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トランプ2.0下での米国経済見通し

米大統領・議会選挙結果は「トリプルレッド」に

2024年の米国大統領選挙では共和党のトランプ氏が民主党のハリス副大統領を破り、再選を果たしました。議会選挙でも共和党は上院で過半数を奪還し、下院も過半数を確保する見込みです。大統領から上下両院まで共和党が制する「トリプルレッド」となったことで、トランプ氏が公約として掲げた拡張的な財政政策が実現する可能性は高くなりました。

トランプ氏が掲げている主要な政策としては、法人税減税や第1次トランプ政権時に導入した個人所得税減税の延長などの拡張的な財政政策、中国からの輸入品に対して60%、メキシコからの輸入品に対して25-100%、それ以外の輸入品に対して10-20%の関税を課す通商政策、不法移民の強制送還を中心とした移民規制の強化などを挙げることができます。

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(注)全てを網羅している訳ではない。※トランプ減税は2017年12月に成立し、2025年末に期限を迎える。
(出所)各種報道より野村證券投資情報部作成

財政面で影響が大きいのは所得税減税の延長

超党派組織であるCRFB(責任ある連邦予算委員会)は、トランプ氏が公約として掲げた主要政策は2026~35年度の10年間で、財政赤字を7.5兆ドル程度拡大させる可能性があると試算しています。

拡張的な財政政策(財政悪化要因)のうち、約半分は個人所得税減税の延長によるものです。これは25年末に期限切れとなることに対応するものであることから、増税に伴う消費の悪化を回避する効果は期待できるものの、追加景気浮揚効果は限定的であると考えられます。

一方、関税の引き上げによる財政改善効果は10年間で2.7兆ドル程度、再生可能エネルギー向け税額控除の廃止は同じく0.7兆ドル程度にすぎず、減税延長等による財政悪化を吸収するには不十分であることが分かります。

共和党は上院では53議席と過半数を獲得、下院では少なくとも過半数の218議席を獲得した模様です(11月19日時点で未確定は5議席)。共和党内には財政赤字の拡大を容認しない財政タカ派が一定数存在することから、このグループが賛成できないような大規模減税の実施は困難であるとの見方もあります。

(注)試算はCRFB(責任ある連邦予算委員会)による。単位は兆ドル、▲は財政赤字要因。
(出所)CRFB資料より野村證券投資情報部作成

関税引き上げが減税に先行する見込み

トランプ氏の政策は拡張的な財政政策による需要の喚起と移民規制の強化による労働供給の抑制、関税引き上げが組み合わされていることから相当インフレ的な政策であると言えます。

また、これらの政策のうち、減税などの財政政策は議会での承認が必要である一方で、関税引き上げや不法移民の強制送還は議会の承認を必要としないため減税に先行して実施されることが予想されます。前項で示したように、関税引き上げによる財政面での影響は対名目GDPで年間1%程度と見られることから、景気を失速させるほどのインパクトはないと考えられる一方で、短期的に物価上昇率を押し上げることが想定されます。

野村證券では平均的な実効関税率は25年半ばから上昇し始め、26年にはピークの11~12%に達するとみています。また、今回は最終需要財の関税引き上げが含まれることから、インフレ率を押し上げる一方で成長率を押し下げると想定されます。野村證券では実質GDP成長率は25年7-9月期から26年1-3月期にかけて潜在成長率(年率1.8%程度)を下回る見通しに下方修正しました、一方で、25年6月以降、1年間のインフレ率見通しを1.0%ポイント程度上方修正しました。

(注)データは四半期で、直近実績値は2024年7-9月期速報値。2024年10-12月期以降はノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク(NSI)による予想。選挙前は2024年11月1日時点、選挙後は同年11月6日時点。
(出所)米商務省より野村證券投資情報部作成

(注)コアPCEデフレーターは食品・エネルギーを除く個人消費支出デフレーター。データは月次で、直近実績値は2024年9月。2024年10月以降はノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク(NSI)による予想。選挙前は2024年11月1日時点、選挙後は同年11月6日時点。
(出所)米商務省より野村證券投資情報部作成

FRBは25年前半に2回の利下げ実施と予想

FRBは関税引き上げによるインフレショックが一巡するまでは政策金利を据え置くと想定しています。従来は24年は1回、25年中は4回の利下げを予想してきましたが、大統領選挙の結果を受けて、25年は3月に利下げを実施した後、様子見に転じるとの予想に変更しました。

堅調な経済指標を受けてパウエル議長は11月14日の講演で、「経済は利下げを急ぐ必要性についていかなるシグナルも発していない」、「現在、われわれが目にしている経済の強さにより、慎重な決定を行うことが可能になっている」と、利下げに慎重な姿勢を示しました。この点を踏まえて、野村證券では金融政策見通しを見直し、24年中は据え置き、25年中は3月と6月に0.25%ポイントの利下げへと変更しました。

金利先物を見ると、24年9月FOMC直後(9月18日)には25年末までに8回の利下げを織り込んでいた市場の利下げ見通しは、11月18日時点では3回程度まで後退しています。

(注)データは日次で、直近の値は2024年11月18日。政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利翌日物のレンジの中央値。FF金先はFF(フェデラル・ファンド)金利先物。
(出所)FRB、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)

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