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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が、皆さまの投資に関するお悩みを行動ファイナンスの観点から分析、解決法を探っていきます。第4回では、投資に興味はあるものの、どのぐらいの金額が必要なのかわからないという会社員の方の疑問にお答えします。
お悩み
大卒入社3年目です。いただいている給与での生活に不満はなく、毎月若干の貯金ができている状況です。貯金は現在、給与が振り込まれている銀行にそのまま普通預金としておいています。投資することにも興味がありますが、まとまったお金が必要だとも聞きます。どのくらいの金額から投資を始めたら良いでしょうか。(Dさん、25歳、会社員)
回答:「月1万円」から始める人は多い
まず、20代ながら毎月貯蓄していて投資も考えていらっしゃるということで、しっかりした考え方をされていると思います。「まとまったお金」というと、よくネットで100万円とか500万円といった数字が使われていますが、多くの場合には根拠が示されていないのであまり気にすることはありません。
もしDさんが「毎月1万円なら余裕だが、そんな少額で始める人は少ないのでは」とお考えなら、実態はそうでもありません。NISAを使って月1万円未満の積み立てを始める方はとても多く、特に成長投資枠をあまり使っていない方の中では最大の比率となっています。
参考:野村アセットマネジメント「投資信託に関する意識調査2024」
https://www.nomura-am.co.jp/corporate/surveys/pdf/20240418_52B4DE55.pdf
次に、「1万円から投資できるとしても、それでは少ししか貯まらないから、わざわざ投資する意味がなさそうだ」とお考えなら、本当に少ししか貯まらないのかどうかを考えてみましょう。この時、考えるべきは準備資金額より目標金額です。使用目的は、例えば住宅購入費(の頭金)や子供の教育費、もっと漠然と将来の余裕資金の足しでも良いのですが、数字は明確に「500万円」を目標にしてみましょう。
さて、毎月1万円積み立てで500万円貯めるのに何年かかるでしょうか。単純な複利計算(シミュレーション)によると、答えは、年利が3%でおよそ27年2か月、4%でおよそ24年9か月、5%でおよそ22年9か月となります。意外にリターンの運不運によらない現実的な年数なのではないでしょうか。これが金利ゼロで貯めているだけだと41年8か月かかります。ちなみに2万円積み立てで1000万円貯める場合、4万円積み立てで2000万円貯める場合でも(当然ながら)同じ年数です。
この結果は「みらい電卓」などを使って確かめることもできますので、興味を持たれた方は是非試してみてください。
参考:野村證券 マネーシミュレーター「みらい電卓」
https://www.nomura.co.jp/hajimete/simulation/?referer=fin-wings
「金利・複利の効果がわからない」というのは日本と米国の金融リテラシー調査で大きな差がある部分です。「だから投資しない」と言う方も多いので、この結果の理解は、日本の個人にとって特に重要です。(「行動ファイナンスと金融リテラシー」大庭、証券アナリストジャーナル2017年12月)。
投資信託協会の論文 「積立投資モデルケース“二十歳(はたち)になったら1万円”」では、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券に4分の1ずつ、捻出可能な金額の実態に合わせて年齢と共に積立金額を変えながら投資する(20代1万円、30代1.5万円、40代2万円、50代3万円)ケースで、60歳時点の投資成果は平均・中央値共に2000万円を超すという確率的な結果も示されています。「60歳で2000万円」という数字が気になる方には有用な事実なのではないでしょうか。
参考: 投資信託協会 レポート「 積立投資モデルケース“二十歳(はたち)になったら1万円” 」
https://www.toushin.or.jp/statistics/Tsumiken/reports-r/
投げ売りは合理的ではない
なお、こうしてせっかく始めた投資も続けなければ意味がありません。しかし、初心者の方ほど相場の短期的な下落にショックを受けて、すべて売って逃げ出してしまうという「投げ売り」をしがちです。統計的にはこうした投げ売りは合理的ではありません。頻繁にメディアに登場する「投資で失敗した人」の典型的な行動パターンでもあります。
投資を途中で止めないためのセルフコントロールの技術として自分を縛る「コミットメント」を工夫することや、必要に応じて信頼できる第3者の力を借りることが、「投資で失敗した人」にならないために役立つでしょう。
参考:野村の金融経済教育サイト Fin Wing「基礎から学ぶ行動ファイナンス 第9回「自分の未来にも約束させる」
https://www.nomura.co.jp/fin-wing/column/behavioral-finance9/
大庭 昭彦
野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。
本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年7月現在の情報に基づいております。