友人や職場の同僚から親の介護や相続の話を聞いて、ふと「うちはどうだろう?」と考えることがあると思います。8月はお盆で帰省し、久しぶりに家族が集まる時期です。親の健康状態や生活の不安など身近な悩みを聞きながら、一緒に相続の生前対策を考えてみてはいかがでしょうか。生前に準備をはじめるメリットについて、大手町トラストの税理士に伺いました。

(注)画像はイメージです。

はじめに

人生100年時代と言われている昨今、高齢になったとはいえ元気な親を見ると子どもから相続の話を切り出すのは難しいと感じられている方も多いのではないでしょうか。しかし、生前に遺産相続の対策をすることで相続税対策や納税資金を準備し、相続を円滑に進めることができます。

相続の話を切り出すタイミングは、財産を残す親が心身ともに元気なうちに行うとよいでしょう。

親が認知症を発症し、判断能力がなくなると、契約の締結や贈与などの法律行為ができなくなり、財産管理の面でも支障が生じます。また、相続人に認知症の方がいる場合は、遺産分割協議を行うことができません。回避する方法もありますが、親が認知症になってから慌てないためにも早めに話し合われるとよいでしょう。

生前に相続対策をするメリット

生前に相続対策をすることで、親が万一の時にも円滑な遺産分割を行うことができます。

また、相続人の一人が認知症を患っている場合に遺産分割協議を行うことができないとならないように、親が遺言書を作成しておくことで財産の分割が可能となります。

相続税対策

【生前贈与】
生前に子や孫等に財産を贈与して相続財産を減らすこと、将来値上がりする財産・収益を生む財産を早めに贈与することは、相続税の軽減対策として有効です。

【評価額対策】
不動産や未上場会社の株式などについては、生前に対策することで評価額を低くすることが可能なケースがあります。例えば、更地の土地に賃貸建物を建て賃貸することで相続税評価額を下げることができます。

【生命保険の加入】
親が契約者(保険料負担者)で被保険者も親の場合、相続人が受け取る死亡保険金には、一定金額まで非課税となる「生命保険の非課税枠」が設けられています。

500万円 × 法定相続人の数※ = 非課税限度額

※①相続税の計算上法定相続人に含めることができる養子の数には以下の制限があります。ただし、民法上の特別養子や配偶者の連れ子を養子とした場合は実子として扱われ、養子の数の制限を受けません。
  ・被相続人に実子がいる場合―1人まで ・被相続人に実子がいない場合―2人まで
②相続放棄をした人がいたとしても、その放棄がなかったものとした場合の法定相続人の数です。例えば、法定相続人3人のうち1人が相続放棄をしたとしても、相続税の計算においては、法定相続人は3人として 取扱います。また、法定相続人の数には代襲相続人の数も含まれます。 

死亡保険金は受取人が単独で請求できますので、相続税の納税財源としても有効です。

納税資金対策-相続税の申告・納税期限

相続税は、金銭一括納付が原則です。相続税の納税は、申告期限と同様に相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。生前に所有資産を把握し、相続の際に相続税がいくらぐらいかかるのか確認しておけば、納税資金を確保しておくこともできます。

また、財産のほとんどが不動産の場合、すぐに売却することが難しいため、不要な不動産はあらかじめ処分するなどしておくとよいでしょう。

遺産分割対策-トラブルにならないために

相続対策の話をする場合は、相続人間で情報を共有することが大切です。特に気をつけたいのは子どもが複数人いて、親が同居している子どもとだけ相続の話を進めていると、子ども同士の間で知らないことが生じ、後々トラブルに発展する場合があります。

【分割しやすい財産に変えておく】
相続人が複数いて不動産など分割が困難な財産がある場合、不要な不動産を売却して現金で相続するようにするなど、相続人の個々の事情などを総合的に考慮して、財産を将来分けやすい状態にしておくとよいでしょう。

【分割方法を決めておく】
争族にならないために親の介護をした子どもに配慮した分割方法を決めておくなど、誰に何を残すかを遺言書に認めておくとよいでしょう。

また、分割方法を考慮する際に不動産を多く取得することが見込まれる相続人は、将来相続人自身の金融資産で相続税を納税できないことも考えられます。どのように納税するのかについてあらかじめ目途をつけておくことが大切です。

認知症になる前に

認知症を発症し、判断能力が低下すると家族信託や生命保険の契約、贈与などの法律行為ができなくなります。軽度の認知症であれば医師の診断の下で生前贈与が可能になる場合もありますが、成年被後見人になると生前贈与はできません。

また、認知症発症後に遺言書を作成する場合は、医師の診断等で意思能力があったことを示す資料がないと遺言書が無効と判断される場合があります。

生前対策で話し合うこと

生前対策を検討するにあたり、現在の財産状況の整理・親のこれからの生活や介護の希望など、検討課題は多岐にわたります。遺言書と違い法的効力は持ちませんがエンディングノートなどを使って、情報を整理していくという方法もあります。

財産の把握

「財産目録」を作成することで、相続対策や生前贈与などの計画に活用することができます。目録にはプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も明記する必要があります。

目録を作成して財産が基礎控除額を上回ることがわかった場合は、生前贈与を早めに行うことで対策をすることが可能になります。また、デジタル財産など、本人しか把握していない財産について、家族に共有することもできます。

遺言書を作成する

遺産分割を円滑に行うために遺言書を作成しておくことは有効な手段です。遺言者の意思に従った遺産分割をすることができます。

遺言書を作成する際は、全財産をリストアップするだけでなく、遺言者が今後生活していく費用、相続人の取得財産のバランス、相続税の納税などの検討が必要です。

遺言書を作成しておくことで、残された配偶者が認知症を患わっていた場合、遺言で相続させる内容を決めておけば遺産分割協議をせずに不動産や預貯金について相続手続きをすることができます。

信託を利用する

例えば、所有する賃貸マンション等を信託財産として、委託者を親、受託者を息子、受益者を親とする家族間での信託契約を締結することで、財産管理が可能となります。この場合、民法上の信託財産の所有者は、息子(受託者)となり、信託財産にかかる契約は息子が行うことができます。なお、税務上の所有者は、親のままとなるため、信託の効力発生時には贈与税はかかりません。

親の判断能力が低下する前に、本人の意思を反映できるように財産の管理・処分方法を盛り込んだ信託契約を締結することで、その信託財産の管理について、本人の意思を反映することが可能です。また、受託者に対しての報酬についても、あらかじめ契約書に定めておくことができます。

まとめ

お盆や年末年始、法要など推定相続人全員が集まる機会で話を切り出すのは有効ですが、まずは、日頃からのコミュニケーションが大切です。

生前対策の話をする際は一方的に財産の話をするのではなく、親が入院した場合にどんな治療を望むのか、自宅を将来どうしたいのか、これからの人生をどのように過ごしていきたいか、子どもが親の思いを受け取るチャンスととらえて話し合われるとよいでしょう 。

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