「TOPIX Core30(以下、Core30)」をご存じでしょうか。東京証券取引所(東証)が算出・公表している、日本の上場企業のうち時価総額と流動性がともに高い30銘柄で構成される株価指数です。1998年に設けられた「日本の代表的企業群」ともいえます。過去から現在までの値動きと採用銘柄の変遷について、投資情報部で株価チャートなどの分析を担当している野村證券投資情報部の岩本竜太郎が解説します。
日本を代表する「超大型株」30銘柄
――Core30は一般的にあまりなじみのない指数ですが、具体的にどういったものなのでしょうか。
岩本竜太郎(以下、同)
東証は上場企業のうち、時価総額100位に入るものを「大型株」としていますが、TOPIX Core30(以下、Core30)は、時価総額が数兆円超の日本を代表する「超大型株」30銘柄で構成される株価指数です。
TOPIXと同じく、東証が算出・公表している株価指数「TOPIXニューインデックスシリーズ」の一つです。東証が毎年8月末時点の株価などを基に、10月末に銘柄の入れ替えを実施します。
銘柄選定の方法ですが、まず、TOPIXを構成する2,100を超える銘柄のうち、その時点での直近の3年間の売買代金の合計額が90位以上の銘柄の中から、さらに時価総額が大きい順に15銘柄を選定します。
このほかの15銘柄は、すでにCore30に入っている銘柄のうち、基準日までの直近3年間の売買代金合計額の順位が90位以上で、さらに時価総額が40位までに入っているものの中から、時価総額が大きい順に15銘柄まで選んでいきます。
しかし、すでに指数に組み入れられている銘柄だけでは、基準日時点の時価総額が40位までに入っている銘柄が15銘柄に達していない場合もあります。その場合は再び売買代金合計額90位以上の銘柄から、上位の銘柄を選定します。売買代金上位の銘柄に絞っているため、たんに時価総額が大きいというだけではなく、流動性も高いのが特徴です。
東証はCore30の公表を始めた1998年4月1日時点を1,000ポイントとして指数を算出しています。2000年代前半のITバブルの時には、当時組み入れられていた日本電気(NEC、6701)や富士通(6702)など、コンピューターなどの製造・販売を手掛けていた「IT企業」の株価が高騰、最高値の1644をつけました。当時の値動きはTOPIXや日経平均株価を相対的に大きくアウトパフォームしていました。
その後乱高下し、リーマンショックを契機とした世界金融危機や、東日本大震災などで日本経済が低迷していた2011年11月に357と底値を付けました。以降、TOPIXや日経平均株価に近い動きとなり、直近では2月22日に1,400台に乗せて以降、おおむね同水準で推移しています。
大型で流動性も高い銘柄群ですので、経営破たんするリスクも相対的に小さく、株式の需給悪化などにより売買しにくくなることもほぼありません。このため、個人投資家の長期投資に向いている、といえそうです。ただし、銘柄は毎年入れ替わっている点には注意が必要です。
(注1)各指数は月次、高値・安値は日次終値ベース。直近値は2024年5月26日。トレンドラインには主観が含まれておりますのでご留意ください。出来事などはすべて網羅しているわけではありません。
(注2)相対的なパフォーマンスの差を示すため、目盛りの上限値をTOPIX Core30(左軸)は1800、TOPIXは4000としました。
(出所)JPX総研より野村證券投資情報部作成
26年間で過半の銘柄が入れ替わった
――銘柄が毎年入れ替わった結果、構成銘柄も大きく様変わりした印象です。これまでどのように変化してきたのでしょうか。
1998年時点と比較すると、過半の18銘柄が入れ替わっていますね。
とりわけ大きな変化としては、1998年の時点で日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ(8411))や住友銀行(現三井住友フィナンシャルグループ(8316))、東京三菱銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306))など銀行が7行も入っていました。金融危機をきっかけに統廃合が進み、現在はメガバンク3行のみが残っています。
