2024年8月初めには日経平均株価の歴史的な乱高下がありました。ダウ平均株価も大きく下げ、個別株に投資している方、米国株式の代表的指数であるS&P500や世界株式インデックスに連動する投資信託に投資している方などにとっては、資産の変動が激しかった期間となりました。

新しいNISAでそうしたアセットへの投資を始めたという人は、初めて大きな下落を経験したということで、不安を感じているかもしれません。株式市場が下落する局面で、資産が大きく減るのを避けるためには、どのような投資を心がけるといいでしょうか。

株式と併せて、値動きの異なる債券を持つことは資産運用のリスクを低減させる一つの方法だとされています。過去の米国株式と米ドル建て債券のリスクとリターンを比較しながら、資産ポートフォリオの考え方を野村證券投資情報部が解説します。

債券と株式は収益の源泉が異なる

――債券と株式の収益を比べたとき、それぞれどんな特徴があるのでしょうか。

野村證券投資情報部・坪川一浩(以下同)
まず、リターン(利益)の源泉の内訳が大きく異なります。債券では金利収入がリターンの多くを占めています。一方で、株式のリターンの源泉は配当収入によるものと、価格変動によるもの、つまり株価の値上がりによるものに分かれます。

(注)データは月次で、2000年1月~2024年7月。米国債券は投資適格の米ドル建て固定利付債券で、The Bloomberg US Aggregate Bond Index。米国株式はS&P500指数。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

この図は2000年1月~2024年7月、米国債券(国債、投資適格社債などの動きを表す指数)と米国株式(S&P500指数)のトータルリターンとその内訳を比較したものです。2000年1月を100としたときに、米国債券は2~3倍に、米国株式は6~7倍程度までトータルリターンが伸びていますが、そのうちインカムゲインと呼ばれる金利・配当の収益と、キャピタルゲインと呼ばれる売却差益で得られる利益の割合は大きく異なります。

この期間は米国株式が上昇したのでキャピタルゲインが膨らむ形になっているのに対し、債券市場はそれほど値動きがなく金利収入によるリターンが積み上がりました。

米国での社債と株式のリスクとリターンは

――そもそも、金融商品のリスクとリターンとは、何を意味するのでしょうか。

リターンとは資産運用で得られる収益を指します。年率のリターンとは、その金融商品で1年間運用した場合に期待できる投資利回りのことです。リスクとは直訳すれば「危険性」ですが、金融の用語では「リターンの変動(振れ幅)の大きさ」を意味します。言い換えれば、期待している収益に対するブレ、不確実性を指します。リスクが高いということは、期待リターンが得られない可能性がより高まるということです。

――株式と債券、それぞれのリスクとリターンはどんな特徴がありますか。

下のグラフは、米国国債、米国社債(投資適格債)、米国株式を5年間継続保有した場合の年率のトータルリターンとリスクを示したものです。トータルリターンは米国債券が一番低く、4%でした。米国社債のうち、投資適格債と呼ばれる格付けの高いものを中心としたものは6%、米国株式は10%です。一方でリスクは米国国債、米国社債ともに3%、米国株式が9%でした。

比較すると、米国の株式の方が米国国債、米国社債に対してリスクが大きいことが分かります。株式は期待リターンが大きい反面、価格変動リスクが大きく、ハイリスク・ハイリターンの資産で、社債はミドルリスク・ミドルリターンの商品と言うことができます。

(注)データは月次で、1996年12月~2024年7月。米国国債はブルームバーグ米国債指数、米国社債はブルームバーグ社債指数(適格社債)、米国株式はS&P500指数。指数はいずれも米ドル建、トータルリターン指数。リスクはトータルリターン指数の標準偏差。上記は将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

米国国債と米国社債の違い

――株式は、特にS&P500指数などのような様々な企業に分散されていれば、リスクが分散されていると思いがちですが、ハイリスク・ハイリターンなのですね。債券、特に米国社債は、リスクは小さめでリターンもある程度確保できるということですね。

はい、そうです。たくさんの銘柄に分散して投資したとしても、株式は総じてマーケットの動きに大きく左右され、相対的にハイリスク・ハイリターンです。株式資産は大きく値上がりする時期もあれば、元本を下回る時期もあります。

一方で債券は、満期まで持つと元本が償還される、購入した時点で満期まで得られる利率が決まっているという性質から、ミドルリスク・ミドルリターンとされます。ただし、債券は債務不履行(デフォルト)リスクはあり、特に外国債券は為替リスクがあります。

また、債券と株式は異なる動きをする傾向があり、株価が下がると債券価格が上昇し、債券価格が下がると株価は上昇する、というように逆の値動きをする時期も少なくありません。

このような点を踏まえると、株式と債券の両方を持つことは、株式や株式指数に連動した投資信託のみを持つよりも、資産全体のリスク・リターンを安定させると言えるでしょう。

――米国国債と米国社債を比べると、リターンは米国社債のほうが大きいのはわかりますが、リスクは同程度なのはなぜでしょうか。

比較している米国社債は、投資適格債と呼ばれるデフォルトリスクが相対的に小さい、格付けの高い社債です。米国が発行する債券である米国国債よりは、デフォルトリスクはあるため金利が高く設定されるのですが、実際に市場でデフォルトした経験が少ないことが一因です。また、相対的に高く安定した金利収入がクッションとなって債券単価の変動をカバーし、リターンを安定化させます。

米国では、投資家たちが好む伝統的なポートフォリオに「60・40ポートフォリオ」というものがあります。資産の60%を株式、40%を債券で持つという考え方で、上記のような理由から根強く支持されています。

実際の国際分散投資の例としては、日本の公的年金資産を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」は国内債券、国内株式、外国債券、外国株式にそれぞれ25%ずつ投資するのを基本としています。

参考:ノーベル賞の主催財団に学ぶ資産運用の考え方 野村證券投資情報部が解説

また、米国の景気減速に伴って利下げ局面が到来すると考えるのであれば、債券優位の展開になることが期待されます。実際、米国の企業年金は、利下げ局面の到来を見据えて、株式を減らして債券などへの配分を増やす動きもあるようです。

株式のリスクを低減しながら、一定の収益を得たいという方は、債券、特に米国社債を合わせて持つことを検討するのがよいでしょう。

※この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

ご投資にあたっての注意点