、米国に対する強硬な中国政府の姿勢は日本政府と大きく異なります。

中国が日本化を防ぐには、民間活力を活用し、米中関係を改善し、対外開放を進めることが肝要です。また、住宅投資などの固定資本投資への依存度を低下させ、民間消費を成長のドライバーへ引き上げることも重要です。中国政府の目指す国家安全保障と経済発展の両立には政策的な矛盾が生じ、困難が伴うと見られます。中国経済は長期的な停滞に向かうのか、再び成長路線に回帰するのか、岐路を迎えています。

(野村證券投資情報部 坪川 一浩)

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