また、大手電機メーカーの多くも抜けてしまいました。1998年の時点では組み入れられていた松下電器産業(現パナソニック ホールディングス(6752))や東芝(上場廃止)のほか、先ほどお話ししたIT大手、NECや富士通も除外されてしまいました。現在残っている電機メーカーと言えば、日立製作所(6501)とソニーグループ(6758)ぐらいになってしまいました。
(注)黒色の太字は、1998年4月、2024年3月時点で共にTOPIX Core30に組み入れられている銘柄。赤字は1998年4月には組み入れられていなかった銘柄。
セブン&アイ・ホールディングスはセブンイレブン、イトーヨーカ堂、デニーズが統合し誕生した。三菱UFJフィナンシャル・グループは東京三菱銀行、三菱信託銀行等による三菱東京フィナンシャル・グループと、三和銀行や東海銀行の合併によって誕生したUFJ銀行等を含むUFJホールディングスの経営統合により誕生。三井住友フィナンシャルグループはさくら銀行、住友銀行の合併によって誕生した三井住友銀行等を含む金融持ち株会社。みずほフィナンシャルグループは日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行等が経営統合し設立されたみずほホールディングスが、その後社名変更した。東京海上ホールディングスは東京海上火災保険と日動火災保険等の経営統合によりミレアホールディングスとなり、その後社名変更した。富士写真フイルムは現・富士フイルムホールディングス。松下電器産業は現・パナソニック ホールディングス。ソニーは現・ソニーグループ。野村證券は現・野村ホールディングス。
(出所)JPX総研、各種データより野村證券投資情報部作成
今では日立の主軸はデジタル関連のサービスや再生可能エネルギー関連です。一方、ソニーの主軸はゲームや音楽、映画などのエンターテインメント、そして金融などのサービスです。スマホのカメラなどに使われるイメージセンサーでも世界シェアナンバー1です。
銀行や電機メーカーが抜けた分の枠には、三菱商事(8058)や三井物産(8031)などの大手商社や、東京エレクトロン(8035)や信越化学工業(4063)、HOYA(7741)など半導体の製造装置や材料を手掛ける企業、キーエンス(6861)やファナック(6954)、ニデック(6594)、村田製作所(6981)といった機械・電子部品メーカーなどが入っています。また、情報サービスを幅広く手掛けるリクルートホールディングス(6098)が入っているのも印象的です。
総じて、時代に合わせて柔軟に業態を転換することに成功した企業は残り、時代に合った新しい産業を展開する企業が入ってきました。
しかし、足元の生成AI関連に代表されるデジタル関連の需要増で、富士通やNECも業績を盛り返してきており、実際に富士通の時価総額は上場企業のうち40位前後に入っています。これらの企業がCore30に再び姿を現す日も来るかもしれませんし、あるいは、新たな成長企業が入ってくるのかもしれません。
――米国の「ダウ平均株価」もいわゆる超大型株30銘柄で構成されています。銘柄数は同じですので「日本のダウ」と言ってもよいのでしょうか。
「それぞれの国を代表する30社」で構成されているという点では同じと言っていいかもしれません。ただ、共通するのはその点だけのような気がします。
まず、算出方法が異なります。ダウ平均株価は日経平均株価と同じく「株価平均型」です。これは構成銘柄の株価の合計を発行済み株式総数など特定の値で割って算出する方法です。一方、TOPIXやCore30は「時価総額加重平均型」で、構成銘柄の時価総額の合計を、ある時点の時価総額で割って算出する方法です。
また、銘柄選定の方法も異なります。ダウの構成銘柄は数値条件などが厳密に定められていません。成長性や投資家の関心度などから総合的に判断されています。ダウは基準が明確ではないのに対して、TOPIXは基準が明確です。ただ、結果的に国を代表する30銘柄が選ばれており、比べてもさほど違和感はありません。
そして、残念ながら米国のダウ平均株価の構成銘柄と、日本のCore30構成銘柄では世界的な知名度で格段の差があります。トヨタ自動車(7203)やソニーグループ、任天堂(7974)など現在でも世界的な知名度を持つ企業も含まれてはいますが、今後、Core30の中からさらに世界的な存在感を示す企業が現れることに期待したいですね。