執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部
   シニア・コンサルタント 門間 圭紀 (2024年7月5日)

はじめに

「物流2024年問題」とは、働き方改革関連法により労働基準法が改正され、2024年4月以降、自動車運転業務を対象とした年間時間外労働時間の上限規制の適用や、自動車運転にかかるドライバーの拘束時間の制限等が設定されることに伴って発生する問題の総称である。自動車運転業務自体はもちろん複数の業種にまたがるが、近年は特にトラック運送を指すことが多い。自動車運転業務以外の一般事業に従事する労働者には、2024年4月より以前に類似する規制が適用されていたが、物流・運送業界への適用が始まる数年前や特に数ヶ月前から様々なメディアで取り上げられ、我々が耳にする機会も多い。

「物流2024年問題」として想定されている問題は、大きく2つに分けられる。1つは、トラックドライバー1人当たりの走行距離が短くなることによる物流・運送業の売上や利益の減少およびトラックドライバーの賃金減少といった物流・運送業界に直接的に発生するものである。そしてもう1つは、トラック輸送に支えられている他分野において配送が滞るといった間接的に発生するものであるが、その影響は甚大であり、食農分野もその例外ではない。鉄道・海運・自動車といった輸送機関別の貨物割合を輸送量から計測した場合、農水産品はその輸送量の約96%を自動車輸送に頼っている現実がある[1]。時に我々消費者は、日々の安定的な生活が物流・運送業界の下支えによって成立していることを忘れがちであるが、規制適用から3か月近くが経過した今、改めて食農分野の特徴を踏まえた上で、「物流2024年問題」にどのように対応しているかを整理し、加えて今後の対応策を考察する。

1.食農分野の特徴と物流問題に対する政府の対応状況

 ドライバーの長時間労働・低賃金・人手不足などによる食品流通への悪影響に関しては、「物流2024年問題」という言葉が一般化するよりも先んじて政府内での検討が始まっていた。2019年秋、食品流通についてサプライチェーン全体で一貫した合理化対策を検討するために、地方自治体・発荷主・運送業・着荷主の団体等からなる「食品流通合理化検討会」(以下、検討会)が設置され、農林水産省・国土交通省および経済産業省が協力しながら議論を深めていた。2020年4月には、それまでの検討結果を取りまとめた「食品流通の合理化に向けた取組について(第1次中間取りまとめ)」[2]を公表している。この資料の中で、食品流通、特に生鮮食品の輸送には、一般のドライ商品に比べて、下記の特徴があると整理されている。

  • 手積み、手降ろし等の手荷役作業が多い
  • 出荷量が直前まで決まらないこと、市場や物流センターでの荷下ろし時間が集中することにより、待ち時間が長い
  • 品質管理が厳しいこと、ロットが直前まで決まらないこと等により、運行管理が難しい
  • 小ロット多頻度での輸送が多い
  • 産地が消費地から遠く、長距離輸送が多い

 上記の内容は、この検討会より前に開始されていた「農産品物流対策関係省庁連絡会議(以下、連絡会議)」で挙げられた特徴に類似しており、過去に議論された課題及び取組方向が、順次別の検討の場へ踏襲されていたことが分かる。例えば、連絡会議と検討会の中間取りまとめ資料の双方において、産地、幹線輸送、消費地という3つに分類して取組方向が整理されており、各分類が全て異なる方向性を必ずしも掲げているわけではなく、産地と消費地という川上と川下が共通して取り組むべき点も同時に挙げられている(図表1)。これは、農産品の流通合理化を、サプライチェーン全体が連携し合って解決を図っていく必要がある、という政府側の強いメッセージであると筆者は捉えている。


図表1 農産品物流の課題と対応方策(農産品物流対策関係省庁連絡会議)

(出所)農林水産省、経済産業省、国土交通省「農産品物流の改善・効率化に向けて
(農産品物流対策関係省庁連絡会議中間取りまとめ)」

 食品物流合理化の議論の場を検討会へと移した際に生じた異なる点を挙げるならば、対応方策がより具体的なものへと発展したことであろう(図表2)。勿論、時間の経過により詳細なポイントまで煮詰めることが出来たことや、対応方策に従って事業支援の補正予算や次年度予算の計画を作るという政府内の別の目的が存在していたこと等が、具体性を高める背景になり得たとも考えられる。ただし重要なのは、検討会にサプライチェーンを構成する地方自治体・発荷主・運送業・着荷主の団体等がメンバーとして参画し、実現性のある取組を合意しようとした跡がしっかりと見受けられることである。

