外国株式、特に米国株式市場が世界の投資家の注目を集めています。その中心となっているのが、「マグニフィセント・セブン(M7)」と呼ばれる巨大テクノロジー企業7社です。人工知能(AI)技術の進展や新製品の登場により、これらの企業の動向が市場全体を左右する状況が続いています。M7各社の現状や今後の展望、さらには米国株式市場の見通しについて、野村證券投資情報部 シニア・ストラテジストの村山誠が解説します。
マグニフィセント・セブンの中でも明暗
――マグニフィセント・セブン(M7)とはどのような企業でしょうか。それぞれの現状と今後の展望を教えてください
村山誠(以下、同)
マグニフィセント・セブン、通称M7とは、テクノロジーを中心とした米国の巨大企業7社を指す呼び名です。具体的には、アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コム、エヌビディア、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、テスラのことを指します。これらの企業は時価総額が非常に大きく、世界経済に大きな影響を与える存在となっています。
各社の現状と展望はそれぞれに特徴があります。例えば、エヌビディアは現在、人工知能(AI)ブームの真っただ中にいます。AIを実現するためのGPUなどの半導体が圧倒的に不足しており、需要が供給を大きく上回っている状況です。エヌビディアは供給を増やすために半導体製造受託企業との協力による増産などを進めていますが、それでも追いつかないほどの需要があります。
一方、テスラの状況は少し異なります。確かに電気自動車という環境対策の面で大きく成長しましたが、最近は競合他社の参入も増え、株価は軟調となっています。ただし、今後の展望としては、電気自動車だけでなく、「レベル4」と呼ばれる特定の条件(場所、天候、速度など)の下でシステムがすべての運転を行う自動運転など、AIを使用した機能が発展すれば、市場の評価が再び変わる可能性は十分にあると考えています。
アマゾン・ドット・コムも興味深い変化を遂げています。もともとEコマースの会社として知られていましたが、現在では「Amazon Web Services(AWS)」というクラウドサービスが利益の大きな柱になっています。AWSは2020年くらいから利益貢献が顕著になり、需要が急激に伸びています。それに伴って同社の株価も上昇しています。
アップルは最近まではiPhoneの買い替えがあまり進まず、株価の上昇も他企業と比べれば緩やかでした。しかし、新型iPhoneへの期待が高まると株価が上昇する傾向にあるので、今後の新製品発表に注目が集まっています。
アルファベットとマイクロソフト、メタも、AI関連の事業展開に注目が集まっており、最近は株価が回復傾向にあります。これらの企業に共通しているのは、その規模の大きさです。売上や利益の規模が日本企業の比較にならないほど巨大で、しかも実態を伴った成長を遂げている点が重要です。
次の新型iPhoneにAI実装か
――直近で、M7について注目に値するイベントはありますでしょうか
2024年9月に予定されている新型iPhoneの発売には大きな注目が集まっています。新型iPhoneにはAIが実装される可能性が高く、特に写真や動画の処理機能が大きく進化すると予想されています。
具体的には、AIを活用することで、自分の顔をよりきれいに表現したり、写真に映り込んでしまった不要な要素を簡単に取り除いたりする機能が搭載されるかもしれません。こうした機能は、InstagramなどのSNSに投稿する際に重宝されると考えられ、新たな買い替え需要を喚起する可能性が高いです。
アップルの株価は、新型iPhoneの発売を巡って一定のパターンを示す傾向があります。通常、新型iPhoneへの期待が高まり始める春から初夏頃、具体的には5~6月頃から株価が上昇し始めます。その後、8~9月にかけて実際の製品が発表され、高い評価を得ると株価がさらに上昇する傾向が見られます。
アップルがAI技術の採用で他社に後れをとっているという見方もありますが、これはアップルの戦略の一環だと考えられます。アップルは新しい技術が成熟してから採用する傾向があり、例えば初代iPhoneは当時3Gが話題になっていた中で2Gを採用しました。アップルは既に普及している技術を使って、誰でも使いやすい製品を提供するという戦略を取っているのです。2024年の新型iPhoneがそのターニングポイントになるかどうか、市場の注目が集まっています。
生成AI普及の4つのフェーズ
――今後のM7の動向を知る上で、最も重要な点は何でしょうか
最も重要な点は、やはり生成AI(コンテンツを新たに生成できるAI)の普及です。生成AIの普及は、M7各社の事業展開や市場でのポジションに大きな影響を与えると考えられます。この生成AIの普及は大きく4つのフェーズに分けられると考えています。
第1フェーズは半導体などのインフラ整備で、エヌビディアのような企業が中心となります。第2フェーズはデバイスの普及で、AI搭載のPCやスマートフォンが登場します。第3フェーズはソフトウェアの発展で、アドビやセールスフォースのような企業がAI関連ソフトウェアを提供します。最後の第4フェーズでは、AIを活用したアプリケーションやサービスが普及し、メタやアルファベットのような企業が中心となります。
