- 米国株式市場は上昇が続き、割安感は乏しくなりつつある
- AIの普及などをけん引役に、米企業業績は過去最高益更新が続く見込み
- 2025年は、23年や24年ほどの上昇率は期待しづらいものの高値更新へ
米国株式市場は上昇が続き、割安感は乏しくなりつつあります。米国株式市場全体の動きを示すS&P500指数は、2023年に年間で24.2%上昇しました。24年は、一時的に足踏み状態となった局面もありますが、24年12月13日までに26.9%上昇し、2年連続で20%超の上昇となっています。
24年11月の大統領選挙後には一段と上昇し、NYダウやナスダック総合指数を含め、米国の主要株価指数は、軒並み史上最高値を更新しました。
上昇が続いた結果、24年12月13日終値でのS&P500指数の12カ月先予想PER(株価収益率)は22.2倍と、1986年以降の平均15.9倍を大きく上回る水準となっています。
図表1: S&P500指数の予想PER(株価収益率)推移
(注)データは週次で、直近値は2024年12月13日。PERの基となる1株当たり利益はLSEG集計による12ヶ月先予想ベース。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成
過去平均と比較すると割高と言われる一方、高いPERは長期的な金利水準の低下を反映しているという指摘もあります。
そこで、金利も含めた「イールドスプレッド」という手法で見てみます。イールドスプレッドは、EPS(1株当たり利益)÷株価で求められる株式益利回りと、金利との差で株式の割安/割高をみます。
図表2: S&P500指数の株式益利回りと米長期金利の推移
(注)米長期金利は米10年国債利回り。S&P500株式益利回りの基となる1株当たり利益はLSEG集計による12ヶ月先予想ベース。データは週次で、直近値は2024年12月13日。イールドスプレッドは債券利回りと比較した株式のバリュエーション手法の一つで、プラスの場合は株式は割高、マイナスの場合は割安と判断される。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成
2000年代半ば以降、S&P500指数の株式益利回りは5%超で推移した一方、世界的な金融危機やコロナ禍に伴う金融緩和などで、米長期金利(米10年国債利回り)は4%を下回って推移したことから、同手法で見て株式は、長らく割安な状態が続いていました。
しかし、24年12月13日時点では、株価上昇に伴い株式益利回りは4.498%まで低下した一方、米長期金利は4.398%と、両者にほとんど差がない状態となっています。今後もし、米長期金利が株式益利回りを上回れば、2000年頃の「ITバブル」期以来となります。
米企業業績は過去最高益更新が続く見込みです。米国企業の利益成長の要因は、一つには独自の技術力やビジネスモデルにより、新商品・サービスが普及し、経済の成長率を上回るペースで利益が拡大する有力企業が多いことが挙げられます。もう一つは、グローバルに競争力を発揮し、米国以外でも業容を拡大していることが挙げられます。
24年12月13日時点でのLSEGの集計では、S&P500指数構成企業のEPSは、25年は前年比+12.9%、26年は同+12.8%と予想されています。引き続きAIインフラへの投資が関連企業の業績を押し上げ、今後はAIの普及により、多くの企業が業務効率の改善などを享受する段階へと入っていくことへの期待が高いとみられます。
図表3: S&P500指数構成企業の1株当たり利益(EPS)の推移
(注)予想はLSEG集計による2024年12月13日時点の市場予想平均。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成
米長期金利は、24年12月13日時点では4.398%です。FRBは24年9月以降、利下げに転じていることもあり、野村證券では、米長期金利は26年央にかけて、4%台前半で推移すると予想しています。
米長期金利が大きく上昇せず、米企業業績の拡大が続くのであれば、イールドスプレッドでみた割安感は乏しいものの、株式市場の上昇は続く可能性が高いと予想されます。
なお、24年11月の大統領選挙で選ばれたトランプ氏が、25年1月20日に大統領に就任した後には、同氏が掲げた政策の実現の状況を見極めていきたいと考えます。直近の米国株式市場は、同氏が選挙期間中や選挙後に掲げた法人税減税や規制緩和などの政策を先取りする形で上昇しています。行き過ぎた期待には反動もあり得ることから、留意が必要です。
インフレ動向にも注意が必要です。トランプ新政権の政策は拡張的な財政政策や関税強化、移民規制など、インフレを加速させるものが多くなっています。インフレ再燃懸念で、現在は利下げサイクルにあるFRBが政策見直しに迫られる可能性が意識される事態となれば、株式市場にはネガティブとなり得ます。
図表4: S&P500指数の年間騰落率の推移
(注)図中の数字は各年の年間騰落率。2024年は12月13日までの年初来騰落率。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成
上記のようなリスクを抱えながらも、米企業業績の拡大が続くのであれば、下落局面はありながらも、 25年も年間を通せば、米国株式市場は上昇継続が期待できると考えます。
(野村證券投資情報部 村山 誠)
※野村週報 2025年新春特別号「米国株式市場」より
※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。
※画像はイメージです。