 また、新たな論点として、「食品ロス削減」が加わったことも大きな変化である。川上や川中といった生産や製造加工の場面で多く取り上げられることが多かった食品ロスの問題は、生産現場や企業側の努力により改善し、その議論の場を徐々に川下の小売や消費者の方へ移し始めている。納品タイミングや納品期限は川下への影響の一部であると想定され、このタイミングで物流に関する施策として盛り込まれたものと考えられる。

図表2 食品流通の合理化に向けた取組の課題と対応方策(食品流通合理化検討会

論点課題対応方策
パレット化等による手荷役軽減時間外労働の上限規制の適用を控え手荷役から機械荷役への転換が前提輸送資材導入に対応する施設・機材の導入、流通・保管体制構築・積載率低下の抑制輸送資材(パレットや台車)の規格の統一、管理回収体制の構築パレタイザー導入、選果施設の改修パレットに適合する段ボール・青果物の規格の検討
集出荷拠点の集約等による効率化大ロットでの直送、地方卸売市場の活用産地での集出荷拠点の集約花きの効率的な集荷物流拠点の整備・活用集出荷場の集約共同輸配送の推進
モーダルシフトによるトラック以外の輸送手段への分散リードタイムの延長、ロットの確保高機能鮮度維持設備の整備季節波動が大きく、輸送の平準化が必要交通ネットワークの充実北海道からの輸送の維持鉄道の定温物流サービスの拡大、年末年始やGW等の輸送確保出荷を平準化するための長期貯蔵技術の開発効率的な具体方策策定に向けた鉄道貨物輸送業界等と産地との意見交換の実施
小口ニーズへの対応小口ニーズの効率的な集荷・配送手段の確立小規模産地の良品配送宅配便との連携ドローンの実用化の検討高速バス等による貨客混載の活用の拡大
ICTの活用食材情報、生産・流通履歴等の可視化物流事業者同士のマッチングや荷物の情報共有の仕組みICTを活用した商品・物流情報の共有運送依頼情報と車両の空きスペース情報のマッチングによる輸送効率化
品質・付加価値・価格バランスの見直し少量生産で市場流通に乗らない産品を大消費地で販売する仕組み物流・販売チャンネルの工夫・多様化貨客混載を活用した地域産品の高付加価値化・マーケティングの強化高速バスの上下便の組合せ等による販売チャンネル・エリアの拡大
荷待ち時間の削減や附帯作業の適正化荷待ち時間や附帯作業の削減に対する意識の向上サプライチェーン全体での待機時間や附帯作業コストの見える化、適正なコスト負担先着順から予約制への変更ホワイト物流推進運動等への参加事業者の拡大及び当運動を通じた待機時間料や附帯作業料の適正収受の浸透事前出荷情報の提供や予約受付システムの導入促進
食品ロス削減需要変動への対応季節性商品の切替時期における在庫の積み上がり消費実態に合わせた容量の適正化店舗に欠品があることで消費者が離れるおそれ輸送中に毀損した商品を廃棄する範囲等があいまい需要予測の高度化や受発注リードタイムの調整売り切るための取組(値引き・ポイント付与等)やフードシェアリングの推進フードバンク活動との連携食品ロス削減に資する取組事例の共有消費者の欠品を許容する意識の醸成輸送中に毀損した商品の廃棄等の基準をまとめた報告書について、その内容を消費者、小売等に対して周知
(出所)農林水産省、経済産業省、国土交通省「農産品物流の改善・効率化に向けて(中間取りまとめ)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部が一部変更を加えて作成

「物流2024年問題」が身近なワードとして認知され始めた2023年、政府は「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」(以下、関係閣僚会議)を設置し、同年6月にはこの関係閣僚会議が「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定した。この政策パッケージは、前述の連絡会議や検討会のように食品や農産品だけに着目したものではなく、物流業界全般に関連するものとして公表されている。しかしながら、その詳細は食品または農産品の流通合理化で議論されていた内容を柱として策定されたと見受けられる点が多い。食農分野における自動車輸送割合の多さ、輸送中の品質管理の困難さ、(加工製造も含めた)生産品の需要者や消費者の分散度合い・広さを総合的に鑑み、さらに当該分野の課題解決する過程が他分野・他業種への解決へ寄与する可能性もあると考えられる。

