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極右政党の台頭と政治的な混乱は欧州全土に波及するのか

欧州議会選挙は中道派が過半数維持

2024年6月6日~9日にEU(欧州連合)加盟国が実施した欧州議会選挙では、右派や極右などEUに懐疑的な政党が議席を伸ばし、欧州議会の右傾化がみられました。特にドイツやフランスにおける与党の大敗が注目されましたが、欧州議会全体でみると、最大勢力を有する中道右派「欧州人民党(EPP)」が議席を伸ばし、欧州統合を推進する3会派(現在の連立)が過半数の勢力を維持しました。

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フランスは極右圧勝で解散総選挙に

欧州議会選挙の結果、フランスでは極右政党「国民連合(RN、欧州議会での所属会派はID)」が最多議席となる30議席を獲得する一方、与党連合(欧州議会では中道会派REに所属)」の獲得議席は13議席に留まりました。極右政党の圧勝と与党の敗北を受け、マクロン大統領は国民議会(下院)の解散・総選挙に踏み切りましたが、それ以降、政治情勢を巡る混乱や経済財政政策に対する先行き不安から、フランス10年国債は急落し、ドイツ国債との金利差は2017年2月以来の水準に拡大しています。

フランス下院選は小選挙区2回投票制が採用されており、選挙は6月30日(第一回投票)、7月7日(決選投票)の2回にわたり行われる予定です。第一回投票で有効得票総数の過半数かつ有権者数の25%以上の票を得た場合はその候補者が当選しますが、条件を満たす候補者がいない場合は決選投票が行われます。今回の選挙の焦点は、極右「国民連合(+右派「共和党」の国民連合派)」、または左派連合が、内閣不信任動議の可決に必要な過半数(289議席)を獲得できるかどうかにあります。選挙結果次第では、大統領と議会のねじれの深刻化や、国民連合が政権を担った場合の財政拡張と仏国債の格下げの可能性が、また場合によってはマクロン大統領の辞任もあり得るとの懸念も根強く、警戒されています。

右派躍進の一因は移民流入の再加速

欧州諸国で右派・極右政党の支持が高まっている一因として、新型コロナの鎮静化やロシアのウクライナ侵攻に伴い、欧州への移民・難民の流入が再び加速していることが挙げられます。加えて、昨年10月の中東情勢緊迫化も、移民・難民流入への警戒感を高めたとみられます。2015年に発生した欧州難民危機では、シリア内紛を契機に難民が押し寄せ、欧州の右傾化と反移民・難民感情の高まりに拍車をかけました。コロナ禍の水際対策で移民の受け入れは一時制限されていましたが、今回の欧州議会選挙では、欧州における反移民・難民感情の根深さが浮き彫りになったとみられます。

政治不安が全土へ波及するリスクは

欧州議会選挙後、ベルギーでは首相が辞意を表明し、9月に総選挙を控えるオーストリアでは極右政党が支持率で独走し政権交代の可能性が意識されています。もっとも、フランスで見られた極右の台頭と政治的な混乱が直ちに欧州全土へ波及するリスクは限定的だとみられます。ドイツでも連立与党は大敗を喫しましたが、中道右派(CDU)が得票率を伸ばし、最大議席を確保しました。目先の議会解散の可能性は低く、政治的な混乱は抑えられているといえます。さらに、イタリアやスペインでは与党が影響力を高めています。少なくとも経済規模の大きい他の欧州主要国では政治不安が過度に高まっている状況にはないといえます。

財政規律の乱れがリスクに

他方、金融市場では相対的に格付けの劣るスペインやイタリアなど南欧諸国の国債もフランスと同様に下落し、ドイツとの10年国債利回りスプレッドは拡大しています。EU加盟国はコロナ禍中、財政収支や債務残高等に基づく評価や勧告を猶予されていましたが、2024年の適用再開を受け、欧州委員会は6月19日、一部加盟国に対し過大な財政赤字削減手続き(EDP)を開始するよう、EU財務相理事会に勧告しました。ECBの資産残高削減が進む中、秋には各国政府の予算編成を控え、需給悪化を通じて金利上昇圧力が高まる可能性に注意が必要と考えます。

(野村證券投資情報部 引網 喬子)

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