現在は第1フェーズから第2フェーズに移行しつつある段階だと認識しています。各フェーズで主役となる企業は異なりますが、それぞれの段階で投資機会が生まれると考えられます。
ただし、この変化は一気に起こるのではなく、今後3〜5年程度かけて徐々に進んでいくと予想しています。投資家の皆さんには、各フェーズの特徴を理解し、長期的な視点で投資判断を行うことをお勧めします。この動向を注視することが、M7各社の今後の成長や市場での位置づけを理解する上で非常に重要になるでしょう。
マグニフィセント・セブン(M7)に新たに加わる企業は
――M7に新たに加わる可能性のある企業候補はありますか
M7の顔ぶれは固定されたものではなく、テクノロジーの進化や市場の変化に伴い、新たな企業が加わる可能性も十分にあります。特に注目されているのが、AIやバイオテクノロジーの分野で急成長を遂げている企業です。M7のくくり方自体も、今後、変わるかもしれません。
有力な投資対象の候補としては、特にバイオ関連の企業が挙げられます。新薬開発には膨大な時間と手間がかかることが知られていますが、AIを活用することでこのプロセスを大幅に効率化できる可能性が出てきました。AIは非常に多くの作業工数を必要とする分野で特に威力を発揮しますが、新薬開発はまさにその典型例と言えるでしょう。新薬開発では様々な化合物の組み合わせを試す必要があり、コンピューターシミュレーションを使っても大変な作業でした。しかし、AIを活用することでこの過程を大幅に効率化できるのです。
実際に、最近ではバイオ関連の銘柄の中で株価が大きく上昇しているものもあります。例えば、肥満症や糖尿病の治療薬を開発しているイーライ・リリーや、がん免疫療法に取り組む企業などが注目を集めています。
半導体関連企業も、業績のけん引役としての候補として挙げられます。例えば、ブロードコムのような通信用半導体メーカーです。AIの普及に伴い、データセンターや端末の需要が増加すれば、それらを接続するための半導体の需要も高まります。
また、2025年以降は、アナログ半導体やディスクリート(パワー半導体)の分野で需要が回復すると予想されています。これらの分野は、自然界の信号をデジタルに変換したり、電力を制御したりするのに不可欠な技術です。例えば、テキサス・インスツルメンツやNXPセミコンダクターズのような企業が、この分野で強みを持っています。
さらに、3D技術やVR(仮想現実)技術を提供する企業も、今後、活躍が期待されます。例えば、不動産情報を提供するコスター・グループは、3Dデジタルツイン技術を持つマターポートを買収し、不動産内覧のデジタル化に取り組んでいます。こうした技術が普及すれば、新たな顧客体験を提供する企業として大きく成長する可能性があります。
これらの企業は、現在のM7と比べると、時価総額などでみて企業規模が小さい企業も多いですが、独自の技術力やビジネスモデルなどにより、今後の成長が期待される企業群です。
なぜ巨大テクノロジー企業は米国から生まれるのか
――米国ハイテク企業の急成長を支える経営の特徴や人材戦略と、日本企業と比較した際の米国ハイテク企業の強みと特徴を教えてください
まず注目すべきは、これらの企業の多様性です。M7の経営陣を見ても、さまざまな国籍の人材が活躍しています。例えば、テスラのイーロン・マスクは南アフリカ出身、マイクロソフトのサティア・ナデラやアルファベットのスンダー・ピチャイはインド出身です。エヌビディアのジェンスン・ファンは台湾系アメリカ人です。このような多様性は、世界中から優秀な人材が集まってきていることを意味しています。これは、メジャーリーグに世界中から優秀な選手が集まってきて、魅力的な野球リーグになっているのと似ています。
さらに、米国では、資金調達手段が充実していることや、スタートアップ企業が失敗しても、経営者が再チャレンジできる環境があることが挙げられます。一方、日本では事業に失敗すると、信用の回復に時間を要し、再起が難しいケースも多いです。この違いが、イノベーションへの挑戦のしやすさにつながっていると考えられます。
こうした環境の違いが、日本に比べ、米国でハイテク企業が成長している要因と考えられます。優秀な人材を世界中から集め、その人材が持つ多様な視点や経験を活かすことができる点が、米国ハイテク企業の大きな強みとなっているのです。
※本記事において取り上げている情報につきましては、野村證券として特定の銘柄の売買等を推奨するものではございません。
野村證券株式会社投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠
1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」出演中。
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生成AI普及の具体的なシナリオや、今後成長が見込まれるセクター、新たにM7に入る可能性がある企業の詳細、2024年後半の米国株式市場のリスクについて、野村のサマーセミナー2024「森永康平氏×野村のスペシャリストが議論! 米国経済と米国株から未来を探る~グローバルマーケット展望スペシャル~」で議論する予定です。