 図表3の通り、2024年4月以降の潜在的課題を含め、あらゆる物流問題に向けた様々な具体的な対策を、(1)商慣行の見直し、(2)物流の効率化、(3)荷主・消費者の行動変容、に整理しなおしている。対策の中でも特に黄色でハイライトした箇所は、食農分野輸送の特徴を踏まえた事項になっており、現在色々な民間企業・関連団体等が協力して取り組み、数多くの取組実績を積み上げている最中のものでもある。

図表3 物流革新に向けた政策パッケージ

(出所)農林水産省物流対策本部 「令和5年12月27日 説明資料」

 当レビューでは取組事例を数多く取り上げることは割愛するが、一例として紹介したいのは、上記「(1)商慣行の見直し ②納品期限(3分の1ルール、短いリードタイム)」に関する事例である。3分の1ルールとは、加工食品を製造した日から賞味期限までの期間を、食品メーカーから小売店へ納品する「納品期限」、小売店が商品を棚に陳列する「販売期限」、消費者が美味しく食べられる「賞味期限」のように3等分してスケジュール管理をしながら取引を実施するという日本独自の商慣習である。この商慣習は消費者側の安心・安全には寄与するのだが、一方で納品期限を超えた製品は消費期限までかなりの猶予があっても返品が行われ、廃棄による食品ロス問題を引き起こす一つの原因となっていた。それに加え、この納品期限を守るために生じる輸送回数の増加やスケジュールの詳細管理、返品の際の輸送及びそれに伴う入出庫作業などは、物流業界の負担となっていた。

 10年ほど前より、この商慣習の緩和策として、製造日から賞味期限までを2等分して納品期限を延ばす2分の1ルール適用が少しずつ開始され、一部の総合大手スーパーをはじめとする複数のスーパー、生協、コンビニエンスストア、ドラッグストアにまで広がってきた。その見直しを進める過程で納品期限が3分の1のものと2分の1のものが混在し、物流及び在庫管理を複雑化させている点が問題視されていたが、物流2024年問題を見据えて、さらに首都圏を中心に展開する大手スーパー4社が加わり、企業間の対象品目の統一化をはじめとする課題へ立ち向かっている。

図表4 「3分の1ルール」等商慣習の見直し

(出所)農林水産省食料産業局 「1/3ルール等の食品の商慣習の見直し」

 また、輸送のタイミングという点で、小売から製造・卸への発注時間の見直しが、両者間合意の下で始まっている。トラックドライバー不足による車両手配が困難になるため、小売からの定番品・日用品発注時刻を、荷物到着2日前の午後から3日前の午前へ変更し、輸送リードタイムを1日延長し、さらに夜間配送を減らすという効果を狙った動きである。

 このように、議論を長く重ねてきた政府側が策定した施策や対応方策に沿って、多くの事業会社が協働し、新しい食農分野の物流が形成され始めている。

2.更なる対応策検討に向けた追加視点

 前章の通り、以前から顕在化または潜在化していた課題について検討や整理が行われ、物流・運送業界のみならず食品流通に関わる事業体が横断的な行動をとることで、我々消費者の生活が支えられている。規制適用から3か月近くが経過したが、食品や農産品が手に入りにくくなった等の不便を被った方の存在や混乱等は報道などで大きく取り扱われていない。

 ただし、現時点で大きな問題が発生していないことを理由に、ここまでの対策を継続しさえすればよいという結論を出すのは時期尚早と思われる。過去1990年代から2000年代初頭において、トラック運送業の規制が大きく緩和され、新規参入と運賃値下げを伴う過当競争が進み、物流・運送業界が荷主のあらゆる要望に応える構造が形成され、ドライバーの激務と給与処遇の低さが発生し、人手不足を引き起こした。30年近くかけて出来上がったこの物流・運送業界の構造的課題を、この数年で実施された対処法だけで解決できたと判断することはできず、中長期で解消できたかを継続的にモニターすることが重要ではないだろうか。そして、現時点では未だ挙がっていない対応策の視点や、中長期にこそ実施できる対応策の視点を以て準備することも必要なのではないかと考える。

