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政府高官人事からみたトランプ氏の思惑

主要閣僚候補が早々に固まる

トランプ氏は2024年11月5日の大統領選挙で当選を確実にすると早々に新政権の骨格となる主要人事に着手し、以降は怒涛の指名ラッシュが続きました。11月23日の農務長官の指名をもって全15省庁の閣僚候補が出揃ったことになりますが、このスピード感は、指名候補の辞退が相次いだ第1次トランプ政権発足時とは大きく異なるといえます。

もっとも、閣僚候補の中にはニュースキャスターや元NFL選手、ワクチン懐疑派など、専門性や適正に疑問符がつく候補も並び、その人選に関しては賛否が割れています。閣僚人事は議会上院での承認が必要であり、第1次トランプ政権では全15省庁の閣僚が上院に承認されるまで、大統領就任から100日近くかかりました。さらに、就任100日後も上院の承認が必要な重要ポスト556のうち承認されたのは24人(2017年4月26日時点)と本格稼働には程遠い状況が続きました。2025年1月にスタートする新議会(上院)では、53対47で共和党が多数議席を握ることになりますが、4人の反対で人事は通らなくなります。承認手続きが難航し、政権発足後も長期にわたり各省庁の機能を十分に発揮できない状況となる可能性も考えられます。

(注)ブッシュはジョージ・W・ブッシュを指す。政治任用職のうち上院の承認が必要なポストをトラックしている。指名・就任状況は、「指名」日を大統領が上院に任命書を提出した日とし、提出された候補者全てをカウントしている。「承認」日は上院における採決を経て正式に承認された日とし、人数をカウントしている。トランプは第1次トランプ政権。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

大統領の政策課題推進を支える人事制度

米国では大統領の権限が強く、大統領の政策推進のため、閣僚などの政府要職にキャリア官僚ではない外部の人材を直接指名し任用することができる「政治任用制度」を採用しています。政治任用が多いことは米国の行政の大きな特徴といえ、現在、連邦行政機関の該当ポストの数は約4,000に上ります。また、このうち大統領補佐官や大統領顧問をはじめ、約7割のポストは上院を通す必要がありません。

第1次トランプ政権を振り返ると、1年目から不安定な政権運営が続きましたが、その中でもTPPからの離脱や移民政策の厳格化など、大統領権限で進められる政策については就任直後から大統領令を連発し、迅速に実行に移しているほか、トランプ氏の指導力や議会との調整力に懸念が残る中でも任期中の法案成立数は低いとはいえず、経済政策では税制改革や規制緩和など一定の成果を残しています。

(注)赤色は第1次トランプ政権の任期中にあたる第115会期(2017年1月3日~2019年1月3日)と116会期(2019年1月3日~2021年1月3日)。
(出所)米議会ホームページより野村證券投資情報部作成

ポストの指名順から見た政策の優先順位

トランプ氏は重要ポストの指名に際して忠誠心の高い腹心の部下から順に選定していると見られます。担当分野に分けて指名順を確認すると、国連大使や駐イスラエル大使など「外交・安全保障」担当に続き、中央情報局(CIA)長官や司法長官など「司法・情報機関」担当が指名されており、商務長官や財務長官など「経済」担当の指名が遅れたことが分かります。また、「外交・安全保障」担当者を中心に強硬派や保守派と目される人物を選定していることも特徴として挙げられます。

過去の経験では、重要ポストの指名順は大統領の政策における優先順位を反映していることが多いことが知られています。今回の指名順からは、トランプ氏の優先順位は経済政策よりも外交や安全保障政策にある様子がうかがわれます。トランプ氏は選挙公約に中国からの輸入品に60%、それ以外の国からの輸入品には10~20%の関税を賦課する政策を掲げてきました。ただし、関税はあくまでも交渉(ディール)のためのカードであり、本当の狙いは米国により有利な条件での通商協定の再締結や、米軍の駐留費の負担減といった所にあると見受けられます。

(注)※は大統領行政府(EOP)に属する上院の承認が必要なポスト。トランプ氏による指名順。2024年11月28日時点。全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種報道より野村證券投資情報部作成

官僚・公務員に対する影響力の増大

トランプ氏は次期政権では国境管理担当や国家エネルギー会議(NEC)など新設機関を設置することを明らかにしました。なかでも注目されるのは、イーロン・マスク氏がトップに指名された政府効率化省(DOGE)です。トランプ氏はDOGEに関して「政府の外からの助言や指導」を行い、ホワイトハウスや行政管理予算局(OMB)を通じて大規模な構造改革を実施すると説明しています。具体的には、国防総省、教育省、また医療の分野などにおける規模の縮小・人員削減を推進することが予想されます。

また、今回の選挙期間中、トランプ氏は2020年10月に署名した大統領令(通称スケジュールF)を復活させると宣言しました。バイデン大統領が就任早々無効にしたため実際に運用されたことはありませんが、仮に復活となれば政治任用職に新たな区分「スケジュールF」が新設され、多くの職員が公務員の身分保障が適用されない政治任用職に移行されることになるとみられます。

これらの施策からはトランプ氏は大胆な行政機構改革と官僚・公務員に対する影響力の増大を意図していることが分かります。

(注)情報は2024年11月25日時点。候補者名の横のカッコ内はトランプ氏による指名発表日。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一、引網 喬子)

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