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2024年最後の日銀金融政策決定会合では追加利上げが見送られました。ただ、市場参加者のほとんどが、経済ファンダメンタルズに照らして追加利上げは時間の問題と見ています。2025年は、複数回にわたり政策金利が引き上げられ、Rf(リスクフリーレート(長期金利))も大幅な上昇の可能性は低いものの、上昇圧力を受けやすくなると考えられます。今回は、金利上昇局面において求められる企業行動について考察してみます。
企業部門全体(図上)では、既に2023年度よりRf、WACC(加重平均資本コスト)ともに急上昇といってよい状況で、ROIC(投下資本利益率)とのスプレッドは縮小しています。ただ、2024~25年度にかけ利益拡大が予想されており、ROICとWACCのスプレッドは維持できる公算が大きいでしょう。
次に業種ごとに、Rfが1%から、(かなり極端な仮定ですが)2%に上昇した際に想定されるWACCの変化と、予想ROIC(2025年度)を見てみることにしましょう(図下)。まず製造業では、多くの業種でWACCを上回るROICを達成できていません。輸出比率の高い製造業は業績の変動性が高く、現時点では業績面で苦戦しておりこのような結果になりました。また、これらの業種では自己資本の厚い企業が多く、そもそもWACCの水準が相対的に高くなっており、金利上昇がその傾向に拍車をかける可能性が高そうです。
(注1)株式益利回りは、ラッセル野村Large Cap、ROIC(投下資本利益率)と WACC(加重平均資本コスト)はラッセル野村Large Cap(除く金融)を母集団。ROICは、NOPAT/IC。ただし、NOPATは、営業利益×(1-税率)。ICは、自己資本+有利子負債。WACCは、D/(D+E)×Rf×(1-t)+E/(D+E)×(Rf+Rp)。ただし、Dは有利子負債、Eは自己資本、tは税率、Rfはリスクフリーレート(長期金利)で、10年債パーイールドの各年度ごとの期中平均。Rpはイールドスプレッドとした。
(注2)株式益利回りとWACC、リスクフリーレートの直近値は2024年度(2024年12月12日時点)。ROICの直近値は2024年12月12日時点の野村證券市場戦略リサーチ部による2025年度予想。
(注3)右図の灰色の矢印は、Rfが現状の1%(起点)から2%に上昇(終点)した場合に想定されるWACCの変化。赤い●は、2025年度予想ROIC。ソフトウエアの予想ROICは軸の上限の9%を超える水準が予想されている。WACCは、D/(D+E)×Rf×(1-t)+E/(D+E)×(Rf+β×Rpm)。Rpmは市場のRp。
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部などより野村證券投資情報部作成
一方、内需・非製造業の業種では現状のRf1%ではROICがWACCを上回る業種が多いものの、Rf2%となると心もとない業種が複数存在します。もちろん、Rfが上昇すれば、多くの事業や資産でリターンが上昇することが見込まれ、ROICも上昇すると考えられます。ただ、金利上昇に追随してROICを引き上げることができる企業(業種)とそうでない企業(業種)との格差が顕在化することも予想されます。
まとめると、30数年ぶりの金利上昇局面で企業には、事業ポートフォリオを常に適正化することなどで、①収益性(ROIC)を向上させ、②業績の安定性を向上させ(≒Rp(リスクプレミアム)の低下)、さらに③適切な資本構成を実現する(≒WACCの低下)、などの施策が求められます。
2023年3月の東証による、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請から1年半強が経過し、要請の考え方は大半の企業に浸透したとみられますが、残念ながら結果にはつながっていません。2025年度は、東証要請に対して、金利上昇圧力が企業の背中を押す展開が予想されます。