 その上で、食農分野が物流・運送業界と関与しそうな点に着目し、改めて前章にある政策を見てみると、現在採られている対応策の多くは、物流の生産性向上へ寄与する内容へ偏り気味なのではないかと考えられる。例えば、食農分野に特有の荷待ち・荷役時間の削減に向けては、時間制限規制を設け、更に荷下ろしをドライバーだけではなく、荷物を受ける業者側が必要な機器を手配するなどの対応をしている。別の例では、ある大手の卸売市場において、トラックドック誘導時間をドライバーに伝える情報システムを市場が導入したうえで、市場関係者が共同で組織化する市場内物流組合がドライバーに代わって荷卸し業務を行う計画を立てている。これらの課題には、現在の物流量を保ちながら輸送を滞らせないことを前提した視点が多い。勿論、これまでの業務の中に何らかのムダが存在するならばそれらを排除すべきであろう。しかしながら、生産性が向上したことで輸送時間が短くなった分他の荷物の輸送へ時間が回せることになっても、ドライバーの高齢化や絶対人数の減少に歯止めをきかせることまでを解決することが出来ないため、やはり食農分野への影響を100%緩和することは難しいと思われる。よって、それらを補完する視点や方法にも目を向け、様々な対応方策を組み合わせて全体最適を実現するのも一つの動き方ではないだろうか。

 筆者が注目している視点は、「消費地としての地方の立ち位置」と「輸送量削減」である。まず「消費地としての地方の立ち位置」とは、地方が食品や農産品の生産地としてそれをどう輸送するかという議論に加え、その地方が他の生産地から見た時の消費地でもあるという両面を前提に議論することである。食品や農産品は、新鮮なうちに生産地である地方から、別の地方へ迅速に輸送されなければならず、その距離は大都市圏向けよりもはるかに遠いケースが存在するという特徴がある。長距離輸送先の地方では、自身の消費に見合う量が確保できないリスクを保有している。そして、次に「輸送量削減」だが、こちらは単純に輸送ルートのムダや輸送の全体効率の観点から生産地を戦略的配置することを指している。

3.追加視点に沿って検討しうる対応策例

 前章で挙げた「消費地としての地方の立ち位置」と「輸送量削減」については、それぞれに沿って対応策を検討することも、併せて包括的に検討することもできるのではないかと考えている。本章では、対応策の例を2つ挙げたい。

 まず一つ目は、ムダな輸送ルートの排除である。先進事例として、2021年11月に発表[3]された株式会社神明ホールディングとNTTグループの共同実験を通じた輸送量削減の共同実験を紹介したい。大手食品卸、株式会社神明ホールディングは国内有数のコメ卸であると同時に、現在は資本提携により野菜や果物も扱う青果市場の大卸(荷受)などを傘下に収めている。産地の農協は輸送距離に関係なく高値が付きそうな中央卸売市場へ向けて出荷し、卸売市場法の規定で生鮮品の荷受けを拒否できない大卸へ農産物が集中するケースがある[4]。大卸は翌朝の到着品目と量を急に知らされるため対処しきれず、その結果、需給が緩んで値崩れし、余った農産物は元の生産地から比較的近い中央卸売市場へ逆戻りすることもある。このようなある種のムダな輸送を減らし、「極力農産物を動かさない」新しい形の物流の仕組みを目指しているのが、当該共同研究の背景である。当時公表された内容によると、サイバー空間上に仮想市場を構築し、デジタルツインコンピューティング[5]を用いた予測技術により仮想の相対取引や競りを実施する。仮想相対取引では、卸売市場に集まる取引データや気象情報等による一般的な生産予測に加え、突発的なイベントや市場間の価格変動、消費動向の変化等、複雑に絡み合った要素から特徴を捉えて需給を予測し、仮想空間上で売り手と買い手を結び付ける。また、農産品の品質について正確に測定・数値化し、買い手が農産物の良し悪しが判断できるようになるという。卸売流通の伝統的な慣習を伴う食農分野の特徴に、新たなテクノロジーを組み合わせた全く別のアプローチだと考えられる。政府が掲げている商慣習の見直しという方向性にも合致する点を考慮すると、今後も動向を注目したい取組である。

図表5 農産物流通DXの全体概要

(出所)NTT西日本 News Release「農産物流通DXによる流通コストやフードロス、温室効果ガス削減へ貢献~最先端の情報通信技術の活用によるフードバリューチェーン最適化~」

 そして二つ目は、植物工場建設地の戦略的選定である。植物工場は、栽培品質・収穫量の安定性・栽培条件と品目に関する研究等を含む様々な点から話題に挙がるテクノロジーである。近年は、気候変動に対応する手段の一つとしてメディアで目にすることも多い。これまでの植物工場の活用メリットの検証ポイントに加えて、物流コストの削減という観点から建設効果というのを改めて算出することが出来るのではないかと考える。物流中継地拠点を戦略的に選定するのと同様に、植物工場建設候補地を輸送距離削減や消費地としての地方の需要を支えられる場所に選定することで、現在の物流・運送業界の負担を軽減することが出来るのではないだろうか。植物工場の収益力については更なる議論やアイディアが必要であり、事業を大きくする上では未だ研究や追加品目の検討が必要ではあるが、物流自体が将来逼迫する可能性が高い今、物流の川上にあたる生産側でできうる選択肢を一つでも多く増やすことも必要なのではないかと思われる。地方を支えるための植物工場の建設や運営となれば、特定の企業だけではなく、自治体・金融機関・既存の業界団体との協議や連携も大事になると想定される。

