※執筆時点 日本時間7日(金)12:00

今週:エヌビディアの時価総額が一時3兆ドル超

※5月31日(金)-6月6日(木)4営業日の騰落

AIの業績貢献期待が高まる

今週の米国株式市場は、インフレ懸念が後退する中でAI(人工知能)の企業業績貢献への期待が高まり、S&P500とナスダック総合は史上最高値を更新しました。

主要経済統計がインフレ後退を示唆

今週発表された3日(月)の5月ISM製造業景気指数や5日(水)のADP雇用統計(編注:執筆時点では7日(金)の5月雇用統計は発表されていない)では弱い内容が相次いだことから、米金利は低下しました。また、5日(水)の5月ISMサービス業景気指数は市場予想を上回りましたが、内訳の項目の仕入れ価格指数が4月から鈍化したことから、市場ではインフレ懸念後退→FRB(米連邦準備理事会)の利下げ後押し要因と受け止め、株価を押し上げる一因となりました。。

エヌビディアが初の時価総額3兆ドル超え

米国時間5日(水)にエヌビディア(NVDA)の株価が前日比+5.15%の1,224.40ドルとなり、上場来高値を更新しました。時価総額は3兆118億ドルとなり、初めて一時3兆ドル台に乗せました。この時点の時価総額では、アップル(AAPL)を抜き、マイクロソフト(MSFT)に次ぐ世界2位となりました。なお、アップルの時価総額は昨年、世界の上場企業で初めて3兆ドル台に乗せ、時価総額では当時世界最大となっていました。今年に入りマイクロソフトがアップルを抜き、時価総額で世界最大の企業となっていました。

WSTSの見通しとエヌビディアの業績は整合的

4日(火)にWSTS(世界半導体市場統計)が、2024年春季の半導体市場の見通しを発表しました。WSTSは、世界の半導体市場は、2023年は前年比縮小したものの、2024年については拡大に転じ、これまでの過去最高だった2022年の5,741億ドルを超えるとの見通しを示しました。

(注)灰色は実績、薄い赤色は2023年11月時点、赤色は2024年6月時点のWSTS(世界半導体市場統計)による予測。

(出所)WSTS、LSEGより野村證券投資情報部作成

牽引役として、世界的に旺盛なAI関連投資を背景に需要が急拡大しているメモリーや一部ロジック製品を挙げています。

(注)世界半導体市場の地域別・製品別内訳。2024年、2025年は2024年6月時点のWSTS(世界半導体市場統計)による予測。

(出所)WSTS、LSEGより野村證券投資情報部作成

WSTSからは、地域別、製品別での内訳が公表されていますが、前年比伸び率を製品別についてみると、メモリーは2023年に前年比-28.9%と最も足を引っ張っていましたが、2024年には同+76.8%と急回復が予想されています。一方、WSTSが生成AIの恩恵を受けるとコメントしているロジック製品は前年比+10.7%と予想されています。エヌビディアのGPUはここに分類されているとみられます。

なお、2024年の前年比伸び率ではメモリーの方がロジック製品よりも高くなっています。しかし、金額をみていただきますと、メモリーは2023年に、パソコンやスマートフォンの販売が低調となったことを受けて大きく落ち込んでいたところから回復しているため、変化率としては大きくなっています。一方、ロジックについては2023年もプラス成長した上で、2024年、2025年と二桁成長が予想されています。

今週のポイントは3点です。

10日(月)~アップル開発者会議

このような半導体をめぐる環境を背景に、生成AI向けにGPU(画像処理半導体)を中心とした半導体製品で圧倒的な競争力を有するエヌビディアの株価が直近、上昇していると推察されます。

なお、アップルの時価総額がエヌビディアに抜かれたことを捉えて、アップルの凋落ぶりを示すという論調が出てくるかもしれません。アップルは10日(月)-14日(金)に、同社の年次開発者会議、WWDC(Worldwide Developers Conference)を、オンライン及びサンフランシスコ本社の会場で開催する予定です。同会議では例年、ソフトウェア技術を中心に、新技術等の発表が行われ、今年はアップルのAIへの戦略がより明確に示される可能性があります。内容によっては再びアップルに対する関心が高まる可能性があり、注目したいと考えます。

そのほか、11日(火)にオラクル(ORCL)、13日(木)にアドビ(ADBE)など大手ソフトウェア企業の3-5月期決算が発表されます。2-4月期決算発表では、セールスフォース(CRM)が失望決算となるなど、一部の法人向けソフトウェア分野で弱さが確認されました。4-6月期決算を見通す上でオラクル、アドビ両企業の決算内容が注目されます。なお、13日(木)には通信インフラ向けの半導体製品、ソフトウェアを提供するブロードコムの3-5月期決算も発表されます。

12日(水)に6月FOMC結果発表

11日(火)~12日(水)にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。多くのFRB(米連邦準備理事会)高官は利下げに慎重な姿勢を維持しており、インフレ鈍化の傾向が確認される中でも市場の関心は政策金利見通し(ドッツ)に集まっています。2024年について1回当たりの利下げ幅が0.25%ポイントとして、年内2回の利下げがメインシナリオとして示されることが見込まれています。前回の3月FOMCでは3回の利下げが想定されていました。仮に1回の利下げが示されれば、タカ派サプライズとなり、米国株安や円安ドル高といった市場の反応が予想されます。パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長のFOMC後の記者会見では利下げを急がない姿勢を見せると予想されます。

FOMC結果と同日に5月CPI

12日(水)には5月CPI(消費者物価指数)が発表されます。季節性の影響もありコアCPIが前期比+0.312%と4月(同+0.292%)から小幅に加速すると予想されます。FOMC直前の公表とはなりますが、今回のFOMCへの影響は限定的と思われます。

(野村證券投資情報部 小野崎 通昭)

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