※執筆時点 日本時間31日(金)12:00
今週:インフレ懸念が継続
※5月24日(金)-5月31日(木)4営業日の騰落
米金利上昇が重石に
今週の米国株式市場では、米長期金利上昇が株価の重石となりました。先週末5月24日(金)に4.4%台だった米長期金利(10年国債利回り)は、29日(水)に一時4.6%台をつけました。
インフレ鈍化の持続性に懐疑的な市場
5月に入り発表された雇用統計、CPI(消費者物価指数)、小売売上高といったハードデータ(実際の経済活動を測るもの)はインフレが鈍化可能性が高まっていることを示唆したものの、市場はインフレ鈍化の持続性に懐疑的なようです。このため、その後公表されたPMIや消費者信頼感指数といったソフトデータ(関係者へのアンケート回答を基に測るもの)が市場予想を上回ったことをきっかけにインフレ懸念が再燃し、5月に入ってからの金利低下が巻き戻されていると言えます。
FOMC参加者もタカ派的
FOMC(米連邦公開市場委員会)からのコミュニケーションの観点では、全体の議論に先行しやすいウォラー理事が初回利下げは年末との見方を示したことや、議事要旨においてインフレリスクが顕在化する場合には追加利上げとの見方が示されたことが、金利上昇に寄与している可能性があります。景気・インフレの減速が持続的となるためには、FOMCが金融環境の引き締めを維持するようなコミュニケーションを続ける必要があります。
今週のポイントは2点です。
7日(金)雇用統計で晴れ間は見えるか
今週は米国経済の先行きや金融政策の行方を予想する上で注目度の高い、月初の重要指標の発表が予定されています。6月3日(月)の5月ISM製造業景気指数、5日(水)の5月ISMサービス業景気指数は、業種別の景気動向だけではなく、投入価格の変化や企業の採用意欲を探る上でも注目されます。また、4日(火)の4月雇用動態調査(JOLTS)、7日(金)の5月雇用統計は、労働需給の状況や潜在的なインフレ圧力の状況を確認するための最重要統計の一つです。 FRB高官は沈黙期間のため、内容によっては金融政策への思惑で、市場が大きく反応することも考えられます。
ISMは前月から小幅上昇が予想される
5月ISM製造業景気指数の市場予想は49.7(4月49.2)、5月ISMサービス業の市場予想は51.0(4月49.4)と、いずれも小幅上昇が予想されています。ISMサービス業については前回4月分が景気の好不調の分水嶺である50を割り込みましたが、市場は5月分で再度上回ると想定しています。ISMサービス業は、内訳において雇用が50を大幅に割り込んでいる影響で、ヘッドラインの数字も低めに出やすくなっていると推察されます。雇用の50割れは人手不足による採用難の影響による面もあり、必ずしも景気が大幅に減速していることを示唆するわけではありません。市場予想通りの結果となれば、見た目以上に実際のサービス業の景気は良好と判断できます。
5月の雇用者数の増加ペースは4月を小幅上回る予想
5月非農業部門雇用者数の市場予想は前月比+18.0万人(4月同+17.5万人)と、前回を小幅上回る伸びが予想されています。市場予想通りとなれば、雇用増加ペースは月20万人台後半以上のような極めて好調な数字からは減速しているものの、依然として堅調に推移していることが示唆されます。5月平均時給の市場予想は前月比+0.3%(4月同+0.2%)と、前月から小幅加速し、堅調に推移することが予想されています。
ただ向こう数ヶ月という観点では、雇用統計は季節調整の歪みから、6月分・7月分において実態よりも下振れやすいため米金利は一旦低下する可能性があります。もっとも、金利低下が持続的となるためには、上述のようにFOMCが金融環境の引き締めを維持し、景気・インフレの減速が続く必要があると見込まれます。
”セールスフォースショック”は杞憂か
NYダウ採用銘柄でもあるソフトウェア大手のセールスフォースが29日(水)引け後に2-4月期決算を発表しました。調整後EPS(1株当たり利益)は市場予想を上回ったものの、売上高は従来予想を据え置き、市場予想を下回りました。決算発表の翌日30日(木)に当社の株価は前日比19.73%安と大きく下落しました。売上高見通しは従来予想を維持したのに対して、調整後EPSを引き上げたことはより収益性を重視した施策を進めると推察されますが、当社も含め、直近発表された複数のソフトウェア企業の決算で顧客企業が支出を抑制している可能性も窺えます。
今週も続く決算発表で、実績や会社業績見通しなどを通し、状況を判断していきたいと考えます。発表が予定されるソフトウェア企業としては、4日(火)にクラウドストライク・ホールディングス、ガイドワイア・ソフトウェア、6日(木)のドキュサインなどが挙げられます。6月第2週にはアドビやオラクルといった大手ITで3-5月決算発表が始まるため、市場の関心が高い状況が続きます。
(野村證券投資情報部 小野崎 通昭)