おわりに

 当レビューでは、本年4月の働き方改革関連法による労働基準法改正に端を発した「物流2024年問題」について、食農分野における対応策の整理を試みた。複数の官公庁による長い議論の積み上げを経て、現時点では消費者が大きな問題に直面することから回避できているように見受けられる。しかしながら、この問題は一度解決すると全て完了といった類のものではなく、継続的且つ積極的に関与しなければならない。安心且つ持続的な食料調達と消費を維持するためには、生産だけに関心を持つのではなく、生産と物流を繋げた上で目標を達成できる対策を検討し続けなければならないのである。そのためには、現在の対応策で何が満たされていてどのような視点が不足しているのか、何をすればその不足が補えるのかについて関心を高めていく必要がある。

 そしてもう一つ大事なことは、実行した対応策が実際に効果を発揮しているのか、発揮したのかという評価を実施することである。効果があれば継続し、効果が無ければ改善や変更をしなければならない。政府が公表している「物流革新に向けた政策パッケージ」(前述)の中では、施策の効果について、荷待ち・荷受け業務で削減された時間、モーダルシフトを実行した貨物量、宅配の再配達削減率等を数値化し、ポイントという形に置き換えてその効果を定量化している。但し、これらは分野毎に分かれているものではないため、例えば食農分野での効果の有無を個別に評価することが出来ない。また、それらの効果が結果としてどこにベネフィットをもたらしたかが見えにくい。

 弊社は以前、食品流通合理化に関する調査の一環として、川下から川上までの流通実態の把握手法の検討調査[6]を受託・実施したことがある。この調査の中で、地域別の農産品の生産量や消費量を政府統計で把握すること自体は比較的容易だが、具体的にどの地域へ輸送され経由して川下と川上が繋がっているのかを統計などで把握するのは困難であった。また、政府統計は数多くの事業体からの協力の下でデータ収集するため、調査開始からデータの検証、算出、結果の公表まで長い時間がかかり、即時性を満たせない。その際弊社は、品目によって流通構造が異なるためその品目が属する業界において導入・活用されているプラットフォームツールを選定し、BtoB取引の注文・輸送に係るビッグデータの提供を受けながら、複数の異なるフォーマットデータや過去の天候データなどを併せて食品取引の実態を可視化し、国内輸送や物流実態を推計することを提案した。振り返ってみると、当該調査テーマは、現状の輸送実態を推定し、何らかのアクションを加えることでどのような中長期的な変化が生じたかなどを評価するのに有効かもしれないと考える。この点についても、具体的にどのようなデータ解析ができるかを再度検証してみる必要はあるが、いずれにしても、「物流2024年問題」については、食農分野の特徴を踏まえた対応策を検討することは勿論、その対応策の効果の評価プロセス構築とフィードバックを含めた中長期的管理が存在して初めて、食農分野の物流問題対策が有効になると考える。


[1] 国土交通省「2022年度 貨物地域流動調査 品目別輸送機関別貨物輸送量(全国輸送量)」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部算出

[2] 農林水産省、経済産業省、国土交通省「食品流通の合理化に向けた取組について(第1次中間取りまとめ)」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/attach/pdf/buturyu-32.pdf

[3] NTT西日本 News Release「農産物流通DXによる流通コストやフードロス、温室効果ガス削減へ貢献~最先端の情報通信技術の活用によるフードバリューチェーン最適化~」 https://www.ntt-west.co.jp/news/2111/211105a.html

[4] 日経ビジネス「農作物に最適ルート 物流2024年問題、NTTと仮想空間で解決策」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00365/111600007/

[5] 従来のデジタルツインの概念を発展させて、多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、都市におけるヒトと自動車など、これまで総合的に扱うことができなかった組合せを高精度に再現し、さらに未来の予測ができるようにする技術

NTT 研究開発ウェブサイト「デジタルツインコンピューティングとはなにか」 https://www.rd.ntt/iown/0003.html

[6] 農林水産省 食品流通合理化に関する調査について「【令和4年度事業】川下から川上までの流通実態の把握手法の検討調査委託事業」

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